第34話トレハン編 天空王のスープ

 ログアウトした後、さっそく竜二はドラゴンバスターオンライン公式サイトを閲覧することにした。どんなアイテムがあるのか楽しみで仕方がない。


・トレジャーハント新報酬一覧

1.スプレー類

ラスティスプレー、メタリックスプレー

2.レシピ類

天空王スープ、サイハイソックス、帝国風マント、骸骨モチーフのラグ......


 主な追加は、スプレー類とレシピ類であった。レシピの追加は15種類もある。もちろんそれぞれのグラフィックを準備するのだから、運営は相当気合が入っていることを竜二でも容易に推測できた。

 スプレー類はアイテムの色を変えるもので、ほぼ全てのアイテムに使用することができる。例外はしゅてるんが装備しているニーハイソックスのようなアイテムだ。

 ニーハイソックスはスプレーを使用しても色が変わらない。そのため、準備されている15種類を集めるしか色のコンプリートはできないのだ。


 装備類にしろ家具にしろ、素材に色があるものは素材の色が出来たものに反映されるのでそれほど不都合はない。

 例えば、鉱石類であれば鉄とミスリルの二種類あり、それぞれ色が12種類ある。装備を作成する際に、使用した色に応じて装備に色を付けることができ、違う色の鉱石を混ぜることで、別の色を作り出すことができる。

 こういった豊富な色がある素材からできるアイテムについては、色はそれほど苦労しないのだが、今回のスプレーは話が違う。


 ラスティスプレーは、素材にサビを浮かせることができるスプレーで、金属製品全てに使用ができると説明があった。サビを浮かせることは現在、家具や壁などであればアイテムを巧みに組み合わせて再現することも可能だが、装備品はそうはいかない。

 きっとこのスプレーは欲しがる人が多数いることだろう。

 もう一つのメタリックスプレーは、服類や木製品などに使うことができる。メタリックスプレーはその名のとおり、金属光沢を出すことができるスプレーでこちらも人気が出ることが予想される。


 次にレシピ類だ。レシピ類で竜二が注目したのは「天空王スープのレシピ」だった。難易度10「天空王」の素材を使用したスープ。これは料理人魂を刺激するじゃないか。

 ちょうど食事の時間になってきたので、一旦部屋を出る竜二だったが、頭の中は「天空王のスープ」への妄想で一杯だった。


 今日は両親が出かけており、家には竜二と弟の二人だ。弟は推薦入試が無事上手くいったそうで、後は卒業を待つばかりとこの前竜二に言っていた。無事受験が終わったことに竜二もホッとしたものだ。

 両親がいないので、本日は竜二が食事当番だったのだが、作るのが面倒だったので出前を頼むことにする。


「響也ー!出前頼もうと思ってるんだけど何するー?」


 一階から二階にいる弟に向かって竜二は大声で呼びかけると、弟は階下に降りてきてくれた。


「出前って、兄さん豪勢だね」


「社会人の威力を見せてやるぞ」


 竜二は少し得意気に弟に胸を張る。といってもあまり高いものは頼めないが......

 二人は結局、親子丼の出前を取り届くまでの間最近のことを会話していた。


「兄さん、ドラゴンバスターにこの前来た奴どうだった?迷惑かけなかった?」


 弟は言う人物はグルードさんのことだろうと、竜二は想像が付いた。グルードさんは気さくで紳士な人だった。チームプレイも上手く、一緒に狩りをしていて楽しかったなあ。

 ニーハイソックスのことは親切心で協力してくれたわけだし、迷惑なんてとんでもない。


「すごく紳士的な人だったよ。一緒に狩りをしていて楽しかった。俺普段ソロだからさ」


 ソロとはいえゴルキチのログイン時間の大半は、生産職や非戦闘職で過ごしていたのだが......


