4−2

「め、冥土♰コーディネーター?」


 ようやく頭がすっきりしてきた。

 わたしは口からマスクを外すと、それまで寝ていた水色の手術台の上に座り直した。

「そ。コーディネーター。わたしのもう一つのお仕事はね、死んじゃった人が冥界で迷わないようにエスコートを送ることなの。どう? 面白そうじゃない? いつでもお師匠様に会えるようになるわよ」

 美百合さんがウィンクする。

(くれぐれも気を許すでないぞ)

 お師様の最後の言葉が頭の中でリフレインする。

 だが、いつでもお師様に会えるというのは魅力的な提案だった。


「お給料はもらえるんですか?」

 バイトはしていなかった。それよりも剣術の鍛錬が大切だったから。

 でも、さすがに少しはお金が欲しい。そうしたらもっといい服とか買えるし、お肉代だって少しはパパに還元できるかも。

「そりゃ、お仕事だから当然よ。それにそんなに時間はかからないわ。あなた、時計見てごらんなさいな?」

「はい……」

 わたしは左手につけていた愛用の白いデジタルウォッチを見てみた。

 確か、武藤さんのところを出たのが六時過ぎだったから、ここに着いたのは多分六時半くらい。それからひとしきりお話ししたところで撃たれたのに、まだ七時?

「正確にはね、あなたの心臓は十秒も止まってはいないわ。すぐに処置したから。それでも向こうでお師様に甘えるには十分な時間だったでしょ」

 わたしの頬が少し赤くなる。

 見透かされちゃった。

 わたしったら、そんなにミエミエ?

「もちろん治療費はもらうけど、基本的に頂いたお金は折半にしましょう。わたし、こう見えてもお金にはあんまり困ってないし」

 いえ、お金に困っているようには到底見えません。


¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨¨


 ともあれ、こんな訳でわたしは美百合さんと組んで冥土・エスコートの仕事を始める事にした。


 冥土・エスコートならやっぱり服はメイド服だろう。

 撃たれた時、制服の前当てには穴と焦げ跡がついてしまった。

 幸い、購買で前当てを買うことはできたけど、学校の制服を何着もそんな風にダメにしちゃうわけにはいかない。

 もっと簡単に買い換えられるものじゃないと。


 わたしは次の日曜日に秋葉原に出かけると、メイド服を売っていそうなお店を覗いてみた。

 だが、サイズが合わない。一番大きなものでも身長一六〇センチくらい。

 これではなんだかエッチなメイドさんになってしまう。

「女装用の服を売っているお店に行くといいかもですよ〜」

 小柄な店員さんが助け舟を出してくれる。

 彼女はピンク色のエプロンドレスを身にまとっていた。とっても良く似合っている。

「女装用?」

「そうです。男の娘が行くところならサイズあるかもですよ」


 幸いなことに、お隣の店がその『男の娘』用のお店だった。

 自動ドアをくぐり、中に入る。

 招かれざる客だったのか、周囲の目がどことなく冷たい。

 どうやら本能的に男性か女性かを見分けられるらしい。

(なんでこんなところにいやがるんだよ)

 と言う視線を痛いほど感じながら、わたしは近くの店員さんに声をかけた。

「わたしでも着れるようなメイド服ってありますか?」

「はーい、ありますよう」

 なんだか金髪の店員さんはオカマっぽい。なんで目の下にピンクのメークをしてるんだろう。

「あなたの身長だったら、これなんてどうお?」

 店員さんがラックから探してきてくれた服はロングの黒いメイド服だった。後ろで縛るひらひらしたエプロンドレスとセットになっている。

「この服なら、このヘッドドレスがお似合いよ〜」


 更衣室に入って着替えてみる。

 うん、いい感じだ。

 ひらんっと鏡の前で一回転してみる。

 イメージ通り。それにそんなに高価くない。

 わたしは同じメイド服とペチコートを二着ずつ買うと、ご機嫌で秋葉原を後にした。

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