第4章:月の見る夢

「こっぴどくフラレちゃいました」

 銀輪ごんりんの暢気な声が壁越しに聞こえてくる。一緒に伝わってくるピリピリとした緊張感と相容れない銀輪の口調が空気を歪ませる。隣の部屋にいるだけの汰虎たとらですら、居心地の悪さから、目の前に並ぶ豪勢な料理に手が伸びないでいるのに、あの男は、そんなのお構いなしに、のほほんと仮面笑顔を浮かべているのだろう。容易に壁の向こうの様子が想像出来る。

 汰虎の目の前にいる鳳冥ほうめいはというと、こちらもこちらで、苦笑いこそするもんの、だからと言って食欲が落ちるということもないらしく、ガツガツ汰虎の分まで食べてしまいそうな勢いで口を働かせている。どうしてこんな人間しかいないんだろうな、ここには。汰虎はちらりと料理に目をくれた後、見えるわけでもない壁の向こうに視線を移した。


   一、楽しい楽しいお食事会


 昼、銀輪をいつまでも待っていたところで一向に食べ終わりそうにもなかった。北にいる目的が出来て晴れ晴れとした気持ちでいた汰虎はじっと待っていられなくなって、部屋の掃除をしようと思いついた。優女やさめなら掃除道具の場所を知っているだろうと考えたが、その優女の居場所がそもそも分からない。銀輪に優女の居場所を聞いてみたら、呼べば来るという返事だった。まさかと半信半疑で優女の名前を呼んでみたら、本当に優女がやって来た。どんな便利機能だこれ。汰虎は面食らう。口をあんぐり開けて固まっている汰虎の代わりに、銀輪が掃除道具の場所を聞いた。

「掃除がしたいんだそうです」

 銀輪がそう言うと、優女はちょっと目をしばたかせた後、汰虎に向かってふわっと笑った。優女は優しい人なのか、冷たい人なのか、汰虎はまだ判断しかねている。

 ついでだからと、建物内の案内をしてもらい(でも優女が普段どこにいるのかは教えてもらえなかった)、掃除道具を手に部屋に戻ってきたとき、銀輪はようやく昼食を食べ終えたところだった。両手に掃除道具を持った汰虎の顔を見るなり、逃げ損ねたとぼやいたのは、銀輪の本音だったのか冗談だったのか。少なくとも隙をついて逃げようなんて考えはないらしく、優女が新しく持ってきたお茶をすすりながら、せわしなく働く汰虎を遠目に眺めていた。


 そこに、ふらっと鳳冥が戻ってきた。刃梟はきょうから銀輪を捕まえておくよう仰せつかったという話だった。

 掃除道具を持って働く汰虎を見るなり鳳冥は大笑いした。

「ぼんやり暇を潰すことが出来ねーたあ、貧乏人の悲しい性だねえ」

「うっさい、貧乏人仲間」

 汰虎の返しに鳳冥がぐっと詰まった。じっとしていられないのは鳳冥も同じで、親近感から汰虎をからかっていたのを見抜かれて、苦笑いを浮かべた。そんな二人とは対極にある銀輪は、にこやかに仮面笑顔を見せていた。汰虎はもう一度、銀輪の感情の伴った表情を見たいと思ったが、それはなかなか難しかった。笑顔でなくても良いから、銀輪の感情が見たいと、汰虎は思うようになっていた。いつの間にやら掃除班に加わっていた鳳冥とやんややんやと喋りながら、ちらちらと銀輪の表情を見ていたが、仮面は強固な作りをしているらしかった。

「そいやーさ、字が読めないで、どうやって巻物探しに参加してたの?」

 ひとしきり、鳳冥が文盲であることをからかった後、汰虎はふと疑問に思って聞いた。官吏試験での汰虎の解答の巻物探しを夜通ししていたという話だったが、文字が分からないでどう探したのだろか。

「そんなもん、お前の願書の字を見ながら同じもん探してたんだよ」

 字なんて読めなくてもどうにかなるんだと、鳳冥ほうめいがふんぞり返った。字の読める汰虎たとらには、その感じがよく分からないが、鳳冥は文字をかなり複雑な構造の図形として認識しているのだろうか。それでもやっぱり読めた方が楽だと思うよと汰虎が言ったら、鳳冥がすっとしゃがんで目の高さを合わせて汰虎の顔を見つめた。突然の鳳冥の真顔に驚いて、汰虎は一歩引いた。

「お前さ、字、教えられる?」

「え?」

「字が読めることと、教えられることって別みたいなんだよ。ホウメイはさ、読めるんだが、教えてもらってもよく分かんねーんだ」

 銀輪ごんりんが言っていた通り、鳳冥に字を覚えようという意思はあるらしい。が、その、字の読めるホウメイってのは誰なんだ。ホウメイって鳳冥じゃん。もう一人の自分……なんてわけないし。そんな汰虎の反応に気付いた鳳冥が、ホウメイっていう名前の女官がいるのだと説明した。

