異世界を技術で支配する――ヴェル研究所の興亡――
ちびっこ豚伍長
プロローグ1
懐かしくも新しい香りが、少し冷える風に乗せられて、私の鼻腔に雪崩れ込む。目の前には不安になる程の青い空。アニメやゲームでは絶対に表現されないような青さだ。どっと投げ出している私の四肢から、気怠さが体中にぐるぐると巡っている。
グッと身体を起こす。呆けた目で当たりを見渡すと、青い大麦がササッと風に揺られて踊っている。少し遠くには、石と木で成される竪穴式の家屋が、数軒。木でできたロングハウスが二軒。中央には、石でできた、教会の様な小さな建物。しかし、見える範囲に人間はいない。背後には緑々しい山脈。そこから続くように森が茂り、川が流れている。
分かったことは、ここは古代~中世の村。有核村のような形態をとっているのであろう。中央の小さい建物は、どう考えても村の居住地の造りとは違う。行政の手が入った、政治、もしくは、宗教的建造物である。あそこに有力者がいるな。
それにしても、一体ここはどこなのか。記憶を呼び戻そうと、うんと考えてみるが、何も覚えていない。これは、違う土地へワープしたのか。それとも、タイムスリップというものなのか。しかしだ、くよくよしていても始まらない。行動を起こそう。犬死だけは御免だ。
まずは人を探すか。ここは慎重に行動しなければならないな。もし、現地の人間との接触に失敗すれば、ここから追い出されるだろう。そうなると、色々と厳しくなる。私は今、金もなければ、連絡手段も持たない、持たざるものだ。もし、追い出されてしまうと、大使館や空港など、現状が確認し、安全を確保できる場所に行くことすら困難になる。どれ程の距離があるか?道中の治安や食料は?そのリスクを考えると、馬鹿げた態度は一切取れない。
しかし、いきなり現れた余所者を信用するものはいるだろうか。信用を得るのは大変そうだが、信用を得るというのは圧倒的なアドバンテージになる。コミュ障や人見知りはそれだけ損なのだ。
そんなことを考えつつ、辺りを見渡す。少々離れた森の入り口付近で、花を摘む少女がいた。現代で捕まるほう意味ではない。
彼女にしよう。彼女に声を掛けよう。よし、そうと決まれば行動だ。
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