ファンタジックガーデン

りり

リリスの幻想

†ヌイグルミノココロ†



これは、雨降る夜の話



‐ボクには何もない‐


とあるヌイグルミはそう思った

ボクは、ただ喜んで欲しいだけなのに…

そう少女は、人間の身勝手な理屈で捨てられたのだ


ボクは…


?「君も独りなの?」


っ!?


1人の少年が雨に濡れながらも、しゃがみ込みボクを見ていた


?「僕もね、独りなんだ」

そういうと、少年は雨に濡れるボクを抱き上げた


?「僕の名前は綾瀬 凪・・・君の名前は?」


ボクの名前は…リリス・・・

ボクは、そうココロの中で呟いた

それからの日々というものボクにとってとても素晴らしく満ち溢れていた


リリス「ナギ!ナギっ!もっと遊んで!」


ボクはココロの中で叫んでいた、それがボクの日課にもなっていた

届いていないと分かっていても彼は、毎日ボクと遊んでくれる

時々・・・何かしている時は気づいてもらえないけど

それでも、ボクに気づいて遊んでくれる・・・それが悶え苦しむ程、嬉しかった。


凪「そうだ、君の名前決めていいかな?」

そう彼がボクに優しい眼差しを向けながら問いかけて来た


リリス「にゅ、ボクの名前はリリス!リリスだよ!」

届くはずない言葉をココロの中で叫んだ



凪「そうだな、小悪魔っぽい見た目だし…リリス何てどうかな?」


リリス「!!」

そういうとナギは自分の指でボクの頭をコクリコクリと振り、よし決定!とボクの名前を決めた


しかし、何故か彼の顔は悲しそうだった


凪「何やってんだろ…僕・・・」


リリス「ナギ?」


ボクは、ココロの中で問いかけた


凪「リリス・・・僕ね…独りぼっちなんだ」

最初にボク達が出会った時に聞いた言葉だった。


凪「父親はリストラされて蒸発・・・母親は小さい頃に死んじゃった・・・」

凪「友達や近所の人も、僕のこの左眼の包帯を奇妙に思って皆離れて行くんだ」


とても悲しそうに彼はそう続けた


リリス「その包帯は、何でしてるの?」

つい、ココロの中でボクは聞いてしまった


凪「僕の目ね、昔無くなっちゃったんだ」


リリス「!?」


切なそうな声は、理由は述べなかった。


凪「だけど・・・僕にはリリスがいるからね・・・寂しくないよ」

彼は、辛さを笑顔に変えボクに微笑みかけた


リリス「ナギ・・・」


その時、突如階段下の玄関の扉がバンッと蹴破られる音がした


凪「!?」

リリス「!?」


それと同時に、酔った男の声が家の中に響いた


?「おらぁぁぁ!!帰ったぞおい!」

その声を聞いてすぐ、ナギに異変が起きる


凪「か・・・隠れなくちゃ・・・」

突如、慌てふためきだしたのだ



リリス「な・・・ナギ?」



ボクの声が届く訳も無く、慌てるナギは飾ってあった花瓶を落とし割ってしまった



?「凪ぃ・・・お前かぁ?!」



割れる音に、その声は階段へと歩みを進める



凪「はぁ・・・はぁ・・・り、リリスはここに入ってて‼」



リリス「ふぇ」



そういうとナギは、ボクを少し開いたタンスに押し込んだ



そして自分も、タンスの後ろの死角とも言えるスペースに隠れた。



しかし



凪「あ・・・」


、一度隠れた場所からナギはパソコンの下に隠してた大事な物を取りに戻ってしまった。



前にボクと遊んでる時に教えてくれた。

あれは凪が一番大切にしている物らしい。

すかさず大切な物グッズを手に取り、ナギが戻ろうとした時だった


その時は訪れてしまった。


部屋の扉が、玄関の扉と同様に蹴破られたのだ



凪「お・・・お父さん・・・」


「父親の帰りに迎え無しとは、何様だぁ?!あぁ!?」



そう叫びながら父親と名乗った声の主は、ナギのPCを蹴飛ばす



凪「あ・・・あぁ・・・」


震える声で凪は、小さくごめんなさいと何度も繰り返していた



リリス「ナギ!?危ない!!」


ボクは、ココロの中で叫んだ