「紡ぐ芽で、紡芽ほうめい

 思わずどんな字を書くのか聞いた汰虎に、鳳冥はさらっと答えた。質問しながら汰虎は、字の分からない相手に字を聞いてどうするんだと自分に呆れたのだが、思えば鳳冥は今までずっと、人の名前を紹介するときに字の説明もつけていた。

「字、分からないのに、どうして字の説明が出来るの?」

「ああ、それ。丸覚え」

 字を覚えるのと、音だけで漢字の説明を覚えるのと、どちらが大変なんだろう。そういえば、文字のない民族や時代の人は、記憶に頼った口伝で、いろんな物語やら何やらを伝え残しているんだものな、下手に字なんてない方が記憶力は高まるのかもしれない。汰虎はそんなことをぼんやり考えた。が、それはそれとして、だ。

「教えられるかどうかなんて分からないよ、教えたことないもん」

 紡芽とやらが、どんな教え方をして、鳳冥がどう分からないのかも分からないが、それ以前に自分だって人に物を教えたことなんてない。好奇心旺盛で、他の子どもたちが関心を持たないようなことにも興味を抱いて、あれこれ見聞きし、考えたり試したりしながら物事を覚えてきた汰虎は、自分がどうやって字を覚えたのかも分からない。そもそも子どもの自分と大人の鳳冥が同じ教えられ方をして、同じ覚え方をするものなんだろうか。

「何だよ、頼りねーなー」

「うっさい」

「試しに教えてみたら良いですよ」

 汰虎の二度目のうっさいが出たところで、それまで静かに微笑をたたえて二人を見ていた銀輪が、ひょいっと口を挟んだ。鳳冥がそれもそうだなと納得する。

「銀輪様、お見えだそうです」

 じゃあ、教え方を考えとくと汰虎たとらも同意したところで、タイミングを見計らっていたかのように、優女やさめが伝達に来た。誰がとは言わなかったが、その場にいた全員が、滄桑院そうそういんが『お見え』になったのだと理解した。汰虎が銀輪ごんりんの表情を見ると、変わらぬ仮面笑顔で、何を言うこともなく、立ち上がった。優女が歩き出すのに合わせて銀輪もその場から移動する。


 皇帝の居住空間となっている建物には渡り廊下一本で繋がっている離れがある。私的な客を迎えるための場所だ。そこは、先ほど優女に案内してもらって、汰虎も通路だけは見ていた。先ほどはそこに離れがあると聞いただけだったが、今度はその場所に入っていく。

 汰虎は立ち上がった銀輪を見送るつもりでいた。ところが、掃除道具をその場にほいっと投げ置いた鳳冥ほうめいの手が、そのまま汰虎の頭に乗せられた。行くぞ、と、一言。戸惑いながらも汰虎も鳳冥にならって、道具を部屋にほったらかして、銀輪たちについて行く。離れに入ると、手狭な部屋がまずあった。銀輪はそこで簡単に身なりを整えると、その奥(建物の造りから見ると表側)の部屋に入っていった。その間、銀輪は一言も発しなかった。

 しばらくして、銀輪の入っていった部屋から話し声が聞こえ始めた。汰虎が壁の向こうに神経をやっていたら、鳳冥が部屋の隅から机と椅子を運んできた。

「ほら、座れよ。夕飯は美味いもんにありつけるぞ」

 心底嬉しそうに鳳冥が言う。ここ、護衛の詰所じゃないのかなと思ったが、あえて突っ込まず、汰虎は勧められるがまま、鳳冥の向かい側の椅子に座った。優女が食事を運んでくる。何でも銀輪たちに出されている食事と同じ物だそうで、確かに見たことないような豪華な料理だった。

「こっちに客が来るときは優女が作るから、おこぼれに預かれるんだよ」

 嬉々とした様子で鳳冥が箸を握る。料理は美味しそうなんだが、普通だったら汰虎も大喜びでありつくところなのだが、今は隣の部屋にいる皇帝親子が気になって箸をつける気になれない。声から判断出来る人数は三人。一人は銀輪で、もう一人若い声がする。何となく聞いたことがある。

「今喋ってるのは春宮はるのみやだよ、龍赳子りゅうきゅうし

「つまり、刃梟はきょうか。で、今話始めたのが滄桑院そうそういん?」

 口に大きめの芋を入れたところだった鳳冥が、汰虎の質問に頷いて返事した。汰虎の腰に差してある刀を居鷹いたかに渡した人物、歴史の講義で名前を聞く人物。滄桑院が壁一枚挟んだ向こうにいる。妙な興奮が汰虎を襲う。

