動物愛好家、そしてギャル
《では思う存分修行してからまた来るが良い、待っておるぞ》
《ワァー!》
『守護者』の熊さん達との邂逅から数時間、俺はミクと共に町まで戻ってきていた。
クマくんに関しては、『召喚魔法』が規定レベルに達していなかったのかなんなのか分からないけど肝心の契約枠と《
《契約》
対象と召喚契約を行うための術式。
召喚魔法のレベルが上がると、契約枠の増加と同時に使用可能になる。
まだ召喚術師としての階位が低い内は戦術的価値の高いモノと契約を交わす事が難しく、もし契約を交わそうとした場合は失敗し、下手をすると相手側を怒らせる可能性もある。
しかし、交渉などにより相手が契約を承諾した場合はその限りではない。
けど約束してくれた『守護者』さんも信頼できると思っているし、彼側で不測の事態が起こらない限りクマくんとの『契約』はほぼ確定事項である。
これは母さんも喜ぶぞ!
「すみません、少しよろしいですか?」
「ん?あっはい、なんでしょう」
ルンルン気分で噴水前に向かっていると不意に男性アバターのプレイヤーに話しかけられた。
なんとなくだけど、どちらかというと俺よりミクに目線が行っているような…?
「いきなりすみません、僕はメリケンといいます」
「初めまして、ユースケです」
「よろしくですー!」
挨拶をしながら、話しかけてきたメリケンさんをサラッと観察してみる。
ところで、『B&R』には他のMMOに運営側の金策としてあるようなアバター衣装みたいな機能もアイテムも存在しない。
なのでプレイヤーが着ている装備がしっかり分かるようになっているのだが、メリケンさんはオーナレスドッグの毛皮を使った『オーナレスシリーズ』の革装備一式を身につけていた。
まったり顔で被ったテンガロンハットからブーツまで茶色な、ガッツリ西部劇風装備である。
この世界にはないが、是非ともリボルバー二丁かライフルを持って欲しい。
「それで、どうして自分を?」
「その、そちらのキツネさんを撫でさせて欲しいのです!写真も撮らせて頂きたく!」
「へ?」
頭上に吹き出しをポンポコだしながらメリケンさんが言うには、彼は掲示板にミクを出したいとの事。
彼のような動物愛好家(と、彼は自称している)たちはこのゲームの可愛らしい生物を愛でるスレを建てているらしく、ミクのような動物からジェリースライムのようなモンスターまで色々な動物を写真に収め、『撫でる』システムが適用されるなら許可を得て実際に撫で、皆で愛でて楽しもうという事のようだ。
「もちろんプレイヤーさんには迷惑がかからないようにしていますよ!1回やらかした奴がいたのでそこは徹底しています」
「へぇ、そうなんだ」
「という訳で、チェキとモフモフを許可して頂けないでしょうか!」
「そういう事なら…」
聞いたところによると、『B&R』ベータ時代に相手の迷惑を顧みずモフモフに走って他人に迷惑をかけたプレイヤーがいるようだ。
そいつはちゃんと運営に処罰を受けたようだが、本サービスが始まってもまたやらかしているらしい。
彼ら『B&R動物愛好会』としても、自分たちがやりたい事をやり過ぎて処罰を受けた人間がいるというのはすごくやり難いだろうし、そこを敢えて開示した上で頼んでくるというのは「自分達は違う!」という宣言に聞こえて好印象だ。
ちゃんとルールを作っているようだし、ミクも別に嫌がってはいないので俺は彼の申し出を承諾した。
「ウワーーッ可愛いーーー!?」
「クゥー?」
「よ、良かったですね…」
早速『撫でる』システムを使用したのか、足下のミクを招き寄せて愛で始めるメリケンさん。
ミクも満更でないのか尻尾をゆらゆら振りながら大人しく愛でられている。
メリケンさんから高速でパシャパシャ音が聞こえるのは、恐らくスクショしているのだろう。
「ごっ、ごほうび機能でジャーキーをあげていいですかっ?」
「満更でもないみたいですし、もう心ゆくまで愛でてやってください」
「ありがとうございます!!」
結局ユースケがログアウトできたのは、メリケンが満足してユースケとフレンド登録を行い、『撫でる』のご褒美機能で使える『おやつボーロ』を大量に置いて去っていった後だった。
次の日。
「お前らよく食べるなぁ…ん?」
すっかり日課になっている捨て子猫達へのエサやりをしていると、不意に子猫達が通路の陰に目を向けた。
そちらを注視してみると、誰かが隠れてこちらを見ている。
「誰だ?」
「…アンタこそ誰よ」
陰から姿を表したのは、薄く小麦色に焼けた女の子だった。
ぶっちゃけた話、顔立ちやスタイルはしっかり整っている。
黒茶色の短髪を一部白く染めており、更にイヤリングやネックレスを着用。
うちの高校の制服を着ているが、このタイプの人間との付き合いは全く無いので誰なのか分からない。
「…まあ誰だっていいか」
「いやいいのかよ」
「少なくともその子らを虐めてる様に見えないからね」
こちらへズンズン歩いてきた彼女は俺の隣にしゃがむと、焼いた肉に群がる子猫達を見つめ始める。
とりあえず、この女の子は子猫達に危害を加える気はなさそうだ。
こちらにはまるで興味がないと道端の石を見る目でこちらを見てくるのはこのタイプの人間に多い事だし、俺もそこまで彼女に興味があるわけではないからお互い様だろう。
「そうか」
「ん、どうだっていい」
「ど…まあいっか」
俺は、人が自由に遊ぶのを邪魔する気も無かったので何も言わず空になったエサの皿など荷物をまとめてその場を離れた。
こうしてここに、子猫をギャルと交代で愛でる奇妙な関係が始まったのだった。
「……ふーん」
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