44 黒星ボン・キュッ・ボン
ほうほうの体で家に帰った俺は、すぐさまPCを起動する。
するとすぐさまエレクトラが俺の目の前に現れた。
「じばだざぁーんっ!!!」
鼻水垂らして泣きながらエレクトラが俺に飛びかかってくるが、もちろんするっと抜ける。
「ふう……よかった」
俺は崩れるようにベッドに倒れ込んだ。
立ち上がったエレクトラは、その俺をぽくぽくと殴る。
まあ、これも当たらないんだけど。
「ふぐぅ……! 私を置き去りにするなんて、あんまりですっ!」
「あの状況じゃ仕方ないだろ!」
「私、私、捨てられちゃったのかと思いましたよっ!」
「悪かったって! 俺も
「ええっー!? 大丈夫ですか? お怪我はありませんか!?」
「見ての通り。スイキョウのおかげでな……」
一触即発だったけど。
俺はリョウメンというあの顔が二つある
「で、どうする。スマホの場所わかるんだろ?」
「柴田さんを襲った人たちはいま病院です。警察が来ていましたが、事故として終わりそうです」
「そうか……」
俺の拉致未遂事件として警察が動けば、あいつらは逮捕されるだろう。そのほうが俺の安全も確保されるし、財布とスマホも無事返ってきそうではある。
しかし、学校での事件があってまだ3週間だ。
証拠はないにしてもまた事件に巻き込まれたなんて知れれば、面倒なことになるんじゃないだろうか。どちらも事故にしては、不自然すぎる。しかも共通する当事者に、俺とあの野郎がいる。
だいたい警官に事情聴取されるってのは、気分のいいもんじゃない。隠し事があるならなおのこと。
「まあ、諦めるしかないか……」
かなり痛い。
スマホはロックを掛けてあるが、財布にあるカードのどれかから俺の家の場所もバレているかもしれない。
いや、俺はバイト帰りに狙われている。つまり、付けられていた。家も知られていると思ったほうが良い。
また拉致されそうになったら、スイキョウは守ってくれるだろうか。裏路地とはいえ、あんな繁華街のど真ん中でやからす奴らだ。油断できない。
「柴田さんがそうおっしゃるなら従いますけど。財布も惜しいですが、スマホがなしでどうするおつもりですか?」
「それは古い型のヤツあるから、そっちで機種変更手続きするしかないな」
「……やはりスペックは低いんですか?」
「期待しないほうがいいぞ」
「えぇ~……」
口先をとがらせて不満顔をするエレクトラ。
「俺だってまだ端末の分割払い済んでないんだぞ! 財布も盗られちまうし、定期券どうするんだよ! マジで毎日2時間歩いて登校……」
想像するだけで目の前が暗くなる。
親父にも小遣いとか前借してるし、失くしたって言いにくい。
「はあ……」
俺はヘッドマウントディスプレイを装着する。
「ちょっと! ここまで来て現実逃避ですかっ!? ちょっとは成長したと思ってたのに、いくら何でも命にかかわることですよ!」
「だからこうするんだろ……」
俺はゲームを起動した。
☆★☆★
翌日の日曜。
俺は
「では、機種変更手続き料と、端末購入サポート解除料、1年未満でのプラン変更の解除料を合わせまして、3万8000円になります」
「さっ……」
なんだそりゃあああぁぁぁぁ!!!
俺の端末は、VR用ヘッドマウントディスプレイと連動するサービスが使える特殊なものだ。最新機種なので購入割引もある。
端末だけ持ち逃げの可能性もあるので分割払いの割引がなくなるのは予想していた。プラン変更もそういう特殊機能に対応しているものなので、古い端末じゃ適応されないのも納得できる。
しかし、その割引サービスを変更するのにまで料金がかかるってのは知らなかった。いや、あの細かい文字びっしりの契約書見りゃあるんだろうけどさ!
よく考えればあの端末だって当時品薄だったのを、確実に確保できるっていうんで契約したわけだし、そういう転売を防止する意味で解除料金てのはあるんだろうが……。
理屈はわかるが、まったく納得できん!
「足りんな」
横で男衾が財布の中を見て言った。
あったとしても、さすがに払うつもりねえよ!
くそ!
友達に金借りるつもりで同伴して貰って、足りなくてすごすご帰るとか惨めすぎ!
それでも一切表情を崩さずに笑顔だったショップのお姉さんすごいね!