「親子水入らずの食事だっつーのに、楽しそうじゃねーよな」

 鳳冥が何の感慨もなくぼやく。水入らずと言っても、隣の部屋にこうして人が詰めているのだけれど。汰虎がじっと聞いていると、他愛ない世間話の後、銀輪の正室についての話題になった。

芙蓉ふようみやが頭を剃ったらしいな」

「耳が早いですね。残念でしたね、父上、ご破綻のようですよ」

 滄桑院と刃梟はあくまで穏やかに会話をしているが、親子の会話と思えないような腹の探り合いをしているような雰囲気がある。

「そうとも限らんだろう。龍欺りゅうぎにその気があれば」

 銀輪ごんりんとではなく、龍欺と公の名前呼ぶのが汰虎には少し冷たいように感じた。しかし、よくよく考えてみれば、こうして声の届く場所に他の人間が詰めていることを知っているのだから、おいそれとわたくしの名前を呼ぶわけもなかった。

 いくらか間があって、それから、冒頭の銀輪の発言に繋がる。こっぴどくフラレたと暢気に言う銀輪の声に何の感情も感じない。食わないのかと鳳冥ほうめいに促されて、汰虎たとらはお付き合いで肉料理に箸をつけた。口に入れてみると、鳳冥ががっつくのも分かる美味しさだった。しかしやはり、隣室の親子の会話が気になる。

「芙蓉の宮以上にお前の正室に相応しい人間はいないだろう」

「そうですね、尼さんが狐に嫁入りしたら楽しいでしょうね」

 銀輪の口調はあくまでにこやかだ。声だけでしか情報が得られないのが汰虎にはもどかしい。

「正室はいつかは入れなければならないことは分かっているだろう。歳穂后せいすいごうも役に立たぬし」

 ぴたり、と、空気が止まるのを汰虎は感じた。鳳冥があれまと呟いた。

「父上、あまり食が進まないようですね。そろそろお開きにしますか?」

 声の調子は変わらないが、銀輪の、それまでのらりくらりとしていたのとは、明らかに言葉の中身が違った。ささやかながらも悪意が見られる。滄桑院そうそういんが鼻で笑ったのが汰虎にも分かった。刃梟はきょうが取り繕うように別の話題に変えた。滄桑院はこれ以上この話題にこだわる気はないらしく、刃梟の話題に乗り、表面上の穏やかさが戻った。それまでと違うのは、銀輪の声が一切聞こえなくなったという点のみ。


「せいすいごうってのは誰なの?」

 隣の親子の会話への関心が薄れた汰虎が小声で鳳冥に聞く。あちらの声が聞こえるってことは、こちらの声も聞こえるってことだろうと。そういえば、鳳冥も喋るとき、それまでより声のボリュームを落としていた。

「ああ、側室、銀輪の」

「側室……いたんだ」

「十九だぜ? 側室くらいはいるだろ。ただ、子どもがいねーんだ」

 仲は良いみたいなんだけどなと言い終えるなり、鳳冥はスープをしっかり染み込ませた、あの、硬いパンを口に放り込んだ。十九ってことは銀輪は居鷹いたかと同い年なのか。汰虎は銀輪と居鷹とを頭の中で並べてみたが、いまいちイメージが湧かない。

「側室に入って何年だっけ。結構若い内に室に入ったんだが、一向にご懐妊の話がなくてな。そんで役立たず呼ばわり。それが、銀輪は気に入らねーみたい」

 そもそも子どもが出来ねーのって側室のせいとも限らねしなあと鳳冥ほうめいがぼやいた。汰虎たとらが首を傾げると、にやっと鳳冥が人の悪い笑みを浮かべた。銀輪ごんりんが子ども作り方を知らねー可能性も高くね? その下世話な発言に、汰虎は呆れる。もう少しマシな話をするんだと思ったのに。

「いやさ、真面目な話、子どもが出来ねーと決まって女が責められるけど、必ずしも女のせいとも限らねーじゃんね。男に原因があることだって考えられらあ」

 もぐもぐと、口にいろんなものを詰め込みながら喋っているとは思えないようなまともな発言。汰虎は今し方下げたばかりの鳳冥の株を元の高さに戻しておいた。

「銀輪に何かあるってこと?」

「ん、だからヤリ方を知らねーと、と!」

 得意気に知らない説を再び持ち出した鳳冥の手に熱湯がかかりそうになった。急須に湯を足しに来ていた優女やさめが手元を(無論故意に)狂わせたせいだ。あっぶねーと冷や汗をかく鳳冥の向かい側で、汰虎は株をさっき下げたよりも更に低いところに下げ直していた。どこまでも下世話なやつだ。そう思いながらも、鳳冥の真似をしてパンをスープにひたして食べてみたら案外美味しくて気に入った。

