新羅遠征

登月才媛(ノボリツキ サキ)

第1話 神託

気長足姫尊おきながらしひめのみことは夫である、仲哀天皇を愛していた。それ故に、熊襲討伐のため筑紫まで一つ返事でついてきたし、宮に閉じこもらずに、外で、夫の隣で、日ノ本のために戦うことを望んでいた。しかし、皇后は命を宿らせた身重な体。それでも、この命を育て上げ、すべての命の為に、夫と共に天下を治めていくつもりであった。しかし、ある日事は急変する。


日本武尊やまとたけるのみことの子よ、われの声を聴くがいい」

凛とした女の声が、荘厳な雰囲気を纏い、涼しい空気に負けることなく響く。

「子よ、熊襲を狙う神の子よ、神に愛されるそなたはさらに西も手に入れることができる。そなたは宝の山を賜り、天の父に愛されることができよう」

そこで、仲哀天皇はうつむいていた顔をあげて、意識のない妻の顔を見つめた。

「神よ、かしこみ申します。それは、西の海にあるという、宝の国、新羅を征討いたせというお告げでしょうか」

言い終わるなり、気長足姫尊はゆらりと鳥の羽のように崩れ落ちてしまった。皇后を受け止めた仲哀天皇は、すっかり目覚めてしまったので、戸の隙間から見える庭を見つめていた。月の無い夜の闇に染まっていた庭が青く白んで、明ける夜をただ、見つめていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る