52.さぁ踊りましょう

52.さぁ踊りましょう






 オフ日が明けると、さっそくカイサルさんが率いるパーティ――まぁ、つまりいつもの面子で、元〈海岸〉ダンジョンに入った。


 ダンジョンの名称がしばらく元になるのがあれだなぁと呟いていたら、カイサルさんから、ギルド員としてダンジョン名の提案は出来るらしい。採用されるかどうかはともかくだが。


 入口付近からも件の砦と思わしき、建造物が見えるので、ダンジョン名〈砦〉もありじゃね? とか思ったりする。まぁ、戻ったら検討してみるか。


 入口から砦までの距離は目視ではかなり遠い。実際、帰還石を使ったパーティからもらった情報でもかなりの分岐を通るらしい。


 ……これ、エリア難度だけじゃなく、ダンジョンの規模も広くなってね? 元〈常闇の森〉の時もそう思った。遠目にも見える道のようなものだけカウントしても相当枝分かれしてるはず。


 現在、冒険者ギルドで行っている調査はダンジョン全域の把握だが……。方針を変更して、先に有益そうなエリアをおさえる方向にシフトしたほうがよさげっぽい。むやみにローラー作戦したら、死者が増えるだけだぞ。



「どうした? マサヨシ」


 俺が考え込んでいるので、カイサルさんが声をかけてきた。


「いえ……。また、ダンジョンから出たら相談します」

「そうか」


 今は目の前の事に集中するべきと思ったし、カイサルさんも深く突っ込んでこなかった。


「じゃ、みんな。いくぞ!」



 カイサルさんの掛け声を合図に、元〈海岸〉砦エリアの攻略が始まった。






 砦までの道中の情報はある。だが、それはあくまで一パーティの経験にすぎない。

 ダンジョンの魔物やトラップは、常に固定されている訳ではない。ほぼ固定である守護者は例外として、他は傾向として考える必要がある。

 例えば先に入ったパーティがサーベルハウンドに遭遇したからといって、次のパーティが遭遇するとは限らないし、遭遇したとして同じ数とも限らない。場合によってはその中に上位種のアークサーベルハウンドが混じっている事もある。


 じゃぁ、その情報は役に立たないのかと言えば、そんな事はない。

 魔物の種類が分かっていれば、予め有効な装備や陣形を整えられる。数の上下は多めに見積もっておけばいい。トラップ類もあるものと考えていれば、後は常に意識にそれを留めておくだけで、随分と安全マージンがとれる。




「マサヨシ。そこの視界を頼むッス」

「了解。スーちゃん。その茂みを排除して」



 スーちゃんが音もなく茂みに近づき、一気に茂みを飲み込む。

 すると、そこで地面が途切れていた。

 ここが森の中であるにも関わらず、である。


「崖か?」


 俺は足元に注意しながら、下を覗き込む。

 どう見ても崖です。ローマ字でGAKE。落とし穴というにはサイズに無理がある。


「緩い勾配が続いていたからな。あるいはこの為……。いや、それはうがち過ぎか?」

「俺としてはトラップの類に一票ですね。急に道がこっちに寄りだしましたしね」


 ヴィクトールさんは疑い半々フィフティ・フィフティといったところだが、俺としては全額ベットしてもいいと思う。

 実際、カモフラージュの役割を果たしていた茂みは綺麗にガケを隠していたし、気付いたのは【特殊:第六感】をもっているハリッサさんだけだ。

 森の中という事もあって、エリカやケンザンに上空から偵察というのも難しい。


 ちなみにクロさん部隊、家具ズ部隊はすでに別の分岐で別行動中。

 ケンザンはツイストギガスが強敵そうなので、負荷低減のために残って貰った。

 いや、別にだからといって召喚してやる必要もないのだが、拗ねるんだもんよ、コイツケンザン

 最近気付いたんだが、結構寂しがりや何だよ……。別荘地下でやたらと仲間をつれてきたのも、そういうところが原因かもしれん。ゴブリン村の農具改良の会合に毎回出席してるしな。通訳に俺もつき合わされてるが。