「兄者!」

「後はお二人でごゆっくりどうぞ。私はもうお腹いっぱいです」

 刃梟はきょうの声がしたかと思うと、銀輪の退出のあいさつが聞こえ、隣の部屋とこちらの部屋とを繋ぐ扉が開いた。滄桑院そうそういんの声は聞こえなかった。汰虎も鳳冥も呆気に取られ、ぼんやりと銀輪の後姿を見送る。銀輪の姿が見えなくなると、そろって優女の顔を見上げた。二人に見つめられた優女は微笑を見せるだけ。更に隣の部屋から刃梟が優女を呼んだので、無言のまま隣の部屋へと行ってしまった。

「あれって銀輪、怒ってたんかねー」

「俺に聞かれても。今日会ったとこだし、分からないよ。そっちのが付き合い長いじゃん」

「つっても二年だしなー」

 もう銀輪の姿は見えないと言うのに、通路を見ながら鳳冥と汰虎はぼそぼそ喋る。さすがに鳳冥の箸も止まっている。

「二年って長いよ」

「そりゃお子様時間では長いだろうけど」


 ずっと黙っていた銀輪の突然の退出。顔こそいつもの仮面笑顔だったが、そして汰虎は銀輪の何を知っているわけでもなかったが、銀輪らしくない行動に思えた。それを裏付けるように、汰虎よりは銀輪を知っているはずの鳳冥も驚いている。

 優女が料理を下げて戻ってきた。どうやらお隣はお開きになったようだ。

「少将殿、余った物を包みましょうか」

「お、ありがたいね。頼むよ。汰虎、お前ももらっとけば?」

 優女やさめが隣から下げてきた料理を手際良く持ち帰れるように包んでいく。優女の言う余り物を自分たちの食べ残した分だと思っていた汰虎たとらはちょっと驚く。再び箸を動かし始めた鳳冥ほうめいは、よもや自分たちに出された分は全部この場で食べていくつもりなのだろうか。

「つーか、汰虎ってどうすんの、夜」

 食べながら鳳冥が優女に聞く。優女の手が少しの間止まった。多分、優女も全く考えてなかったんだろう。

「今夜は少将殿のところで預かっていただけますか」

「あいよ。ほんじゃ、帰るかね」

 全部たいらげた鳳冥が満足そうに立ち上がる。みやげに優女の包んでくれた残り物を持って、銀輪ごんりんとは顔を合わさずに建物から出た。汰虎の荷物は、鳳冥が馬を取りに行っている間に優女が持ってきてくれた。汰虎はいろいろ思うところもあったし、銀輪の様子を見たいとも思ったが、大人しく二人の言うことを聞くことにした。馬に乗って鳳冥の家へ向かう途中、汰虎はずっと通路を歩いて行った銀輪の後姿を思い出していた。銀輪のその背中に、何らかの感情が見えたわけではなかった。ただ、か細い背中だと思った。


 まだまだ日は短く、外はすっかり暗くなっていた。鳳冥は料理を落としてしまわないよう、ゆっくり馬を走らせていたので、朝よりも周りの風景に目がやれた。空には満月を少し過ぎた月が、皓皓こうこうと輝いていた。



   二、傷負い花


 梅桃ゆすらは活発な少女だった。馬上姫まがみひめに匹敵するほどのおてんば娘だと言われていた。庭を駆け回り、木に登り、快活に日々を過ごしていた。梅桃には世界の全てが輝いて見えていた。貴族ではあるが、裕福な方ではなく、家計は厳しかった。それでも梅桃は幸せだった。

 それが、十歳になって間もないあの日、うっかり足を滑らせてしまったことで暗転した。


 梅桃の家には代々守られてきた大きな木がある。梅桃はその木が好きでよく登っていた。その日もやはり、いつも通りに、まずぎゅっと幹を抱きしめ、木の水を吸い上げる音に耳を澄ませ、生きていることの喜びで胸をいっぱいにしてから登った。お気に入りの枝に腰をかけ、大地を見下ろす。木の上からだと何もかもが違って見えるのが楽しい。

 いつもなら、心行くまで木の上から見る風景を堪能し終わったらすぐに下りていた。だけど、その日は妙に冒険心がうずいた。枝の先の方へ行ってみたくなった。座っていた場所から立ち上がり、そろりと一歩、先の方へと歩く。とても太い枝だから、小柄な梅桃が一歩進んでみたところでびくともしない。気を良くした梅桃は一歩二歩と歩いた。足の裏にごつごつとした木の肌を感じる。鳥の声が聞こえて、顔を上げた。ほんのちょっと、足元から目を離したそのとき、足が重力に引っ張られた。

 あ、と思った梅桃は、あ、と思う以外のことは何も出来ずに、落ちた。落ちる途中、小枝が顔や手足を引っかいた。無抵抗に落ちていく梅桃の右頬と下唇に激痛が走った。直後、体が地面に叩きつけられた。一瞬の静寂の後、庭中に梅桃の泣き声がこだました。梅桃を探し回っていた乳母がその声を聞きつけ駆けつけると、右頬を縦にえぐる傷を負った梅桃がいた。思わず目を背けてしまうほどに右頬の傷は深かった。すぐに応急手当がされ、医者を呼んで治療してもらったが、右頬と、下唇の切り傷が消えることはないだろうと言われた。


