水の旅

瀬良まこと

水の旅


「雨降り」


もしも雨が降ったなら

大きな大きな傘を差して

あの人のところへ行こう

あの人はいつも傘を忘れるから

わたしが傘に入れてあげないと

風邪を引かないように




虚白こはくの森」


もう森へなんか行かない

鳥の声を聴きに

あの歌は忘れられてしまった

枯れた泉とともに


もう森へなんか行かない

木こりたちが木を刈り取ってしまった

大好きだった花は二度と咲かなくなった


もう森へなんか行かない

霧雨小道の静けさを

泥まみれの子供たちは

風を切って駆けてゆく

わたしはただ見ているだけ


もう森へなんか行かない

昼と夜のはざま

谷底へとりて

あなたに会いに来たというのに

わたしはたったひとりで帰ってくる




「ゆく川の流れは絶えずして」


街を流れる黒い川

水かさを増して溢れている

そのどうどうと叫ぶせせらぎに

長い夜を打ちひらかんとする

朝日ほどのひびきがあるか


街を流れる黒い川

黄昏に焼かれて燃えている

そのちりちりと泣く炎に

短い冬にだけ姿をみせる

星屑ほどの安らぎがあるか


街を流れる黒い川

いつしか海へと注いでゆく

その旅路のはなむけに

何が似つかわしいだろう

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水の旅 瀬良まこと @mares_4696

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