 さて、トラップといってもこれだけは未完成だ。

 いくら茂みでカモフラージュされているとはいえ、道から外れているのだ。当然、こっちに追い込む役がいる訳で。


 地響きが近づいて来る。森の木々をなぎ倒しながら。

 ここで慎重に距離をとろうとすると落ちるわけだ。一応デストラップそくしわなだが、一見さんでも対処できるぶん、トラップとしては比較的良心的だろう。

 悪質さでは前のスタンピートラビットの巣穴のほうがやっかいだ。


「たぶん、情報どおりの奴だと思いますが。どうします?」


 俺はカイサルさんに尋ねる。ちなみにどう・・の中に逃げるは入っていない。そこまでの相手ではない。

 戦闘効率重視か、素材確保重視か。素材確保重視だと、出来るだけ獲物を痛めつけないように戦う事になる。傷が多いとそれだけ値が下がるからである。


「別に普通でいいだろ。食材でもないし。木材はそこまで困ってないはずだ」


 姿を現したそれ・・を見ながら、カイサルさんはそう口にする。



 現れたのはアークウッドゴーレム。

 ゴーレム種の強さはほぼ構成されている物質で決まるが、ウッドゴーレムはその中でも最弱クラスだ。木製は金属製より脆いし、泥や砂よりも柔軟性に欠ける。

 ただし、こいつらは上位種。普通のウッドゴーレムよりもはるかに強い。


 数にして6体。

 ハリッサさんからの警告がないから、他に隠れているのもいないだろう。



 ん? なんだ?


「何か聞こえないか?」


 カイサルさんの言う通り。何か、歌声のようなのが聞こえる。


「そっちは、敵じゃないみたいッス。たぶん」


 ハリッサさんは存在自体は気付いていたみたいだ。

 まぁ、彼女が敵じゃないと判断したんだから大丈夫だろうけど。

 一応、スーちゃんにも確認したが、魔物のようだが少し離れた場所にいるし、こっちをどうこうしようという感じではないとの事。


 まぁ、それなら目の前の敵に対処しますかね。



「すいません。一体こっちに回して貰えますか」


 本来、通常戦力外やくにたたないの俺が要望をあげる。

 この面子だと、瞬殺の可能性あるからなぁ。


「かまわんが、どうした?」


 カイサルさんがいぶかしげに声を上げる。


「ちょっと、試したい事が」

「分かった。おいっ、ヴィクトール。一番左の奴を弾いとけ」

「了解」


 阿吽の呼吸でヴィクトールさんの【盾:防壁】で一体のウッドゴーレムが吹っ飛ぶ。

 あ、勢いで腕が欠けてる。

 あれは防御スキルのはずなんだが、下手な攻撃スキルより威力あるなぁ。


 と、あれ?

 ニコライさんはともかくとして、なぜにクロエさんがこっちに?


「サポートしますよ」

「前衛はいいんですか?」

「不要でしょう」


 クロエさんが肩を竦める。

 まぁ、ゴーレム宮殿のあれにくらべたら、上位種とはいえゴーレム一桁だもんな。相手としては役不足か。


 んじゃ、こっちも始めますか。



 【風魔法:電撃】



 紫電がアークウッドゴーレムの胸を撃つ。

 が、よろめきすらしない。

 命中した部分が微かに焦げてるくらいしか痕跡が残っていない。


 アークウッドゴーレムは残った片腕で攻撃しようとするが、クロエさんが剣で見事に裁く。


「新スキルのテストですか?」

「ですね。ちょっと、防御用の魔法具壊しちゃったので」


 ドラゴン族との決闘で無茶をやって、イージスの杖は壊れた。

 カイサルさんが魔装戦士のスキルで調べてくれたが、全壊ではなく辛うじて復元可能なレベルに留まっていたらしい。が、復元のためにいくつかレアな素材が必要なので、今はハウスさん家の倉庫で、休暇をとってもらっている。

