シャープペンシルと消しゴムの恋
彼野あらた
シャープペンシルと消しゴムの恋
シャープペンシルである私が消しゴムさんに出会ったのは、持ち主が中学校に上がる際に新しく文房具を買いそろえた時だった。
「はじめまして。これからよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
ペンケースの中で私たちはお互いに挨拶を交わした。
学校の授業が始まると、私たちはひたすら働いた。
授業、宿題、テスト、メモ、ときどき落書き。
ノートやテスト用紙の上に持ち主が私を走らせ、修正することがあれば消しゴムさんを使う。
「いつもありがとうございます、消しゴムさん」
「いえいえ。これがぼくの役割ですから」
私が(正確には持ち主が)書き損じたところを直すために、黙々と間違いを消してくれる消しゴムさん。
そんな消しゴムさんに、私はいつしか心惹かれていった。
私たちに性別はないけれど
この恋しいと思う気持ちは、愛しいと思う気持ちは
きっと人間たちが恋とか愛とかいうものなのだろう。
「今日は書くことが多くて大変だったでしょう」
「消しゴムさんこそ、いつもより消すことが多くて大変だったじゃないですか」
消しゴムさんと共に働く日々は本当に幸せだった。
いつまでもこの日々が続いてくれればと思っていた。
だが、それははかない夢だった。
シャープペンシルである私は、芯を補充すればいくらでも使える。
しかし、消しゴムさんはそんなわけにはいかなかった。
消しゴムさんは働くたびに少しずつ、しかし確実に、その身をすり減らしていったのだ。
(お願い。もうやめて)
毎日着実に体が小さくなっていく消しゴムさんを見て、私は持ち主に願った。
けれど、そんな想いが届くはずもなかった。
持ち主はこれまでと同様に私たちを使い続けた。
そして、持ち主が進級を間近に控えたある日のこと。
消しゴムさんは、その体が完全に無くなってしまわないうちに、持ち主によってゴミ箱に捨てられてしまった。
私は身を引き裂かれる思いだった。
本当にその身を引き裂かれたのは消しゴムさんだというのに。
もしも私が人間ならば、涙を流すことができただろう。叫ぶこともできただろう。怒りや悲しみをぶつけることもできただろう。
だが、私はあくまでもシャープペンシルだった。
以前と変わることなく、ただ持ち主に使われ続けるしかなかった。
前の消しゴムさんと入れ替わりに新しい消しゴムさんが来たけれど、私はもう恋をすることはないだろう。
さようなら、消しゴムさん。
シャープペンシルと消しゴムの恋 彼野あらた @bemader
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