《守護者》


《大事無いか、我が眷の幼子よ》


《ワァー!ワァー!!》


「でっっか…」


とてつもない気配を撒き散らしながら森の奥から出てきたのはバカでかい熊だった。

でっかい体に鎌の様な威容の爪が見え、更には無数の傷痕を見るに群れのリーダーなのだろうか。

恐らくクマくんを迎えに来たのだろう、傷の有無など気遣っている。

家族の再会、いいもんだなぁ。

……!?


《ほう、そこな人間がお前を救ったと》


《グゥッ》


キエェアァアァアァシャベッタァァァァァ!?

いやいやいや落ち着け、ここで取り乱したら場がややこしくなりかねない!

こういうファンタジー的な状況では、言葉を解す動物は歳を経た土地の主である事が多いイメージだから、ここは敬いを見せるべきか?

礼を見せるべきだけどどんな相手なのか分からないし、視線を向け難い土下座とかは不味いと思い、どっかのゲームで見た膝をついて

両手を胸の前で交差し肩に触る姿勢をする。


「如何な貴き御方とは存ぜぬも畏み畏み申す。

さぞかし名のある御方とお見受け致しました。そこの子熊と縁ある御方でございますか?」


「キュー?」


《うむ、そうだ。我が身内を救ってくれた事、礼を言う》


厳つい熊さんが腕にクマくんをよじ登らせながらこちらに向いた。

見れば見るほど凄い怖い顔だ…


《しかしやたらと旧い言い回しに口上の違和感、礼と思しき振る舞いの固さ…お主、慣れてないな。別に使わないでいいんだぞ?》


厳ついと思ってたら、優しいお言葉を賜る。

クマくんを自分の身体で遊ばせてるし、思いの外寛大な方なのか。


「申し訳ございません」


《良いのだ、私は所詮この地を護る事を命ぜられただけの小山のたいしょ…いや、森の餓鬼大将に過ぎぬ。他の『守護者』達はともかく、私は気にする事はないぞ》


ノッシノッシ近づいて来たと思ったら肩を摘まれ上へ持ち上げられた。

そのまま立ち上がると目の前の腕にぶら下がっていたクマくんが俺の身体に移ってくる。

重いなんてもんじゃなく体が持ってかれそうだけどなんとか耐えた。


「では、言葉をある程度崩させて頂きます。しかし、半分癖のような物ですので御了承下さい」


《そうか…ところでお主に礼をしたいのだが、何か欲する物はないか?》


「…俺は召喚魔法を使います。そこの子狐も私の家族ですが、俺もこの子もまだまだ未熟故護身に苦労しております。なので、差し支えなければどうか…」


《私と契約なぞ…いや、その幼子か。ならば、いやしかしなぁ》


上位存在と見れば敬語は使いたくなる。

相手が気にしないと言っても、これが我が家で15年以上暮らし身体に染み込んだ物なのだから中々抜こうに抜けないし、それで困ったことも無い。

熊さんが御礼をくれるというので当初の目的を話してみると、なんかすごく悩んでくれている。

悩むという事は何か断る要因があるのだろうけど、それも込みで考えてくれているのだろう。

有難い事だなぁ…。


《…よし、その幼子との契約を許す。ちょうど鍛錬の儀に行かせる頃だったはずだ、森だけで無く世界中の強者を相手取って帰るのも良かろう》


「有難うございます!」


どうやらこの子熊、例えばライオンだと崖から突き落として生存能力を測る、というような成人の儀に値する様な事をする予定だったらしい。

いや実際にはライオンは子を突き落としたりしないらしいけど、この熊達は周囲の自然界に存在する強者に手合わせしてもらって帰るのが慣例だとの事。

それ普通に手合わせどころじゃ無くなる様な気がするのは俺だけか?


《大丈夫だ、私の知り合いの『守護者』に頼み込んでいるから手加減はしてくれている。彼女は温厚だから、近場に彼女のテリトリーがあって本気で良かったぞ…》


「へぇ、そんな方が…」


とりあえず、今回に関しては近場だけでなく世界中の『守護者』という方達に戦いを挑みに行く、という建前で通してもらえるみたいだ。

ついでに聞いたところ気前良く教えてくれたが、『守護者』というのは強い『力』…つまり、生命力や感情の類が集まってくる場所を守護し監視する存在の事らしい。


《我等『森熊』の一族は、この森の守護者としてここに来たる全ての生命を見守り、助け、我等が主人の意に沿うべく暮らすモノだ。その様にして、この森は繁栄している》


「その主人というのは、どなたなのですか?」


《この世界を創った御方、女神アルテシア様だ》


『力』が集まる所、またその『力』を求めて様々なモノが集まる。例えその中身が善きモノであろうが悪しきモノであろうが純粋な『力』の固まりには関係ない事。

女神アルテシアは強い『力』を悪用されない様に『力』の側に『守護者』を配置し、これを管理する様に命じたのだそうだ。

なんだかテンプレだなぁ、後々『力』を手に入れた悪役とか暴走した『力』の固まりとか出てきそうだ。


《あと、アルテシア様から旅人の力量を見てやるようにと通達が来たぞ?アレは多分最近増えてきた森の侵入者の事だとも思って既に2〜3組手合わせをしているが中々のモノだ》


「おおぅそうですか…」


うん、プレイヤーの事ですね分かります。

つまり今俺はこの森のボスキャラと話してる訳だ。

いやいやこんな最初の頃に出会うボスじゃねーだろこの熊さん!

めっさ強そうなんですけど!?


《ふむ…動揺の具合を見るに、お主も旅人なのか?お主なら割とすぐに基準に達しそうだが、戦うのが苦手なら…一つ、裏技を授けるとしよう》


「おおっ、ありがとうございます!」


《うむ、その裏技とはだな…》




























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