第47話王都襲撃編 それぞれの役割
――翌日
昨日の弟のことを思い出し少し沈んでいた竜二ではあったが、気を取り直し襲撃イベントの練習モードが実装されたので、さっそく試してみることにしようとゴルキチを起動させる。
いつもの練習モードと違い、最初にアジトの設定を行うウィンドウがポップアップしてきて驚きの声をあげる竜二。
現在表示されている標準のアジトは、四方を高い壁で囲い前面に大きな両開きの鉄の扉。扉を抜けると中は広い中庭になっており、中庭を抜けると再度鉄の扉があり、建物の中に繋がっている。
建物自体は竜二たちの作成した砦風のアジトに酷似しており、正方形の形をした石ブロックを積み上げた外観をしていた。
なるほど。外壁の中へモンスターを誘導し、扉を閉めるとモンスターを隔離できるというわけか。中庭を橋と堀に変えてもいいかもしれないなあ。橋なら雪崩込まれてもせいぜい二体までを相手にすればいいし。
まずは準備された設定でやってみよう。ゴルキチはアジトの設定を触らずそのまま了承ボタンをクリックする。
<襲撃イベント 練習モードスタートします>
メッセージと共にアジト外の草原に異変が起こる。三十ほどの人間に近い形をした緑の鱗を持った雑魚――リザードマンが草原出現する。
リザードマンは片手剣と丸い盾を構えた人型のモンスターになる。体躯は人より大型で、二メートルを超える身長から繰り出される攻撃はそれなりに痛い。
人より優れた筋力を持つとはいえ、ボスではないただの雑魚。ゴルキチにとってはものの数ではない。
アジトの外壁内側の登攀ロープから外壁によじ登ったゴルキチは、近寄るリザードマンへ向けて次から次へ矢を放つ。
クロスボウは弓の中でも最も威力が高く、さらにゴルキチの職業はアーティレリーというクロスボウの攻撃力を上げる職業......リザードマンは二発矢を喰らうと倒れていく。
外壁に登ったことにより、一つ問題点を発見するゴルキチ。外壁に登るとリザードマンも外壁を登ってこようとするが、外側には登攀用のロープなどは設置されていないため登ってくることは出来ない。そのため、一方的に射撃を繰り返せる。
それはいい素晴らしいのだが弓の射程距離は非常にシビアで、リザードマンがゴルキチの正面に位置し、かつ外壁に張り付くくらいの距離まで近寄ってこないと、クロスボウの矢が届かない!
魔法ならもう少し余裕はあるのだろうけど、外壁上からの攻撃はあまり効率的とはいえなさそうだ。
次にアジト専用設置武器「大型バリスタ」はどうだろうか。さすがにこちらは射程距離が長いが、設置されているのはアジト本体の屋上になるため外壁外までは届かない。
しかしながら、中庭ならばほぼ全域カバーできるほどの射程距離を誇るため、中庭にモンスターを呼び込めば大型バリスタは有効だ。
お世辞にも高速でリザードマンを倒していると言えないゴルキチではあるものの、一匹づつ確実にリザードマンの数を減らしていく。
減らすとすぐに次がフィールドの奥に沸いてくるのだが......
五十匹目のリザードマンを討伐した時だった......
――難易度10「覇王龍」がフィールド奥に出現する!
覇王龍だと!覇王龍は曲りなりにも最高難易度を誇るボス......今はリザードマンしかいないのでそれほど障害にはならないが、他のボスが出てくるとかなり厄介だ。
覇王龍はかつてリベールで乱獲した火山にすむ炎龍で、雄大な体長に大きなプテラノドンのような翼をもった龍だ。
どっしりした雰囲気はないが、鋭い爪と俊敏な動きが特徴で、大きな翼に恥じず飛翔することもできる。
炎龍と言われるだけあって、口から火炎ブレスを吐き出し、爪も炎をまとっている。天空王に比べると苛烈さで劣るが、脅威なことには変わりはない。
ゴルキチは練習がてらに、外壁の扉の前に立ち覇王龍を誘導してみることにする。ゴルキチを間もなく発見した覇王龍は彼にターゲットを取り、翼をはためかせる。
覇王龍が猛烈な勢いで接近してくることを確認したゴルキチは外壁の扉をくぐり、扉を閉めてみる。
果たしてどうなるのか。覇王龍は飛翔できるため、壁を乗り越えてくるのか、それともターゲットを見失って静かになるのか。
答えはどちらも否。
覇王龍は扉に体当たりを慣行し、得意の火炎ブレスを扉に吐き出す。
ゴルキチは見落としていたが、扉には耐久度が設定されており、耐久度が無くなると扉は破壊され消失する。扉の修復も再設置も可能だが、大工の手助けが必要になるようだ。
たった二発。
扉が耐えたのは、たった二発の攻撃のみだった。
あっさりと扉を破壊した覇王龍は、ゴルキチに火炎ブレスを吐き出す!
