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真相解明のための労は惜しまない。俺はさりげなく気づかれないように合法的に四ノ倉さんへの尾行を続けていた。恋愛感情のもつれにおける尾行は「ストーカー」となって犯罪だけど、俺は違う。いずれ話しかけるつもりだ、という言い訳を盾にする。
「考えてるみたいだね」
すると突然、トトト、と四ノ倉さんが駆け出して、誰かにそう声をかけていた。その際、肩をたたいて人差し指を差し出すあの技を繰り出す。
その先にいたのは紺崎で、彼女の指は奴の頬に軽く埋まった。
うらめしや。この調査を罪にしたいのか、こら。
二人はそのまま校舎を出て、校庭を抜ける間際にある竹林に足を進めていった。うーん、さすがの俺も……藪をつついて蛇よりまずいものは出てきても、大変なのは俺の地位と立場だしなあ。
それに、さ。
なんか、二人でいるところはもう、いいや。気が進まないし、見たくない。
「情報屋」が聞いてあきれるセリフだけどね。
翌々日、携帯のストラップを指でもてあそぶ紺崎に声をかけた。
「紺崎っていいよなあ」
多分こいつは、喧嘩を売られたら、買うタイプだ。
「……何だよ」
ほら、乗ってきた。
「愛しの彼女と毎日デート。バンブー林でまったく、何やってんだよ」
二人で歩いているのを見たのがそもそも一昨日が初めてだったけど、あの様子じゃあ、「毎日」が過剰表現ってこともなさそうだ。
興味なさそうに聞き流していた紺崎も、さすがに最後の俺の台詞には食いついてきた。しめしめ。
「お前まさか、俺のあとつけていたんじゃないだろうな」
うーん、曖昧な言い回しだったね。手強いなあ。
「まさか。そこはほら、ちゃんとケース・バイ・ケースで行動できる。それとも何、見られちゃまずい?」
言うが早いか、胸に一発パンチを食らった。照れてんのか、つっこんでんのか、分かんないなあ。
言い訳をさせてもらえるなら、その時の俺は少々苛立っていた。俺にしては、いやらしい考えが浮かんだ。俺の中の何かが、俺にこう、囁きかけてきたんだ。
(チョット、カキマワシテヤレ)
俺は、不敵な笑みを意識した。
「……面白い話がある」
だめだ、言ったら、契約違反だ。
(キモニメイジロ、アノヒトハ……)
相反する俺の中の声が戦って俺の鼓動が高まる。
しかし、それでもまだ、奴の表情はピクリとも動かない。
「あ、信じてない顔」
ようやく、といった感じで言葉を見つける。
「信じられるか」
俺の心が、キレた。
「お前、本当に知らなくていいの?」
ドクン。ああ、俺ってやつは。
(アノヒトノ、トナリハナ……)
せめて、俺は奴だけに忠告してやろう。指で合図して耳を借り、声をひそめる。
「四ノ倉さんは、モテる。お前の周りは、敵が多いぞ」
(オマエデハ、ツトマラン)
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