 いや、まじごめん。


 そんな訳で、護身用にケンザンやクロさんから攻撃スキルを教えてもらっていたのだが……。

 威力は正直微妙だな。

 いや、奴らと比べるのがおかしいのだが。


「もう、一発いきます」

「どうぞ」



 【火魔法:炎撃】



 ……うん、電撃より焦げた。煙も吹いてる。


 でも、微妙。

 一応、シロさんからも【水魔法:冷撃】を習ったのだが、【火魔法:炎撃】とあわせてもメドローアマトリフししょうにはならんしなぁ。


 ……実はすでに一回やったのだが、対消滅した。まぁプラスマイナスを足したらそうなるわな。

 頭では分かっていたのだが、実際現実を突きつけられるとちょっと凹んだ。


 まぁ、出来たら出来たで別の問題が発生しそうだが。



「もう終わりですか?」


 涼しい顔でクロエさんが聞いてくるが、アークウッドゴーレムの攻撃を凌ぎながらである。

 倒すよりもよっぽど凄い事なのだが。このにせエルフの正体はドラゴン族で、しかも氏族でも五本の指に入るドラゴンだからな。



「もう少し、要修行ですね」

「マサヨシ殿にこれ以上の力は必要ない気がしますが?」


 不思議そうな声に俺は苦笑するしかない。

 このパーティのように気軽に手の内を見せられるならいいが、それ以外の人々に俺達はんそく法則外ルールブレイカーな力はそうそう見せるわけには行かない。


 なんとか法則じょうしき内で収まるようにしたかったのだが……。

 エリカにもハリッサさんやリズさんに協力してもらって、絶対矛盾に頼らない戦い方を覚えさせている。まぁ、あっちもうまくいってないようだが。



 甘えと言っちゃあ、甘えなんだよな。

 本来、スキルなんてFランク、Eランクと昇っていく過程で学んでいくもの。生まれもっている場合もあるが、それを使いこなす訓練とかは行っているだろうし。


 俺らの場合、身につけたというよりも備えもっていたという方が近い。その感覚を引きずったまま他のスキルを習熟しようとしてるからうまくいかないんだろう。



「とりあえず、終わらせます。スーちゃん。射撃モード」


 次の瞬間、アークウッドゴーレムは無数の砲弾型スーちゃんに撃ち砕かれた。

 みんなの様子を見渡すとすでに終わっているようだった。


「スーちゃん。素材回収おかたづけお願い」


 後は、現在中立っぽい魔物の気配だが、道からは外れている。

 カイサルさんの判断次第だが、許可が出るようだったら調べてみよう。






「ねぇ、マサヨシ」


 それを見た時、エリカが言った。


「私、あれ見た事あるよ」


 んな訳ねぇだろ! と言いたかったが言えない。

 俺も見た事あったからだ。地球で。


 昔、親戚が海外旅行のお土産に買ってきたのだ。それをお土産にチョイスするセンスはどうなのかと当時は思ったものだ。


 それは人の背丈ほどもある花。くねくね動いてる時点で魔物なのは疑いようがないのだが。


 何故かサングラスをかけている。手に――じゃなくて葉っぱに楽器を持っているのもいる。

 そして、音楽に合わせて踊っている。



 どっから、どうみてもあれ・・にしかみえん。


 ゲーム業界においては、多くの修羅や羅刹クソゲーを放った事で有名なタカラトミーが生み出したあれ・・である。


 あれ・・。つまりはフラワーロック。



 一応、図書館にも情報はあった。


 魔物の名前はダンシングフラワー。歌い、奏で、踊る事で大気中の魔力を吸収するという魔物だ。

 図鑑の絵はもうちょっと物々しい感じだったが、フラワーロックを知る俺にはコミカルにしかみえん。


 ちなみにミュージカンに相当する魔物はさすがにいない。この世界シードワルドには空き缶がないからな。



「マサヨシ。危険はないのか?」


 カイサルさんの言葉に俺は頷く。

 ただし、注意だけはしておく。


「こちらが攻撃しない限りは」

「した場合は?」

「スキルが凄い勢いで飛んで来るらしいです」


 見た目は愉快だし、手出ししない限りは無害なのだが、一度敵対するとかなり危険な連中らしい。

 個体によって持っているスキルが違いすぎて対策が難しい上、ステータスも高い。歌や曲に状態異常を乗せてくる場合もあるし、他の魔物を召喚する時さえある。


「……でも、手出ししなきゃ大丈夫と」

「そのようですね」


 呆れたようなリズさんの言葉に俺は頷くしかない。

 みんなの視点は一点に集まっていた。



 なんで一緒に踊ってんの? ハリッサさん。






「いい汗かいたッス」


 ハリッサさんはタオルで顔を拭いている。ちなみにそのタオルはダンシングフラワーから借りたものだ。


「何してるんですか、あなたは」

「ん? 魔物だからって無闇に敵対すべきじゃないッスよね?」

「それと一緒になって踊る事は繋がるんですか?」

「マサヨシは細かい事を気にしすぎッスよー」


 向こうでフラワーロック――もといダンシングフラワーがうんうんと頷いている。


 そうなのか? 俺がおかしいのか?


 助けを求めるようにみんなを見るが、誰もが首を横に振っている。

 諦めろという事らしい。



 ん? 今度はエリカがダンシングフラワーに近づいている。まさか攻撃する気じゃないだろうな?

 しかし、俺の心配は杞憂だった。どうやら、彼女の肩に乗っていたミギー&ヒダリーが彼らに興味を持ったらしい。

 一対の雛はまた踊りだしたダンシングフラワーの上をぐるぐる旋回している。


「マサヨシ。ミギーとヒダリーがこれ欲しいって」

「……デパートのおもちゃ売り場じゃないんだぞ」


 侵入者に敵対するのがダンジョンの魔物の基本。その中で中立の魔物はかなり希少レアとも言える。

 あるいは賢者ギルドニーナさんが興味を持つかもしれない。

 【無:念話】で一応確認を取ると、好きに踊っていいなら契約に応じてくれるらしい。


 裏庭にでもおいておくか。村人達が喜ぶかもしれんし。



 【契約魔法:召喚契約】

 【契約魔法:権限委譲】



 裏庭なのでハウスさんに契約の権限を委譲した。

 例によって契約後、彼らは謎空間へと消えていった。

 ダンジョンから出たら、裏庭に改めて召喚する事になる。



 いっそ、裏庭楽団でも作るかなぁ。


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