のの君の事情

ひとっこ♡

過去

「お母さんっ…やめて…っ…」

まだ、声変わりをしていない青年の声が

マンションの廊下に響き渡る。

「うるさいうるさいうるさい!!!

あんたは黙って私の言うことを聞けばいいのよ!!!」

その直後に、甲高い、少し耳障りな声も

一緒に響き渡る。



”歳時 妃名子”そう呼ばれる青年は産まれた。

産まれた前は、皆に愛されていた。

「楽しみだ。」とおじいちゃんが優しい笑顔で

囁く。

「私も楽しみよ。」とお母さんは微笑む。

…でも、そんな幸せはほんのひと時だけだった。


陣痛が始まり、痛い思いをして産んだ子。

母は一目見た瞬間言った。



「男の子…………?」



その場に今全員は前のような優しさは消え、

”歳時 妃名子”を拒絶した。

父親は毎日のように子供を殴り、

母親は一切その子の面倒を見なかった。

そのため、青年は何回も何回も病院通いし

そのうち施設に送られた。


青年は何故ここにいるのかわからなかった。

何故僕はここにいるんだろうか?

お母さんはどこだろうか?

お父さんはどこだろうか?

僕は捨てられたのだろうか?

ぐるぐると頭の中で回る。


そんな中、青年はある時見てしまったのだ。

「歳時容疑者は妃名子君を何度も殴り…」

そこには前まで目の前にいた父の姿があった。

「『女の子じゃなかったからやってしまった』

『後悔している』などと言っており…」

母もいる。


「お母さ…お父さ……なんで…?…僕が女の子じゃなかったから…僕を捨てたの?…ねぇ…お父さん…お母さん…どうして…?…」

大粒の涙が青年の頰を伝う。


その日から青年はスカートを履くようになり、

髪の毛を伸ばし続けた。

元から女の子のような顔立ちをしていたと言うこともあり、だんだん本当の女の子に見えて来た。


月日は流れ、

青年は施設を出た。

「青鷺さん、三浦さん、今までありがとうございました!」

青年…いや、彼女は喋る。

「妃名子く…妃名子ちゃん。また、何かあったら来てね?おばさん寂しいわぁ。」

「勿論ですよ!」

元気よく返事をする。

挨拶を終えた彼女は当時、この施設に来てから

変わっていない大きな門をくぐった、

門をくぐると、まるで彼女の成長を祝うように

涼しく、気持ちが良い風が髪の毛を揺らす。


「これから私は生まれ変わるんだ…!!」


まるで自分に言い聞かせるように呟いた。

そして、新しい一歩を踏み出した。

……………



彼女のバックの中に美しい光が生まれ、

一枚の紙が誕生したのはまだ気づいていないようだった。

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のの君の事情 ひとっこ♡ @hibiki_0327

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