第18話

言いようのない気まずさのような感情がこみ上げてきた

目を瞑っていた痛いところを抉ってしまったようだ

孤独と向き合えない

他者を鏡にしないと自分を肯定出来ない

社交性という言葉を笠に着て、

他の誰かに自分の居場所を作ってもらっているんだ

本当は情けないほど弱いのに、自分が弱いということも認められない

だからこそ、孤独を纏ってひとり自分の足で立っているような彼女の姿に

憧れているのかもしれない

みんな、どーやって立ってんの?

羨ましいなんて笑うお前らの方が、よっぽど上手く立ってんじゃん

こんな夜中にひとりで歩いてると余計な事しか浮かんでこない

なんか疲れたな

いつの間にか自分の部屋の前

弱気な自分の影を閉め出すように玄関の扉を閉めて鍵をかけた



終電間際の電車で暗闇に彼女を見送るようになって

蝉の声は鈴虫の声に変わって

街路樹の色もむせ返るような緑から鮮やかな黄色に変わっても

僕は黙って見ているだけで

彼女も黙って乗っているだけで

僕は何も変えられていなかった

先輩には、どーしよーもねーなと言われた

情けないがその通りだと思う

でも日課のように彼女の姿を探す時間は

僕には大切なものになっていた

お前、もう病気なんじゃねーの?と先輩から笑われた時、

店長からまた早番に戻ってくれと言われた

わかりました、とすぐに答えた

この頃には自分は上手くやっているという意識ではなく

上手く誰かに誘導してもらう方が賢いんじゃないか、

なんて考えが頭を過ぎっていた

助かるよ、と店長に笑顔で送り出され

事務所を出るとコーヒーワゴンの子に詰め寄られた

「どうしてすぐ受けちゃうんですか?」

「え?なに?」

「また早番に戻っちゃうんでしょう?」

「うん 仕事だからね」

口をついて出た、仕事だから、という言葉に

女の子は黙り込む

参ったな

なんか厄介な感じがする

「わかってますけど…寂しいです……」

「……しょうがないよ」

なんで付き合ってもないのに別れ話みたいな事してんだ

「またすぐ新しい人 入って来ると思うし」

慰めてるのか突き放してるのかわからない言葉をかけて

何か言いたそうな顔をしているこの子に

「じゃあ、仕事頑張ってね お疲れ様 ありがとう」

そう言って半ば強引に会話を終わらせた

好意を持ってくれてるのは知っていた

まあまあ いい子なのも知ってる

今までなら受け入れるには充分な理由だったが

今の僕には、それじゃ足りなかった

好きでもない子に向き合う自信がなかった

きっとこの子の向こうに彼女を探してしまう

そんなの失礼だろ?

だから、これでいい

……以前の自分に言ってやれよ

今まで自分から好きになった子なんていたのかよ


前進してるのか後退してるのか

さっぱりわからなかったが、それでもいいと思った

たまには立ち止まったっていいじゃないか

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る