凪の父親は、近くにあった金属製のバットを持ち出し凪に振りかぶったのだ



凪「あ・・・がっ・・・」


振りかぶった一撃はナギの頭部を捉え、ナギは地面に倒れてしまった



リリス「ナギっ!ナギッ!」



ボクは、必死にココロの中で叫んだ


ボクの目の前で大好きな人が殺されかけてるのに何もできない、それが辛かった


しかし尚も、ナギの父親の虐待は続き2撃目が振り下ろされた時だった



リリス「ナギっ!!」


否、一瞬ナギの持っている大切な物グッズが動きそしてそのまま一撃を受けた気がした



その犠牲のおかげで、ナギに2撃目は当たらなかった、



だが何度も繰り返される虐待は止まらない



次は確実に、ナギを捉えてしまう・・・そうしたらナギは・・・



‐ボクには何もない‐


不意に、その言葉を思い出してしまった

動く事も伝えることも出来ないボクには何もできない

そんな事を考えるのもつかの間、3撃目が凪に振りかぶられた


リリス「このままじゃ・・・このままじゃ・・・」


ボクにできる事は・・・

そう思った時、一瞬ボクの体が動いたのだ


リリス「!!」


ボクは、タンスの隙間を飛び出しナギが割ってしまった花瓶の破片を弾き飛ばした


そして、それは奇跡的にも凪の父親の足を切った


「いってぇぇぇぇ!?」


やった・・・体勢を崩した・・・

これで攻撃を中断できるボクはそう思った



凪「リリス・・・」

朦朧とする意識の中、血塗れのナギがボクを見て呟いた



リリス「ナギっ!死んじゃダメ!ボクを独りぼっちにしないで・・・」


凪「今になって、やっと君の声が聞こえる気がするよ・・・」


か細い声がボクに届いて

刹那、体勢を崩しても尚振りかぶられた父親の一撃が凪に終止符を与えた



リリス「あ・・・ああ・・・ナギっ・・・ナギっ・・・」


それからすぐに凪の父親は、凪を殺した事で我に帰ったのか慌てながら階段を駆け下りていった


最後に、気のせいかも知れないけど・・・ナギが口頭で「ごめんね・・・」と言った様な気がした


なんで・・・なんでナギがこんな目に合わないといけないの?


リリス「ナギっ・・・ナギッ・・・なぎっ・・・」


ボクは必死にココロの中で叫んだ、返ってくることの無い返事を求めて

そしてボクは、血に染まり虚ろの眼になった彼を見ながら僕は願った


リリス「ナギっ・・・お願いです神様・・・ボクの命ならあげます・・・だからナギを」


何度も


リリス「お願いです・・・お願いです・・・ボクにできる事なら何でもしますから・・・だから・・・」


何度も


ボクは、必死にココロの中で叫んだ・・・


リリス「ボクは・・・ボクは・・・」

ボクは、何て無力なんだろう・・・


リリス「ボクがヌイグルミじゃなければ・・・ナギを・・・なんでボクは・・・」

そんな事ばかり思ってしまった


リリス「ナギ・・・」


・・・・・・・・・


リリス「神様・・・もう無理は言いません・・・だから・・・一瞬だけで良いんです」


もう一度だけ・・・動けるようにして下さい


・・・


少しして儚いその願いは叶った。


リリス「ありがとう・・・」


ボクは、花瓶の破片でズタボロになった体で・・・虚ろな瞳の彼の元まで歩いた


そして彼の顔へと抱きついた。


リリス「ナギ・・・ごめんね・・・ボク何も出来なくて・・・」

リリス「ボクはナギの事が大好きだ・・・」


ナギを独りぼっちにはしないよ、ボクがずっとずっと傍にいるから・・・

ヌイグルミのボクでも・・・何も出来ないボクでも・・・ナギの為にできる事

やっと見つかった

ボクのココロをナギにあげる

そうしたら、ボクも凪もきっと寂しくないよね


・・・・・・


ずっとずっと・・・一緒だよナギ


そしてヌイグルミだった少女のココロは、少年の命と共に融けて行った






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