カラー・コード

和月心 ゆきじ

第1話 誕生

 黎明の空は鮮やかな赤をしている。夕日の赤とは似ても似つかないその色を、自分はその目に映した。一日の始まりに、自分の始まりを告げる音が甲走る。


――――キイイイイイイイイイイイイイイインッ。


自分の脚、胴体、腕、頭。次々と現れてくる。まるでしたかの如く、一面を雪が覆う地に姿を見せた。自分はこの時初めてこの地に足をつけた。自分はこの時初めて姿。今まで、どこぞ知らぬ器に、得体の知れない冷たい液体に揉まれていた心がようやく身体を伴って現し世に降り立った。自分はこれがなのだと、本能にも近いところで理解をした。今まで、自分は胎児だったのだ。胎児に似た、心だったのだ。


 (眩しい。)


今までただ赤としか認識していなかった朝日を眩しく感じ、今までぬるかった周りの空気は肌を刺すほどの寒さを見せている。自分の背丈の倍ほどの氷柱に一糸纏わぬ姿の自分が見えた。細い髪の毛が腰ほどまでに伸びている、白い肌は一部で軽い凍傷を起こして赤くなっていた。薄い唇から吐かれている白い気体は、一体何なのだろうか。いや、それよりも、ひどく寒い。両腕で自分を抱きしめても、蹲ってもその寒さは変わらない。髪の毛でさえもまるで足元の雪のように冷たかった。


 (……冷たい、痛い。)


蹲ってしばらく経った頃だった。少し遠くから歌が聞こえた。陽気な歌だ。反射的に顔を上げると遠くに米粒ほどにも見える影が複数見受けられた。


 『赤は中央、青は右、緑は左のこの島さ。遠い昔の神様が、捨てていった小さな島さ。』


歌は段々とこちらに近づいてくる。


 『新しい子が生まれたら、それは神様泣いた跡。涙が我ら、我らは涙。しかし、我らも涙を流す。』


自分も、この歌を知っているような気がした。いや、


 『ひどく美しい神様の、涙がどうして醜いか。』


「我らの白き肌を見よ、我らの美しい髪を見よ。」


『「我らの美しい我らを見よ。」』


歌と自分の声が重なった途端、歌が止み、足音がこちらへと向かう。そうして、朝日を後ろにこちらを覗いてきたのは一人の大きな背丈の男だった。大きな背丈の男の髪の毛は自分と似た色をして、髪と同じ色をした切れ長の瞳は宝石のように輝いている。一見冷徹にも見えるその容姿はしかし自分を視界に認めると、ふっ、と優しげに笑った。


 「嗚呼、久しぶりの我らの誕生だ。」


この男、後に自分をコバルトヴァイオレットと名付けた男は自分の服の一枚をかけながら、こちらにその大きな手を差し出してきたのだった。  

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