第6話 ルムガンド王国
「失礼します!」
とある城の謁見の間に、若々しい声が響いた。
声の主は、第三歩兵部隊隊長ライアス。歩兵部隊とはいえ、十九歳という異例の若さで隊長にまで登りつめた若き天才騎士は、国王の前まで歩み寄ると静かに跪いた。
ここは、ルムガンド王国。
世界で三つある人族の王国のうちの一つ。
他二つの人族との王国とは違い、人族を中心とした世界を創ろう、という風潮の強い君主制国家である。
「第三歩兵部隊隊長ライアス、参上致しました!」
「きたか、ライアス。して、女帝山の進展は如何程か」
国王の横に立っている初老の大臣は、髭をさすりながら若き隊長に応えた。
女帝山というのは、紛れもなくハクたちが住んでいる山のことである。女帝竜が住み着いた数百年前、それを見かけた人族が呼称し始めた名前である。
時が流れ、人族の間ではこの「女帝山」という呼び方が正式名称になったのだ。
「はっ。ご報告申し上げます! 滞り無く昨日、物資の運搬の為の道が山の中腹まで完成。並びに、同場所にて一つ目の炭鉱が完成致しました。第一班はこれの採掘を開始し、それ以降の班は、新たな道と炭鉱の完成へと向かい行動を開始致しました」
ライアスは片膝をついたまま、よく通る声で述べた。
三つ存在する人族の王国は、それぞれに違う特徴があり、お互いに支え合って成り立っている。
敷地を高い城壁に囲まれたこのルムガンド王国は、人族の軍事拠点であり大規模な軍隊を整えている。その性質上、唯一他種族の入国を禁止している王国である。
この王国の軍隊は、第一から第十からなる歩兵部隊、第一から第八からなる騎馬部隊、第一から第三からなる
対他種族との戦争になった時、という名目ももちろんある。だが、他二つの人族の王国にも警護用の部隊を派遣しているため、このような大規模な軍隊となっているのだ。
ちなみに、それぞれの王国に歩兵部隊二つと騎馬部隊を一つずつ派遣している。
ライアスが指揮を執る第三歩兵部隊は、有事の場合以外では主に資源の調達を任されている。
よって、今回のハク達の住む山、つまり女帝山に派遣した護衛の兵士達も、このライアス指揮下の第三歩兵部隊の兵士なのである。
また、他の人族の王国二つ。種族を問わず貿易や商売を行っており、経済の中心であるスプル王国。酪農や農業が盛んで、人族の王国の食物の地盤を支えるファラン王国。この三国で支え合い、一国のみが突出した力を持たないようにしているのだ。
「まずは予定通りであるな。引き続き、任務に励むが良い。では陛下、何かございますか?」
ライアスの報告に満足気な大臣は大きく頷き、絢爛な椅子に座する国王へと問うた。
「ふむ、ライアス。現場の者達から、竜の発見報告はあるか?」
謁見の間に、威厳に満ちたテノールの声が響く。
彼こそが第二十一代ルムガンド王国国王、ヴァン=アルルド=ルムガンドである。
彼は王位継承の戴冠式で、堂々と人族の領地拡大を宣言しており、初代ルムガンド国王かそれ以上の好戦的な国王であると広く認識されている。
また城内では、他種族の国々を占領し奴隷制度を敷くのではないか、と密かに囁かれている。
「はっ。今のところ、そのような報告はございません」
「……そうか。では万が一竜を発見した場合、これを即刻掃討し、首を持ち帰るよう伝えるのだ。竜を掃討したとあらば、他の種族共への牽制にもなる。もし、そなたら部隊のみで手に負えないようであれば、騎馬部隊二つと
「承知致しました」
ライアスは、国王の言葉に何の疑いも持たなかった。ルムガンド王国の教育課程で、他種族がいかに恐ろしいか、人族をどれだけ虐げてきたのか、という真実も虚構も含めた教育の賜物であるが故である。
ライアスは元来とても正義感が強く、弱きを助ける心優しい青年である。だが、他種族に対し偏った知識を植え付けられたため、この命令を当然であるかのように受け入れた。
「ではライアス、下がってよい」
「はっ」
大臣が退室を促し、ライアスは謁見の間を後にする。
ライアスとハクとラド。
彼らの邂逅は、すぐ目の前まで迫っている。
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