 その日から、梅桃ゆすらの性格は一変した。外に出ようとせず、毎日毎日鏡を覗いては、溜息をつくようになった。他の切り傷や擦り傷は数日の間にきれいに治ったのに、右頬と下唇の傷は、医者の言った通り、いつまでもいつまでも残り続けた。梅桃はすっかりふさぎこんでしまった。表情が暗くなり、ませた口振りのおしゃべりもすっかり聞かれなくなってしまった。それを見た親もまた気落ちしていた。

 梅桃はそこそこに器量が良い。だから、良い家との縁があるのではと期待していたのが、顔に大きな傷を負ってしまっては、その望みも失せた。さすがに梅桃に向かって言うようなことはなかったが、悪い話っていうのは、どういうわけか本人の耳に入ってしまうもので。梅桃は親に見捨てられたと思うようになってゆき、それがまた梅桃の表情を一層暗くした。

 十二歳になった頃には太陽すらをも恨むようになっていた。光あるもの全てが疎ましくなっていた。


 けれど転機は再びやって来る。これは幸せな出来事なのかは全く分からなかったが。

 梅桃の父親はお目見え以下だったので滄桑院そうそういんとの面識はない。にも関わらず、現皇帝・龍欺子りゅうぎしの側室に梅桃を迎え入れたいという話が舞い込んできた。家中が歓喜に沸き立つ中、梅桃は不安を感じていた。


 九歳で即位した龍欺帝は、当時からあまり評判が良くなかった。まず、身元がはっきりしない。彼は突然現れた。やっぱり評判の悪かった父・滄桑院が己の盾にするために、幼い龍欺子を強引に即位させたのは誰の目にも明白であったし、まず、本当に滄桑院の息子であるかどうかすらも怪しい。いくら皇帝とはいえ、そんな曰くしかないような人間のところへ行くことが喜ばしいことなのだろうか。

 梅桃ゆすらの不安をよそに話はとんとん拍子に進んでいく。梅桃を成人させなければならいということで髪を伸ばし始めた。十二歳の終わりに、梅桃は一般よりも早く成人の儀を受け、十三歳の秋、十四歳の龍欺帝の妻となった。

 満月の夜だった。幼い夫婦は初夜を迎えるため、今日初めて会った相手と共に寝室に入った。日中、祝いの儀式はしたが、ろくに相手の顔も見ていない。薄暗い寝室で、初めてお互いの顔を見た。龍欺帝はとても痩せた少年だった。全体的に色素が少なく、肌の白さは二年間こもりがちでほとんど日焼けしていない梅桃と競えるほどだった。これで、目がくりっとしていてまつげが長く、もう少し肉付きが良ければ美少年と言えたはずだ。けれど、残念ながら龍欺帝は美少年タイプの顔立ちではなかった。


 初夜というものが何をしなければならないものなのかは、乳母から聞いて知ってはいたが、いざ相手を目の前にすると、恐ろしかった。緊張で体が固くなる。しばらく二人はそうして、ベッドの上で正座して向き合っていた。どれくらいそうしていただろうか。長かったようにも思えるし、短かったようにも思える。

 ずっと強張った表情をしていた龍欺帝りゅうぎていが、それで、と、口を開いた。

「どうしたら良いのでしょうね」

 笑顔ではあったが、声が少しばかり震えていた。強張った表情が機嫌悪そうに見えていたのだが、ここで初めて梅桃は、龍欺帝も緊張していたのだと気付いた。自分と同じように緊張していたのだと思うと、急に親しみが湧いた。虹彩の色が薄く、瞳孔部分だけがはっきり見える龍欺帝の目は少しばかり恐くて、それが梅桃ゆすらをよけいに不安にさせていたのだが、微笑むと、とても優しい顔になる。梅桃は表情を緩めた。

「龍欺子、私は歳穂后せいすいごうと申します、よろしくお願いいたします」

 どうしたら良いのかは梅桃にも分からなかったので、自己紹介をしてみた。深くお辞儀をして、顔を上げると、龍欺帝もお辞儀をした。

「私は銀輪ごんりんです、銀色の輪。私の生まれた日は満月だったそうです」

 月をイメージして付けられた名前を、龍欺帝はとても気に入っているのだという。龍欺帝の即位式は満月に照らされた中で行われたという話ではなかったっけと、梅桃は乳母から聞いた話を思い出す。そして今夜も満月。意図してのことなのか、偶然なのか。

