工藤亜理沙の操船指揮

僕は一人で自分のすべき事を考えている。

そうして恐怖と戦っている。

綾音さんが気を利かせてブリッジの音声を流してくれている。


「みんな良い?岩崎瑞樹を助けるわよ。綾音オートクルージングモード」

工藤亜里沙の声が聞こえる。

「はい。オートクルージングモードに入ります。接触まで30分です」

この控えめで、でも芯の強い声は綾音さんだ。

「工藤さんの判断は、精密な操船が必要とされる接舷作業に必要な事ですが、少し紗枝さんと光帆さんの訓練もしましょう」

「まずは光帆さん、オペレーター席にある機械を操作しないでくださいね」

「紗枝さんも操縦かんを触らないでくださいね。宇宙船と平行に並ぶ時のコースは?」

「基本的に対象となる船の後方から回り込み、慣性航行で横に並べ最低限の逆噴射で相対速度をゼロにするのだと思います。対象の側でジェットやエンジンのエネルギーの放出は対象にダメージを与えるとともに、エネルギーの持つ作用反作用の法則で対象の船を動かす可能性があるからです。」

「はい正解です」

「光帆さんは最短距離と安全に考慮した航路図を用意して、紗枝さんはそのコースを最新の注意を持って航行しなければいけません。訓練生がするには高度かつ緊急事態なので綾音さんに全てをお願いします。こうした指示は艦長が命令で出すと言う事を工藤さんは覚えておいてください」

「分かりました」

緊張した光帆さんの声が聞こえる。

「はい」

力強い声だ。これはきっと律子さん。

「みんな覚えておいてね。助けにいくわよ」

どこまでも元気な工藤亜理沙の声がブリッジに響きわたる。

僕は少し緊張が紛れたかなと思う。さぁ船外活動の覚悟を決めよう。

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