第4話 五年前
女帝竜が生後間も無いハクを託されてから、三年の月日が経った頃。
五歳になったラドは、言葉や狩猟の仕方、他種族についてなど様々なことを母から教わっていた。
「ねぇ母ちゃん、ハクって竜族じゃないよね?」
竜族以外にも種族がいる事を知ったラド。母や自分とまるで異なる体格をしているハクのことを疑問に感じるのは、当然の流れだった。
いつか来るであろうと思っていた質問をされ、女帝竜は予め用意していた答えを返す。
「そうね、私やラドは竜族。けどハクは……人族。……でもこの子は、私達と同じ竜の力を持っているの」
「母ちゃん、母ちゃん。なんで人族の子どもが家族なの? なんでハクは竜の力を持ってるの?」
普段よりも少し歯切れの悪い返答だったが、ラドに気にした様子はなかった。いくら竜といえどラドはまだ幼い。人族の子と同じように、気になったことは矢継ぎ早に質問するのである。
「そうね。どこから話そうかしら……。まず、ハクは特別な子なの。竜の力を持っているから。だから、ちょっと可哀想なのだけれど、人族の間では生きづらいだろうと思ったハクの本当の親が、私にハクを預けたのよ」
母は、これに対する真実を口にすることができなかった。
ハクは生後間もなく人族の
それは、産まれた環境が衆目を集める場所であること。また、人族は導師に対する憎悪がひときわ強い種族であること、という理由からである。
これを予期した両親は、公にはハクを死亡したことにし、大々的な葬儀をもって死を偽装した。その直後、母国から母が単身ハクを抱え、この山に住む女帝竜へと希望を託したのだった。
「それと、ハクが大きくなったら、私とラドの間で育っている限り、自分も竜族だと思うでしょう。でも、ハクがそれを受け入れられる準備ができるまででいいから、無理に人族であることを教えるのは止めてあげてね」
「はーい」
人族の女性からハクを託された時のことを、今でも鮮明に覚えている。
本当の母のあの涙も、必死な訴えも、そしてあの別れ際も。
今にして思えば、何故ハクを受け入れたのか、その理由はもはや覚えていない。他種族には基本的に不干渉を貫き、交流をしてこなかった自分が。
ラドという子を育てているからであろうか。
しかし、あの母親の涙の訴えに心を打たれたのは確かだった。
「ラド。おそらくハクは、この先生きていく上で、大変なことがいっぱいあると思うの。でもそんな時は、家族として、お兄ちゃんとして、ハクを守ってあげてね」
「うん!」
ラドとハク。二人の子ども達をいつまでも見守っていきたい。
そう想う反面、この子らがこの先に待ち受けるであろう運命を想像すると、胸を締め付けられるような心苦しさに苛まれるのであった。
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