「私は梅桃です。梅に桃と書きます。春に咲く花の名前です」

 まさか皇帝からわたくしの名前で名乗られると思っていなかった梅桃は戸惑いながら自分も私の名前を教える。龍欺帝が、銀輪が、ゆすら、と口の中で小さく反復した。銀輪の声に大きな特徴はない。ただ、想像していたよりは高いなと思ったくらいだ。なのに、その声が自分の名前を呼ぶのを聞いて、梅桃ゆすらの胸は高鳴った。おとぎ話のお姫様が恋に落ちる瞬間ってきっとこんな風なのに違いない。根拠なく梅桃は思った。

 おとぎ話のお姫様たちは、結婚して幸せに暮らしましたで終わるけれども、自分の現実にはこの後とても生々しい行為が待っている。思い出して、一度はほぐれていた気持ちが、また緊張で固くなる。

 そんな梅桃の不安や緊張をよそに、銀輪はゆすらゆすらと、暗唱でもしているように口の中で梅桃の名前を繰り返し呟いていた。梅桃はちょこっと首を傾げる。銀輪がにっこり微笑む。

「ゆすら、ゆすらと呼んでも構いませんか?」

 少しの間、それから、梅桃の笑い声。久し振りに、笑った。梅桃は、自分でもびっくりするくらい自然に笑い声が出せていた。人って案外笑い方を忘れないものなんだと思った。


 今は座っているから分かりにくいけれど、昼間銀輪が立っているところを見て、何て背の高い人だろうと思った。背の高さから梅桃の目には銀輪が年齢以上に大人びて見えていた。だから、声変わり前の少し高い声に驚いたのが、今度は、首を傾げ、下から窺うように梅桃の顔を覗き込む仕草の子どもっぽさが可愛く見えた。年上の、それも皇帝なんて地位にいる男の人が、可愛くて、それが面白くて、梅桃はころころ笑った。

 笑う梅桃を見る銀輪ごんりんの表情が柔らかい。間違いなくこの人が好きだ。梅桃は少女らしく無邪気に自分の恋心を確信した。

「では、私は銀輪様とお呼びします」

 人と違う呼び方が出来るのは特別な感じがしてとても幸せだ。梅桃の胸は躍るのに、銀輪が少し思案する様子を見せた。途端に梅桃の気持ちも沈み込む。調子に乗り過ぎただろうか。

「様はない方が良いです」

 銀輪が遠慮がちに言った。沈んでいた梅桃の心が一気に明るくなる。銀輪は梅桃が思っている以上に梅桃を近くに思ってくれている。しかし、呼び捨てにするのはさすがに抵抗がある。だからと言って、銀ちゃんなんて言うのも馴れ馴れしい気がするし。梅桃はしばらく考え、一つの答えに辿り着いた。それは、結局、銀輪の願いを無視するものだったが。

「では、銀様ごんさまとお呼びします!」

 自分としては素晴らしい妥協案に思えた。その喜びから予想外に明るい声が出た。まるで怪我する前の自分に戻ったような感覚があった。梅桃の頬が興奮で赤らむ。目の輝きが、自分自身で見えるような錯覚すらした。銀輪が梅桃の手を握った。梅桃の胸が高鳴る。

「足がしびれました」

 恥ずかしそうに銀輪が言った。正座していて、梅桃も足にしびれを感じる。二人は照れ笑いをし、どちらからともなく横になった。油が切れて灯りも消えていた。真っ暗な中、手を握って、肩を寄せ合いお互いの顔を見つめる。とても幸せだった。その晩、梅桃はたくさんしゃべった。静かに微笑をたたえて聞く銀輪を見ていると、いろんな話をしたい気持ちになった。怪我をする前の自分の生活がどれだけ明るく喜びに溢れていたか。木から見る風景がどんなに素晴らしかったか。春の風の香り、夏の草原の柔らかさ、秋に散る葉の美しさ、冬の凍った空に浮かぶ星のきらめき。

「この二年間は?」

 微笑む銀輪ごんりんの質問に、梅桃ゆすらは言葉が出なくなった。思い出すことなど何もない、ただ暗かっただけの日々。そんな意地悪なこと聞かないで。泣き出しそうな声で言う梅桃に、銀輪は表情を変えることはなかった。意地悪。梅桃がもう一度言った。

「梅桃はきれいですよ」

「うそです」

「うそじゃありませんよ」

 銀輪が笑う。梅桃の左手を取って、自分の右頬に触れさせた。梅桃の指先が、銀輪の右頬にある皇族男性の印である彫り物に触れる。普通は十五か十六で成人するまで入れないそれを、銀輪は皇帝に即位するために九歳で入れた。

