第3話 接近

 地平線の先から太陽が昇り始めた頃、ある山へと向かう人族の一団があった。

 その人数は二百人を優に超え、女性の姿は無い。


 その一団の半分は、同じ鉄の鎧を身に纏い、槍や剣を所持している武装集団。

 もう半分は筋肉隆々の者達。皆一様に採掘などで使われるピッケルや大きな手押し車、木々を伐採する鋸や鉈を運んでいる。


「兵士さんよ、今回はいい金貰えるんだろうな? 何せあの、伝説の竜が住んでるっちゅう山を掘ろうってんだからよぉ! ……期待していいんだろ?」

 ピッケルを携え、先頭を歩く偉丈夫が隣を歩く兵士へと話し掛ける。


「目的の金属が採掘できれば、の条件付きだがな。ただ王族付きの占い師によれば、この山には間違い無く金や銀があるとのことだ」

「ほう! そいつはすげぇ! こりゃ帰ってからの酒が美味そうだ!」

 偉丈夫は高々と笑う。話が徐々に後方へと伝わり、笑い声が蔓延していく。


 それに伝染されたのか、兵士も軽口を叩き始める。

「なに、伝説の竜など所詮は昔の話。かれこれ百年近くも姿は見られていない。例え居たとしても、この人数を相手にすれば、竜の方から逃げ出していくというものであろう」

「だっはっは! そいつは違ぇねぇ!」


 こうして護衛の兵士と採掘者の集団はハク達の住む山へと進み、ついに山の麓へと到着するのだった。


—— — — —


 その頃。二頭と一人は、その一団が迫ってくる様子を山頂から見ていた。

「母ちゃん、何あれ? 人族?」

 ハクは初めて見る他種族に興味津々な様子で、無邪気に母へと問いかける。

「そうね、あれが人族。おそらく、この山の木や石を取りに来たのでしょう」

「……」


 ラドも、ハク以外の人族を実際に見るのは初めてだった。しかし彼らが携える鋭利な持ち物に対し、形容し難い不安を感じているようだった。


 ちなみに、竜族は視力と聴力に優れる。未だ竜のプラーナが未発達なハクですら、意識して見ようとすれば、十キロメートル先までハッキリと見ることができるほどである。


 初めての山への来訪者に興奮気味なハク。それとは対照的に警戒の色を隠せないラド。女帝竜は愛する子ども達の目を見ながら、いつもより真剣味を増して告げる。

「いい? 二人とも。あの人族が何をしたとしても、絶対に喧嘩してはいけません。木や石をいっぱい取ったら、帰っていくはずですから。約束できるわね?」

「えー、……わかったー」


 母からの約束事や言いつけは反故にできないハクとラド。ハクは不服そうながらも承諾し、ラドも言葉にはしなかったがコクリと頷いた。



 竜親子がそのようなやり取りをしていることなど知る由もなく、人族の偉丈夫達は森林の伐採を始めるのだった。

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