-Phase.07- Retry:学校をよりよい場所にしよう!
63 ポリティコ・サバド
「今日はお集まりいただいて、ありがとうございます。2年の柴田です」
俺は緊張気味に頭を下げる。
3つ繋げたテーブルを囲むようにして、10人ばかりの男女が座っていた。
土曜日の午後、学校からほど近いファミレスの片隅でのことだ。
「すでにご存知とは思いますが、今回の生徒会長選挙に立候補しました。つきましては皆さんにご意見を頂こうと思いまして、こうしてお願いした次第です」
集まったのは文化系クラブの部長たち。
男衾の
面々の顔を見渡したが、どれも様子見という感じ。
それでもまだ繋がりがある人達なので、険悪なムードではない。
「意見っていってもなあ」
腕を組んだ生徒が首を傾げる。
「各部活でいろいろとあると思うんですよね。鳴子会長が2期務めたことでかなり予算が削られて、活動が縮小しているというのは事実かと思いますが」
「まあ、僕たちは鳴子君と同学年なわけだし、当時のことは覚えてるよ」
「前期予算配分のとき、その頃の部長たちがかなり憤慨していたからね」
「かなり減らされていましたか?」
「実績があるところでも減らされていたし、なによりうるさくなったよね」
「というと?」
「うちの場合だと、いままで視聴覚室とか気軽に使えてたんだけど、いちいち生徒会に使用申請書を出せとか言われてね。仕方ないから出すんだけど、あっちも仕事が増えてるもんだから許可が遅いんだよ。あれは参るね」
同じ経験があるのか皆うなずく。
「風紀委員会まで吸収したもんだから、手が回ってない」
「あれ優先順位付けてるよな? 運動部はグランドとか体育館で縄張りあるし、体育会で話し合いしてるからともかくとして、うちいっつも音楽室のブッキングで吹奏楽に取られるんだよな。文句言いに行っても、担当が稲森だし」
「稲森は感じ悪いよなー」
「あいつはダメダメ。はなから話聞く態度じゃない。まだ鳴子のほうがマシだって」
なんとなく誰のことかは分かるが、念の為。
「あの、稲森って?」
「稲森野乃花」
「ああ」
やっぱりノノさんか。
誰に対してもあんな感じなんだな、あの人。
「後回しにされて毎回待ちぼうけだと、だんだん部員が来なくなるんだよ。かといって狭い部室で、なにをするってわけにもいかないし」
「そうそう! 仕方ないから部室棟の前で集まったりすると、風紀委員がすっ飛んでくんの。院はとくにうるさい!」
「──僕は帰宅部なんであまり知らなかったんですけど、院は厳しそうですね」
「厳しいなんてもんじゃないって! うちなんて部室に全員入り切らないから仕方なく食堂で待ってたのに、用のない生徒はすみやかに下校して下さいとか言ってきてさあ。生徒会のせいでこうなってるんですけど!って大喧嘩したけど、あの子ぜんぜん引き下がらないんだから」
「院は鳴子の客寄せパンダだから」
「自分の立場勘違いして、調子乗ってるんだって」
華子もけっこう嫌われてるんだな。
利害関係が絡んでくると、華子ほどの人気者でも呑気に見ていられなくなるのは当たり前か。
「その院さんですけど。もし次期生徒会長となった場合、どうなると皆さんはお考えですか?」
俺が問いかけると、みな一様に渋い顔をする。
「そりゃ、鳴子の路線で行くだろ」
「1年からすごい人気だし」
「なにも分かってないからしょうがないよ」
「学校側も口出しはしないけど、院は顔も良いし、外部向けにも見栄えのする看板なんじゃない?」
「院の親がかなり寄付してるから、そりゃね」
その話は初耳だ。
「寄付、ですか?」
「そう。院の家は親も爺さんも卒業生だし、今の学園長と爺さんは同級生だから、仲いいらしいよ」
「そうなんですか。知らなかったです」
「私立は家族経営のところが多いし、そういう繋がりを大事にしとかないとってことなんだろうね。うちみたいに明治からある学校ならなおさらだよ」
「そこから大学もあるし、昔なんてズブズブだったって話」
「推薦で有利とかですか?」
俺が聞くと、女子生徒は手を振る。
「あー、そんなレベルじゃなくて、もろ裏口入学。大学の教授ごとに何人って持ち枠が決められてて、コネだの謝礼だので毎年押し込むの。もちろん今はバレるとマズいからないらしいけどね」
「うちの親もここの卒業生だけど、その頃はあからさまだったらしいね。警察関係の子供がいたら、学校職員の違反切符なんて電話一つでみんなもみ消しだよ」
「古い学校だから各界に繋がりがあるし、内輪って意識も強いんだろうね。そういうのが今も続いてるってのは、3年もいれば分かるよ。伝統ってのの良いところと悪いところ両方ね」
さすがに学校経営レベルの話は俺に背負えるもんじゃないが、一つそれに繋がることがある。
「──やっぱ中等部からの内部進学生と外部って違うんですか?」
たしか院は内部進学生だ。
鳴子やノノさんはどうなんだろう。
「そういうのもあるかもなあ」
「たしかに中等部から入るのはやっぱ親が卒業生とか、いいところのやつ多いイメージあるな」
「なんとなく雰囲気違うよね。固まってるっていうか」
「中等部のクラブとも交流あるから、そりゃなあ」
「たしかお前って中等部からだよな」
そう言われたのは
「んー、たしかにそれはあるねえ。自分たちこそエリートだ、みたいな? まあ僕は真の美に目覚めて、そういう3次元の凡俗からは離脱したわけだけど」
まあ、オタクと格式ある伝統ってのは相性悪いかもな。
「でもまあ、内部進学しない生徒もいるわけだし、全体数でいえば少数派だよ」
「鳴子会長も内部進学ですか?」
「いや。でも稲森はそうだね」
「なるほど。それで内部進学生には支持されてるんですかね?」
「支持されてるねえ。途中で入ってきた外部生徒に浮ついた雰囲気を出されるより、厳しい感じのほうが古参として彼らのプライドが満たされるんだろうね」
「鳴子はそういうコネ作るのうまいよね」
「削った予算を懇親会だのに回してるって話もあるし」
「懇親会って、ただ飲み食いするだけじゃないの?」
「高校だけじゃなくて、大学のサークルとも交流してるよね。見学会やったりさあ」
「まあそれは進学する身としては、助かる面もあるんだけど」
「でもオープンキャンパスだってあるし、べつに生徒会に旗振りしてもらわなくたって、部活同士でも交流してるよ」
「そんなことに金使うなら、こっちに返せって話だわな」
とまあ、こんな調子でその後も部長たちの愚痴や噂話が続いた。
それを聞く限り、やはり今の生徒会と華子に良い印象を持ってはいないようだ。
とはいえ。
「じゃあ俺を支持して下さい」と切り出しても、「はい、わかりました」とは行かないだろう。
これまで部活に情熱を注いで、部長にまでなった人たちだ。任された責任もある。まず話を聞いて、俺がこの人達にどういうものを提供できるか考えるべきだ。
それにこうして話を聞いているだけでも、いろいろと新しい情報があったし。
「──今日はありがとうございました。こちらからも声掛けはするつもりですが、みなさんからも他の部長さんに声をかけてもらえませんか? いろいろな話を聞きたいので」
俺はお礼を言って、近々また集まる約束をした。
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