「私にも梅桃と同じものがあるでしょ? 私は醜いですか?」

 やっぱり意地悪だと梅桃は思った。傷と印とを同じにするだなんて。

「梅桃はきれいですよ」

 柔らかく微笑む銀輪。梅桃は衝動に駆られて、銀輪の胸にしがみついた。銀輪の手が梅桃の腰に回った。二人はぴったりくっついて、それからは一言も口をきかず、ただひたすら、お互いの鼓動や呼吸に耳を済ませていた。とても満たされた気持ちの中で、梅桃はいつしか眠りについた。遅めの朝を迎え、目が覚めて一番に銀輪の笑顔が見えて、幸せだった。本当に本当に幸せだった。この幸せが永遠に続けば良いのになんてことは思わなかった。当然のようにこれからもずっと続く幸せなんだと思っていたから。


 ああ、なのに、なぜ私は今、他の男の腕の中にいるのだろう。

 絶頂を迎え、落ち着くと、男も梅桃ゆすらもそそくさと服を着、何事もなかったかのように男は部屋を出て行く。男は地方出身の貴族で、一年前に宮仕えとして中心にやって来た。そこで、危険過ぎる火遊びを覚えてしまった。後宮に忍び込み、皇帝の側室と一夜を過ごす。

 梅桃は無言で男を見送ると、その場に倒れ込むように横になった。手引きをしたのは梅桃の乳母で、側室に入った梅桃の世話係として一緒に後宮にやって来た木花もくかだ。仲睦まじいようなのに一向に子をなさないことに疑問を感じた木花が梅桃に問い詰めたところ、二人の間に夜の営みがないことを知った。人でないものに嫁がされ、まともな人間の幸せを得られないでいるのだと哀れんだ木花が、中心に上がったばかりの同郷の男を見つけ出し、梅桃に引き合わせた。

 梅桃は拒むべきだったのだろう。銀輪は人が言うような化け物ではなく、ただちょっと、本来あるべき機能がなかっただけの話だと。けれど、満たされない欲求には抗えなかった。

 木花も男も、銀輪に知られていないと思っているが、梅桃は気付かれていると思っている。知った上で梅桃を許してくれているのだと。それに甘えている自分を許せない気持ちと、だからといって男との関係を断ち切れないでいる現状とに苛まされながら、この半年くらいを過ごしている。


 男との関係は一年に少し届かないくらい前からで、銀輪が寝室に入らなくなったのが半年ちょっと前。寝室に入らず、別の部屋で一晩過ごすことを、梅桃は初めの内は気にしていなかった。いつもよりも少し冷えを感じた夜、ベッドに入ろうと梅桃が言ったとき、銀輪が珍しく梅桃の意見に難色を示し、自分の意思を優先させた。そこで初めて梅桃は、銀輪に気付かれたのだと思い至った。その夜、冷えた梅桃の手をさすりながら銀輪が小さくごめんなさいと言った。その謝罪が何に対するものなのか、梅桃には分かった。だからこそ、梅桃は銀輪の謝罪に何も言えなかった。


「本日、院が上のところにお見えになるそうでございますよ」

 昼過ぎにようやく起きた梅桃ゆすら木花もくかが耳打ちした。院とは滄桑院そうそういん、上とは銀輪のことだ。

こういう情報を一体どこから仕入れてくるのか梅桃には不思議で仕方がない。木花も梅桃同様、後宮から出られないはずなのに。一度聞いてみたことがあるが、女は情報に長けていないと生きていけないのでございますよと言うばかりで肝心なところは教えてくれなかった。外から男を引き入れることが出来るくらいだから、どこかに警備の穴でもあるのだろうと梅桃は思うことにした。

「それではきっと上は今夜こちらに見えますね」

 滄桑院と会った日は必ずと言って良いほど、銀輪ごんりんは梅桃のところへやって来る。昨日、男と会っていただけに、少しばかり気まずさがあるが、それ以上に、銀輪に会えることが嬉しい。梅桃が早速身支度を整えようと立ち上がろうとしたところ、木花に袖を引かれ、浮かしかかっていた腰を下ろした。

「それが、正室を迎え入れるためのご相談のためなんだそうでございます」

 人目を憚るように耳元で囁かれた木花の言葉に、梅桃は目の前が真っ暗になったような気がした。梅桃を側室に迎えてから五年、銀輪は正室はおろか、側室を増やすことすらなかった。

「何でもお相手は院のお手引きで芙蓉の宮なんだそうでございますよ。院は上が役立たずだなことをご存知ないんでございますんでしょうか」

 それとも、役立たずだというのは上の嘘なんでございましょうか。梅桃ゆすらの耳元で木花もくかが不吉な言葉を重ねていく。芙蓉の宮の話は銀輪から直接聞いたことはない。けれど、風の噂で、それなりに関係が良いと聞いている。もしも、芙蓉の宮と銀輪の間に子どもが生まれるようなことがあったら。そんなことありえないと否定する自分と、ひょっとしたら全くありえない話ではないのかもしれないと不安に揺れる自分とか、梅桃の中でせめぎ合う。


