第15話 地下格闘家Sさん<4>

Sさんの試合を見ていて、気になった場面があった。


しかし、これは実際に自分の闘い方を通してでないと伝わらないと思った。


口で言うだけでは、「元プロかなんか知らんけど、お前はどやねん!」って、思われると感じたからだ。



最初は3週間後という話だったけれど、Sさんの肋骨の具合が芳しくなかった。


なので、どうせやるなら完全な状態でやりたかったので、この日になった。


私の闘う姿を見て、何か感じてくれたらと息子も連れて行った。


支援者所有のとある雑居ビルの3階にその格闘技団体の練習場があった。


大きな日の丸を掲げ、なにやら不穏なオーラを醸し出していた。


週に1度、元日本ランカーのプロキックボクサーの指導で練習していた。


「あーあのボクサーの方ですか!」


私が挨拶に行くと、代表者だと思われる方が、にこやかに挨拶してくれた。


Sさんが、私との経緯を話していたらしい。


フロアには、10人程が集まっていた。


入れ墨を入れている目付きの鋭い若者たちが、一斉にこちらを見た。


皆、裸足で練習するようだった。


けれど、私はリングシューズでないと本来の動きができないと思い、イキっていると思われるかもしれないけれど、リングシューズを履いた。


しかし、下の床との相性が悪いのかツルツル滑った。


なので、またリングシューズを脱ぎ、結局、裸足になった。


回りの人は、きっと「どないやねん!」と、突っ込んだことだろう。


「エレジーさん、パンツでイイですよ。」


リングシューズを脱いで、裸足で動いたら、トレパンの裾が長くて、動きにくそうにしていた私に、Sさんが言ってくれた。


少し抵抗があったけれど、結局、パンツ一丁になった。


そして、ミット打ちが始まった。


「次、エレジーさん行ってください。」


ミット打ちが終わったSさんが言った。


多分、皆、元プロボクサーの私がどんな動きをするのか注目していただろう。


こうやって、拳を握って動くのは何年振りだろうか?


何年前かさえわからないくらい久し振りだった。


最初は、ミットを持つトレーナーの指示通りに打ち込めていた。


「やっぱり速いな。」


回りの人間の声が耳に入る。


しかし、しばらくすると、トレーナーの指示からワンテンポ遅れてじゃないと反応できなくなった。


早々とガス欠になってしまった。


(ああ・・・また、この場所に戻ってきたか・・・)


昔の苦しかった、あの頃の記憶が甦る。




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