まさか扉がこれほど脆いと考えていなかったゴルキチは虚を突かれ、あっさりと死亡する。
死亡した場合、アジトの特定位置でリスタートとなる。この位置だけはモンスターが侵入しないエリアとなっており、ここには本イベント特別アイテムの回復クリスタルもバリスタの設置共に不可能。
また倒された場合五分間、リスタート位置から動くことができない。体力は満タンにはなるが、五分間の停止は正直痛いペナルティだとゴルキチは実感するのだった。
ゴルキチはその後何度か練習モードを繰り返すうちに、およそリザードマン五十匹につき難易度8から10の龍系ボスが出現することがわかった。
イベント当日は多くの参加者によってリザードマンが狩られることが予想されるので、ボスの出現を制御することは不可能だろう。なので、ボスをいかに誘引し、アジトの中庭に引き込むかが勝負かな。
大雑把でがあるが、イベントの本質について理解したゴルキチは満足して一旦ログアウトする。
――数日後
あーだこーだ言いながらついにギルド「王国教習所」のアジトは完成を見る。チーズポテトとも相談したが、外壁・中庭・正方形の造りの砦の構成にすることにした。
家専プレイヤーさんには気が引けたが再度この構成に建築し直してもらったのだが、何故か家専プレイヤーさんは喜んでいたという。
アーキテクト(建築家)の心を理解できる日は来ないだろうとゴルキチ遠い目をしながら彼が嬉々として再建築する姿を見守っていたという......
ゴルキチたちはイベント当日どのように動くかについて話あっていた。
「基本戦略はチーズポテトさんにも相談したんだけど、ボスが出たら中庭に引き込んで隔離」
ゴルキチの言葉に全員が頷く。
「メイリンはバリスタ担当してくれ。残りは今どうするか考えよう」
全員メイリンのバリスタ担当には賛成なようで誰からも異議の言葉はでない。この中で唯一非戦闘職なのはメイリンのみとなり、バリスタは誰が打っても威力が変わらないため、戦場に出て倒され時間ロスすることを考えれば、最もバリスタ担当に適しているのはメイリンをおいて他にいないだろう。
「僕にボスの引っ張り役をやらせてくれないかな?」
最初に意見したのはグルードだった。この中で最もプレイヤースキルに優れる彼は、リザードマンや複数のボスに囲まれる可能性のあるボスの誘引を引き受けようと提案する。
「ボスの難易度が10の場合は、グルードに中庭入って欲しいんだよな。それ以外なら俺かしゅてるんさんが中庭に入ろう」
ゴルキチはボスにもよるが、今回出現する龍種のうち難易度10ボスは二種類について勝率は五割ほどしかない。難易度9か8ならばゴルキチでもほぼ倒されることはない。
しゅてるんもゴルキチより若干腕が落ちる程度なのでゴルキチがこなせることならこなせるだろう。
「中庭にはゴルキチちゃんかグルードちゃんが入りなよよ。私は遊撃するのの」
遊撃役を志願したしゅてるん。地味だが遊撃役はなかなか難しい。まず戦場を俯瞰的に見る必要がある。
ボスを牽引するプレイヤーが牽引しやすくなるよう雑魚を払いつつ、他のプレイヤーの動きを見ながら牽引役のプレイヤーに指示を出す。場合によっては、外壁の扉を閉めに行ったりと「司令塔」の役目をこなすのが遊撃役だ。
しゅてるんは廃人ならではの経験の多さはこのメンバーの中では群を抜く。遊撃は適役と言えるだろう。
「了解した。なら、俺とグルードで牽引と中庭を引き受けよう」
ゴルキチはしゅてるんの提案を受け入れ、自分とグルードの役割をみんなに伝える。
「わたしは?」
いまいちイベントのことが分かっていないイチゴから質問が来る。実はイチゴには重要な役割があるのだ。移動魔法を持つイチゴにしかできない役目が。
「イチゴは移動魔法で危ない人がいたら連れ出して欲しい。普段は外壁扉前かな」
医療兵ではないが、回復手段が回復クリスタルに触れるしかない以上安全に回復クリスタルへ到達するには移動魔法がベストだ。
こうして「王国教習所」のイベント当日どうするかが決まったのだった。
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