 視界が揺らぎ、呼吸が苦しくなる。自分が手にすべき幸せを横から芙蓉の宮が奪い取っていく姿が見え、その原因を作ったのは紛れもなく自分なのだという後悔が襲ってきた。床に手をつき苦しそうに胸を押さえる梅桃を、木花が強く抱きしめる。

「大丈夫でございますよ。きっと院がご存知ないだけです。ええ、きっとそうです」

「そうかしら」

「ええ、そうでございますとも。でなければ、皇帝に正室がいないのも体裁が悪いんで、正室をひとまず入れておいて、他の男を子作り用にあてがう気なんでございますよ」

『他の男を子作り用にあてがう』、この言葉に梅桃はどきりとする。木花は何も気付く様子もなく、自説にいかにも説得力があるように思ったらしく、きっとそうに違いないと繰り返している。

『他の男をあてがう』

 正にこれは、今の自分の状況ではないか。梅桃ゆすらは今すぐにでも銀輪ごんりんの胸に飛び込みたかった。おかしな話だ。銀輪に対する裏切り行為を続けながらも、梅桃がすがりつける相手は銀輪しかいないのだから。複雑な想いを抱えながら、夜を迎えた。


 思ったよりも銀輪は早くやって来た。日が沈みきる前にやって来た銀輪は、梅桃を前にするなり、しっかりと抱きしめた。銀輪が来たらすぐにでも抱きつこうと思っていた梅桃は、抱きつくよりも先に相手から抱きしめられて、びっくりして固まってしまった。

「上、どうさなさったんですか?」

 木花だってまだそばにいるのに、銀輪がこんな風に抱きしめてくるなんて、初めてのことだった。木花が慌てて人払いをして自分も出て行った。二人きりになった後もしばらくそのまま、銀輪は梅桃を抱きしめていた。

銀様ごんさま、どうなさったんですか?」

 二人きりになったので、梅桃は呼び方を変えて、もう一度銀輪に尋ねた。銀輪がようやくゆっくりと、梅桃から体を離した。銀輪の顔に笑みはなかった。呆気に取られている梅桃の額に、銀輪がそっと口付けた。梅桃の頬がぽっと赤くなる。それを見て銀輪の表情がいつもの笑みに戻った。銀輪の笑みを見て、梅桃もほっと落ち着いた。

「きっと夕焼けがきれいですよ」

 銀輪は言うと、梅桃の手を引いて、庭側に移動した。外を見ると空が赤から藍へのグラデーションを描いていた。その中でひときわ輝く少し欠けた月が梅桃の目を引きつける。

「太陽の光を飲みきれなくなって、ああやって光を吐き出していって、月はしぼんでいくんですよ」

 同じように月を見上げていたらしい銀輪ごんりんが唐突に話し始めた。梅桃ゆすらが月から銀輪に視線を移すと、銀輪の笑みが梅桃に向いた。沈み行く太陽の最後の名残の光が、銀輪の髪や肌を赤く染める。

「月はね、太陽に憧れて、昼間太陽が出ている内に、いっぱいいっぱい、太陽の光を飲み込んでいるんです。でも、太陽の光は強過ぎて、いっぱいいっぱい飲み込んでまん丸にふくれてもまだまだ飲みきれなくて、それで、飲み込めなくなって吐き出していくんです」

 月の満ち欠けはよほど人の心を捕らえるらしく、幾つかの物語を梅桃も聞いていたが、太陽の光を飲み込んでいるという話は初めて聞いた。

「それで全部吐き出しちゃうと、やっぱり太陽の光が羨ましくなってまた飲み始めるんです。月はずっとずっとそれを繰り返してるんです、ずーっとずっと」

 銀輪が言いながらまた月を見上げた。梅桃は、赤い光が薄れていって藍色に溶け込んでいく銀輪の横顔をじっと見ていた。

「途中でやめれば良いのに、それが出来ないほどに太陽に焦がれているんですね」

 梅桃が言うと、銀輪は頷いた。目はやっぱり月を見つめている。銀輪も、月と同じように何かに焦がれているのだろうか。銀輪にとっての太陽は一体何なのだろう。梅桃は銀輪と同じように月を見上げた。こうこうと輝く月が、ひどく悲しく見えた。一生懸命溜め込んだ光を、どんな想いで手放しているのだろう。


「私と梅桃の間に子どもが出来たら良かったのにね」

 すっかり日も沈み、月の光だけが照らす中で、銀輪が独り言のように呟いた。目線を月に向けたまま、梅桃はぐっと涙をこらえた。

「その子が男の子だったら、梅桃を正室にすることだって出来ただろうに」

 諦めながら手放して、だけどやっぱり諦め切れなくてまた飲み込んで。それを繰り返しているのは月ばかりではないんだ。梅桃は月が絶望と共に吐き出した光にそっと手を伸ばした。触れ得ないそれは、生まれ得ない子どもと同じに思えた。

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