2-1 誰が為の創世記(2)
それでは、いくつかのヒント。
創世記の五章と、十章から十一章にかけては、ほとんどが一人数百歳も生きてきた家系の記述で、天地創造からアブラハム登場までの歴史をつないでいる。神が六日で世界を造った天地創造、土から人を造ったエデンの園、木の箱舟で全動物が生き延びたノアの箱舟、全人類が同じ言葉を話したバベルの塔。アブラハム以前の出来事は、文章がとても短く、内容も現実にあったこととは思えない。
そういった理由もあって、十一章までが歴史としては扱われない神話の世界「原初史」、アブラハムへの啓示から始まる十二章以降が「族長物語」として大別されている。
それを裏付けるかのように、創世記の登場人物はどれも高齢だが、アブラハム以降は二百歳を越えることはなく、二で割ると納得がいく数字になっている。当時の年齢カウントがそうなのか、何らかの理由で年齢を二倍に記述する必要があったのだろう。
アブラハム以降が妥当な年齢ということは、アブラハムより前の時代について作者は実際のことを知っておらず、アブラハム一族の物語に権威を与えるために、古代の神話などが後世に追加されたのだろう。つまり、事実として記録に残る主の活動は、アブラハムへのハランにおける啓示からだ。
主は、自らアブラハムに「あなたをカルデヤのウルから導き出した主です(創15:7)」と語っている。アブラハムに啓示が下ったのはハランなのに、主は何故ウルから導き出したと語り、「父の家を離れ」と、ウルを思わせる表現をしているのか。
ウルでアブラハムに主から啓示があったとは記されておらず、ハランで同じ内容を繰り返すとは考えにくいことから、主がウルでアブラハムを導いた方法は、声による啓示ではなかったということになる。ハランでの啓示は、ウルから導き出したのに、途中で止まっていたから、目的地に進むように催促したにすぎない。
アブラハムがハランを離れた理由は主の啓示で、エジプトに下った理由は飢饉で、エジプトを離れた理由はファラオによる追放だ。ロトとの別れは家畜に関するもめ事。その他、イサクやヤコブの移住についてもいちいちその理由が説明されているのに、アブラハムの家族がウルを離れカナンに向かった理由は、どうして記されていないのだろうか。全能の主はその理由を知らなかったのか、それとも言えない理由でもあるのか。
創世記の次の出エジプト記以降の書では、主はアブラハムの孫のひとりヤコブの子孫だけに目をかけ、エサウやロトの子孫とは敵対することを避け、それ以外の他民族を敵とした。宇宙の創造主が、どうして特定の民族、アブラハムの血縁だけをえこひいきするのだろう。
ここまでの話を整理する。
アブラハムより前の創世記の物語は、ただの伝説にすぎない。
父テラを当主とするアブラハムの家族は、何らかの事情でウルを出てカナンに旅だった。
移住の理由は、聖書に残すにはふさわしくないと判断されるものだった。
途中のハランに滞在し、そこでテラが死んだ。
ハランにいたアブラハムに、主はカナンに行くよう命じた。
ハランで告げたにもかかわらず、主の意識の上では、アブラハムを導いたのはウルからだった。
主は、ウルでは啓示以外の方法を用いてアブラハムを旅出させ、アブラハムとその甥ロトの子孫を特別扱いした。
勘のいい方はもうおわかりだろう。犯人を当てるには、必ず動機を調べるはずだ。主と同じように、アブラハムがカナンに行くことを望んだ人物はいないだろうか。その人物は、ハランに留まるアブラハムに当初の目的地カナンに行くように促した。その者こそ、神を名乗った存在だ。
もう一度質問します。神は誰でしょう?
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