第74話 寄せ集めの軍隊(スクラッチメンバーズ)
「おお~~これはこれはシャルロット王女様ですかな!? こんなに大きくなられて!!」
デネブが祖父が孫娘を見るような優し気な微笑みを浮かべシャルロットの手を取る。
「初めまして大賢者デネブ様、お会いできて嬉しいですわ」
「初めてでは無いですぞ、姫様はご存じないでしょうが、あなた様がお生まれになってすぐにお目通りをしております」
「そうでしたか、ではお久しぶりなんですね」
「そういう事になりますな、ワハハッ」
「ねえパパ、挨拶もいいのだけれどちょっと落ち着いてよ」
「何じゃ? ワシがお前に構わないから焼きもちを焼いておるのか?」
「何を言ってるのかしらこのジジイ、アタシそんなに子供じゃあありません事よ?」
「ワハハッ、相も変わらず辛辣じゃのうお前は!!」
ベガとデネブが引きつった笑いを浮かべながら両手で組合力比べを始めた。
「ちょっと!! お止めください!! 二人とも止めて!!」
「いいのですよ姫様、これは二人のスキンシップみたいなものですから」
「そうなの?」
「はい、残念ながら……」
アルタイルは深いため息を吐く、そしていがみ合う二人のもとへと歩いていく。
「はいはい、そこまでにしましょう……今は緊急事態なので」
「あらいけない……アタシとしたことが、姫様の前ではしたない」
「ヌヌッ……これはみっともない所をお見せした」
肩を叩かれ我に返る二人。
「お主、アルタイルじゃな? 元気にしておったか?」
「お師匠様、それはこちらのセリフです……今迄どこでどうしていらしたんですか?」
「ちょっと待ってアルタイル、どうやらパパはあなたの知っている大賢者デネブではない様よ? さっきシャルロット様の事を知っていたじゃない」
「あっそう言えば……」
みるみる落胆していくアルタイル、ベガといいデネブといい、彼の旧知の知人は姿こそ同じだがことごとく別世界の人間なのだ。
「イワン!!」
後ろからひと際大きな声が発せられた、ティーナの声だ。
「そこに居るのはまさか……ティーナなのか!?」
デネブについてきた男たちの中から一人、ティーナに声に反応した者がいた……無精髭の中年男性だ。
半ば放心状態でゆっくりと歩み寄る二人はお互いの顔と姿をひとしきり確認すると勢いよく抱き合った。
「ああティーナ!! まさかこうして生きて再会できるなんて夢のようだ!!」
「私もよイワン!! 無事でよかった!!」
力強く互いの存在を確認するように抱きしめあう二人。
「もしかして……ティーナさんの彼氏って……この方なのですか?」
「ええ……恋人のイワンですわ……」
「イワンです」
「イワン、このお方シャルロット様が私たちを再び引き合わせてくれたのよ……」
「そうなのですか!? 何とお礼を言ってよいのか……本当にありがとうございます!!」
イワンが深々と頭を下げる。
「うん、うん!! 良かった……良かったね……!! うううっ……!!」
目じりに堪った涙を拭いながら精一杯の笑顔を見せるシャルロットであったがとうとう涙腺が崩壊……本格的に泣き出してしまった。
「シャルロット様……ありがとう……」
「ティーナ……うううっ」
ティーナはシャルロットと抱き合い頭を優しくなでた、まるで姉妹の様に……。
「何じゃ? 何がどうなっておるんじゃ?」
「パパ、いまアタシたちはとても面倒くさいことになっているのよ……説明するからちゃんと付いてくるのよ?」
「なんだか難しそうじゃのう……」
きょとんとするデネブ、それとデネブについてきた数人の男たちを交え、情報の交換と説明会が始まったのである。
「同じような世界が二つあるじゃと?」
「そう、シャルちゃんとアタシ、パパの居た世界を仮にAとするとアルタイル、ティーナ、イワンさんの居るこの世界はBとしましょう……
そしてアタシたちはシェイドと呼ばれるAの世界で魔王に与する者の仲間にBの世界、こちらへ飛ばされてしまったのよ」
「そうであったか、なるほどな」
何度も頷くデネブ。
「あの、驚かないんだね」
「うん? ああ、それはそうじゃろうて……ワシらも時間が止まったままの世界に閉じ込められておったからな、世界がとある切っ掛けで分岐するなどそう驚く事ではないのぅ」
髭をさすりながらシャルロットに答える。
「さすが師匠ですね、私なんかは理解するのに少し戸惑いましたよ」
「まあお前さんとは年季が違うからのぅ!!」
バシバシとアルタイルの肩を叩く。
「お見逸れしました……ですが師匠、久しぶりに会って積もる話しもありますが、感動の再会の余韻に浸っている余裕は私たちにはないのです……魔王四天王の一人バアルに目を付けられてしまったのだから」
「その者はそんなに強いのか?」
「ええ、強力な風の魔法を操る強敵で、背中に翼があり空も飛べるのです、
実際一度戦いましたが手も足も出ませんでした」
場を沈黙が支配する……特にシャルロットとアルタイル、ティーナはバアルの強さを体感しているだけに何も言えない。
「相変わらずお前さんは生真面目よのぅ、そういった純粋に力で押してくる類の者に正面から挑んで勝てる訳がなかろう」
「そうは言いますが……」
「こうして時空を超えてワシらが出会ったのも何かの思し召しじゃろうて……
これを生かさぬ手はないじゃろう?」
はっ、として顔を上げるその場にいる一同。
「そうですよ!! これだけ人が居るんだ、みんなで協力すればそいつを倒せるかもしれませんよ!!」
イワンが立ち上がり声を張る。
「私も及ばずながら協力いたします、受けたご恩は命を懸けてお返ししなくては」
ティーナも立ち上がる、そしてイワンと目を合わせ力強く頷いた。
「いいのかい? 君たちには直接関わりがない事なんだよ?」
協力の申し出は正直有り難かったが、相手は強敵だ……あの巨人のアイオライトが倒されてしまった件もある……シャルロットはこれ以上犠牲を増やしたくはなかったのだ。
「そんな水臭いこと言うなよ姫様、確かに俺たちの中にはこの世界が出身じゃあないものもいるが、事情を知ってしまった以上放っておけないぜ!!」
「そうだそうだ!! 俺だって昔は剣で飯を食ってたこともあるんだ、久しぶりに暴れさせてくれよ!!」
だが彼女の思惑に反して次々と男たちが戦闘への参加表明をしてくる。
結局その場にいるもの全員が戦う事を決意していた。
「みんなありがとう……だけど自分の命を一番大事にしてね?」
「おおっ……!!」
男たちが拳を握り締め真上に突き出す。
ここに即席のシャルロット兵団が結成されたのだ。
(大したものじゃな……このカリスマ性は女神の祝福だけではない姫様自身の人柄によるものも大きい……ワシらの短い命、賭けるのも悪くない……)
デネブは心の中でそう思った。
「じゃあ作戦を立てるよ!! アルタイルにベガ、デネブもお願いできる?」
「はい!!」
「ええ!!」
「御意!!」
期せずしてエターニア三大魔導士が揃ったのだ、作戦立案においてこんなに心強いことはない。
起死回生の反撃の狼煙が上がろうとしていた。
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