「……とりあえず定期代だけ貸してくれ」
「ああ」
ICカードならネットで手続きもできるがまた申し込まなきゃいけないし、前の定期があれば券売機で継続できるんだが、新規になってしまうから売り場のある駅まで行かないといけない。
あー、めんどくさすぎる!
ここの駅に売り場あるし、もうこの足で定期だけ買いに行こう。とりあえず磁気カードでいいや……。
「じゃ、学生証を見せてもらえるかな?」
駅員さんのにこやかな笑顔に、俺は凍り付いた。
☆★☆★
「いやー、清々しいほどに連戦連敗でしたね!」
「勝利を知りたい……」
俺はベッドでふて寝している。
「つうか、お前電脳の女神なんだろ? ICカードとかささっと書き換えるなり、偽造しろ。あと俺のネットパスに1兆円振り込めよ!」
「おっと。負け犬がなりふり構わなくなってきましたよ? いっそ柴田
「うっせえ! 名前に送りがな入れんな! だいたい誰のためだと思ってんだよ……」
俺がブツブツ言うと、エレクトラがかがみ込んで俺を覗き込む。
「冗談ですよ~。柴田さん、スネちゃったんですかあ?」
ちょっとドキっとする。
朝気づいたのだが、エレクトラのやつ、また育ってる。
昨日の晩はそうじゃなかったんで、こいつは夜中にバージョアップされるらしい。ソシャゲかよ。
「んふふ~?」
もう見た目は俺と同い年か、上ぐらいだ。
とくに胸。
あんなチンチクリンの盆地だったのに、山。
丘じゃなくて山。
いまは逆さなんで鍾乳石。
「……お前、自分で育ってるのわかってるだろ。わざと俺を挑発してるよな?」
「ふっふふー、バレてしまいましたか」
「うぜえ……」
「だから言ったじゃないですかぁ。ボン・キュッ・ボンになりますよって」
たしかにゴスロリ服では隠せない色気を放っているが、こいつに興奮したりしたら人として終わる。
俺はエレクトラの方を見ないようにしながら起き上がり、PCで検索をかける。
「あれ? 調べ物ですか?」
「ちょっと思ったんだが」
俺は利用している鉄道会社のサイトで「よくある質問」をクリックする。
「……IC定期を紛失した場合、紛失・盗難デスクにて磁気カードを再発行いたします」
「おおっ! やりましたね、柴田さん!」
「おい、電脳の女神! ちょっとは仕事しろ!」
「エヘペロ」
明日とにかく学校で学生証の代わりになるものを発行してもらって、帰りに寄ろう。
「あと思ったんだが。このまま
「ひぃっ!」
ささやかながらエレクトラに仕返しをして俺は気を紛らわせた。
☆★☆★
翌朝。
俺は電車で男衾&里中夫妻に合流し、さらに
ボッチとか言ってられないリア充っぷりだが、はっきり言って居心地悪い。
友達の彼女とか、どう接すりゃいいんだよ。
距離置くのも不自然な気がするし、かと言って無駄に近づくのもおかしいだろ。
わからん!
「えっ、お弁当?」
「あ、はい。里中さんは、どんなの作ってますか?」
「男衾くん好き嫌いないから、つい手を抜いちゃってるけど……」
里中さんはスマホを取り出して、何かを和に見せている。たぶんお弁当のイン○タあたりだろう。
和もそのいい人オーラに安心しているのか、なにやらなごやか。
「あれ、パロだよな?」
「元ネタは全滅エンド」
「マジか」
俺はと言えば、男衾とボソボソオタク談義をしているが、落ち着かない。ときどき里中さんが和の話を聞いて、意味ありげな微笑で俺を見てくるからだ。
和もそういうとき、なにか恥ずかしそうにしているし、いたたまれないんだが?
エレクトラにからかわれずにすむってのが、不幸中の幸いか……。
「じゃあね」
里中さんが途中で降り、俺たちも通学路を進む。
俺は気恥ずかしすぎて男衾と話し、和はおとなしく俺たちのあとをついてくる。
校門で
「んんん?」
そこで不可思議なものを俺は見た。
「やっふー! 柴田さぁ~ん!」
エレクトラだ。
ブンブンと俺に向かって両手を振っている。
しかも……制服を来てる!?!?!?!?!?!?!?
うちの学校のじゃないが、セーラー服。
えっ? えっ? どういうこと?
俺が目を白黒させ混乱している様子に気づいたのは和だ。
「どうしたんですか、先輩?」
理由はすぐわかった。
エレクトラの横に、俺とタイマンした、そして拉致に加わっていたあの野郎が立っていたからだ。
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