第13話

僕はよく人に裏表が無さそうだとか、

素直だよねと言われる

怒ること無さそうだとか、穏やかだとか、

純粋で真っ直ぐで、何にでも一生懸命だとか

そんなわけないだろ

僕だって腹の立つことくらいあるし、

嫉妬とか、怠惰だとか

利己主義な考えくらいある

誰だってそうだろ?

そう見えないのは、見せてないだけだ

人と関わる時は表の面だけ出して、

裏の感情は隠す

波風立てずに丸くおさめる方が絶対に得だ

見せなきゃわからない

相手に伝わらないことなら、

その相手にとっては何も無かったのと同じ事

……そうだ

そうやって僕はいつも、人生を渡ってきた

相手を馬鹿にしているわけでも、見下しているわけでもないし

欺いているつもりもない

本音をさらけ出してぶつかって

傷つくのが怖いんだと思う

正面からぶつかり合ってケンカして仲良くなる、とか言う人がいたけど

仲良くなれなかったらどうするんだ

決裂することだってあるんじゃないのか?

それなら無用な争いは回避する方が賢明じゃないのか

現に僕は上手くいってるよ?


時計の針が夕方の交代の時刻を指す

「お疲れさん ちょっと事務所で話、いい?」

店長にそう言われ

「はい」

とこたえて一緒に事務所に戻る

何かやらかしたか?

いや、まさか 有り得ない

すると店長は緊張したような顔で切り出した

「三ヶ月早番やったから、今度は遅番に入って欲しいんだけど」

店長の言葉に拍子抜けした

「もちろんいいですよ」

店長はホッとした顔で

「良かったー!嫌だって言う人、結構いるんだよね」

「そうなんですか?」

「うん 特に君みたいに現場研修で来た子はね、

遅番が嫌で辞めちゃった奴もいたなぁ」

いや、それはそいつがダメだろ

「じゃあ来週から遅番ね」

「はい わかりました」

時間帯の確認をして、僕は事務所を出た

確かにこの仕事は辞めていく奴も多いだろう

僕が研修に来てからも何人か新しいバイトの子が入って

顔を覚える前に来なくなった奴もいた

作業は慣れれば単純だが、環境に馴染めないとキツイと思う

……遅番か

じゃあ早起きしなくていいんだな

てことはあの車両に乗れないのか

桜咲く頃に見つけた人形の彼女

あれから僕が乗る時には必ずいた

同じ場所で

同じ表情で

同じ姿勢で

静寂を纏って

触れてはいけないような神聖なものに見えて

……彼女の中を知りたくなった

微動だにしない表情

遠くに投げられたままの視線

その目には何が映っているのか


でも週末にはほとんど見かけない

来週からは遅番だ

これは触れるなと言われているのかな

自嘲的な笑いが込み上げる

こういう事は上手く行かないのな

はいはい、抗いませんよ と運命に返事をして帰路についた




週明け

明るくなった部屋で目を覚ます

もう昼か

アラームは必要ない

今日から遅番での勤務

出勤時刻は17時だ

変な感じだな

テレビを付けたら見慣れない番組

とりあえず顔を洗って菓子パンを齧る

何をしていいのかわからず、ぼーっと画面を見つめていた

芸能ニュースとか興味ないんだよなぁ

テレビを消してカーテンを開けた

日は高く 街は明るく 既に動きだしていて

やっと起きたのかと言わんばかりの日差しが降り注いでいた

悪かったな 今から動くんだよ

部屋にいてもすることもないので、

着替えて外に出ることにした


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