「そっかー。それはよかったよ。また遊んであげてもらえるかな?」


「遊んであげるって、俺が遊んでもらったほうだって」


 竜二は慌てて否定するものの、弟はグルードがどれほどの人物か知らないのだろうから言っても仕方ないかとも思う。


「奴も兄さんと遊べて楽しかったって言ってたから、次見かけたらフレンド登録でもしてあげて」


 傭兵プレイヤーに気軽にフレンド登録してと頼める訳が無いだろう!と突っ込みたかったが事情がわからない弟に突っ込んでも仕方ない。


「わかった。次会ったらグルードさんに言うけど、響也からも言っておいてくれよ」


 流石にいきなり竜二からフレンド登録してくださいとは言えないので、弟に頼んでおくことにした竜二。心がチキンな奴であった。



 親子丼を完食した後自室に戻った竜二ではあったが、「天空王スープのレシピ」のことがまだ頭から離れない。

 トレジャーハントには手を出さず、しばらくコックをしていようと思ったが、「天空王のスープのレシピ」がどうしても欲しい。

 これまで運営の出すアイテムに飛びついて痛い目にあってきた。あっては来たのだが、今回はリベールが装備すれば不味そうな装備類は見当たらない。

 大丈夫に違いない。先輩の手伝いで月見草を取りに行った時も何事もなかったじゃないか。もし何か突発イベントがあれば逃げてしまえばいいのだ。

 すでに竜二は普通にリベールを使う分には忌避感は無くなりつつある。水着やら猫耳やらを着なくて済むのならリベールを使うことも、どうしても欲しいアイテムがあるのなら使ってもいいかなと思うまでになっていた。


 トレジャーハントのアップデートは取得アイテムの品質が大幅に改善する変わりに、宝箱を開けた時にボスが出る。

 ボスは二種類いる難易度9「サキュバス」と難易度9「インキュバス」だ。この二体は難易度9となっているのはボスドロップ素材の品質を落とすためだけで、実質は難易度10のボスと強さは変わりがない。


 この二体、男キャラクター、女キャラクターで挑んだ時にどちらが出てくるか決まるのだ。女キャラクターならば難易度9「サキュバス」が登場する。なら、女キャラクターでは難易度9「インキュバス」に挑めないのかというと、挑むことは可能だ。

 パーティを組み、男キャラクターに宝箱を開けてもらうことによって、一緒にインキュバスに挑戦はできる。

 しかしながら、女キャラクターでインキュバスに対峙すると、画面にインキュバスが見えているだけで、強烈にスタミナを吸われていくので戦闘にならない。

 この制限はパーティで挑むプレイヤー達には大きな負担となる。男女混合パーティでは挑めないからだ。最もこの制限はソロで挑むリベールには関係のないことではあったが......


 サキュバスもインキュバスも明日から練習モードが実装されるので、リベールのマクロを作り始めよう。竜二は「天空王のスープ」を想像しながら就寝したのだった。


――茜

 茜は推薦入試が終わるまではそれほどでもなかったが、推薦入試が終わって以来響也とメッセージのやり取りをすることが増えてきた。お互い推薦入試が無事合格となり、急に時間が出来たことも大きな要因であろう。

 彼女の姉は響也とのやり取りが増えたことを、「それだけじゃないでしょー」と邪推しているようだが、二人のやり取りは本当に色気がない。


<今日兄さんに、グルードのこと聞いてみたんだったけど、悪くない印象だった。また遊べるかなあ>


 響也からのメッセージが茜に届く。響也は兄の話題が多い。このブラコンめと茜は心の中で毒づいた。そういう茜もひどいものではあったのだが......


<リベールさんとこの前、月見草取りに行ったんだよ。かっこよかった!>


 全然返信になっていないことを茜は返信する。完全に会話が成立していない。二人はいつもこうだ。お互いの言いたいことだけを言って会話のキャッチボールをしない。

 このやり取りをもし彼女の姉が見たら、「それだけじゃないでしょー」というセリフは絶対に出てこないだろう。

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