第X章:∞

楽しげな笑顔、健康的な色の肌、滑らかな腰つき、豊かな胸、そして純白の『衣装』のみを身に纏った美女たち・前

「ふふふ……♪」


 眩い光のような純白の壁に囲まれたとある『部屋』の中で、純白のビキニ衣装のみを身に纏った1人の美女が光悦の表情を見せながら、目の前に置かれた大きなグラスのようなものを眺め続けていた。中に敷き詰められていたどす黒く汚い液体のようなものがゆっくりと動くにつれ、まるで色が抜けるかのように一寸の汚れもない純白に覆われていった。汚れた液体の部分がまるで抵抗するかのように蠢く箇所もあったが、その部分を美女が外から指で弾くとあっという間にその部分も純白へと変貌した。

 

 そして、美女が喜びの表情を見せるのと同時に、グラスの中身は全て純白――彼女が最も好む素晴らしい色へと変貌した。混沌と愚かさ、哀れさに満ちた暗黒が、真の平和を示す色に満ちていく過程を見届けた彼女は、そのままうっとりしながらその純白の液体がゆっくりとグラスの内部を動く様子を眺め続けていた。


 すると、彼女の隣にもう1人、別の存在が何の前触れもなく表れた。少しだけ驚きながらも、彼女はその存在に対しても顔を赤らめながら笑顔を見せた後、互いにその麗しい唇を交しあった。


「……ふふ、私……♪」

「……ふふ、♪」

「もう、私ったら……♪」


 今更必要ないのにで呼んじゃうなんて、と少し窘めるような、しかし嬉しそうな言葉を述べながら、もう1人の女性はビキニ衣装に包まれた胸を、自分と全く同じ姿形を持つ黒髪の美女の背中に当てた。更に顔を真っ赤にさせてしまった彼女の様子に少しだけ謝りながら、もう1人の彼女もまた彼女の傍にあったグラスのようなものへと視線を向けた。その中に満たされていた純白の液体は、先ほどよりも若干水かさが増したようであった。



「いつみても良い光景よね、私……♪」

「本当ね、……♪」


 このグラスの中で、純白のビキニ衣装のみを纏う絶世の美女が生まれ、それぞれ長く苦しい日々を過ごし、やがてそのうちの一部が様々な事情でグラスの外側へと飛び出し、そして残された存在が内部に充満していた汚れをすべて拭い去り、全てを『純白』で覆い尽くす――この場所に来た時、他の皆が口々に教えてくれた不思議な言葉の意味を、彼女は先ほどまでつぶさにその目で、その心で感じ取ることができた。別の自分自身と共に飛び出したグラスの中は、あっという間に『自分自身』という存在を象徴する煌びやかで美しく、そして憧れに満ちた色へと変貌していったのである。



「このグラス1つ1つの中に、私たちの『世界』が閉じ込められているのよね……」

「不思議だけど、面白いよね……♪」



 グラスの中を覆いつくすのも良いけれど、こうやって傍にいてくれる私自身も大好きだ、と言いながら、彼女は先程自分の顔を真っ赤にさせた分のお返しを別の彼女に与えた。『世界』の中に閉じ込められていた頃には考えもつかなかった、ずっと自分が尊敬し続けていた素晴らしい存在と対等に語り合い、一緒の時間を共に過ごすことができる喜びを、彼女は存分に堪能していた。そんな自分自身の様子を見た彼女は、そっと彼女の目の前にあるものを見せた。それは、あの『世界』と呼ばれる純白の液体に包まれた、彼女の傍にあるものと全く同じグラスであった。それも1つだけではなく、何十、何百個も。それら彼女が別の場所から持ってきたのではなく、別の自分自身の喜ぶ顔、そしてやり返した時の悪戯げな笑みを楽しめた事に対する感謝のため、その場で彼女自身がしたものだった。



「わぁ……あぁ……!」

「ふふ……ちょっとやり過ぎちゃったかしら?」



 言葉に表せないほどに喜んでくれるなんて思わなかった――そうもう1人の彼女が語ったほど、彼女は自分のたわわな胸の中にある心の興奮が抑えきれない様相を見せていた。当然だろう、目の前にある何百個ものグラス=『世界』の中を染める純白は、数や時間の概念を超越してもなお数限りなく増殖を続けている存在で満たされている証なのだから。しかも、どのグラスの中も水かさが少しづつ増し、もう少しすれば溢れかえりそうなほどであった。


 いつかこの『世界』の作り方を教えてもらう事になるだろう、と告げる別の自分に、その時間が訪れるのが待ち遠しくて仕方がないような無邪気な笑顔を彼女が返した時、この『部屋』に新たな訪問者が現れた。



「あ、私♪」

「「まあ、私♪」」


 

 そろそろグラスからが溢れ始める時が近づいている事を知らせにやってきた、3人目のビキニ衣装の美女である。


 彼女の言葉に導かれるかのように、2人の彼女は傍にあったグラス=『世界』を魔術の力で持ち上げるのと同時に、新たに来訪した彼女と共にこの部屋を一瞬で後にした。やがて3人が辿り着いた場所には――。



「「「わぁ……!」」」



 ――汚い色の液体がなみなみと注がれているグラスが地平線の果てまで無限に埋めつくしているという、壮大な景色が広がっていた。そして、3人を更に興奮させたのは、その空間を取り囲むように彼女たちを待っていた集団であった。



「あ、私♪」私もいるわ♪」私も♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」私♪」…


 

 グラスが無限に並ぶ空間の反対側には、全く同じ声を響かせ続ける無数の美女の大群がずらりと並んでいた。全員とも全く同じ形をした腰やお尻、同じ大きさに実らせた胸を、しわ1つまで寸分の違いもない純白のビキニ衣装で包み込んでいた。毎日のように眺め続けている風景であったが、いつ目に入れても心に感じても、彼女たちにとっては理想郷に等しいものであった。

 そして、その場に集まった美女たちの手には、揃って同じ量の純白の液体が詰まったグラス=『世界』が握られていた。大量の彼女たちもまた、純白の壁に囲まれた無数の部屋から程よい時間を見計らい、この場所に集まってきたのだ。やがて、互いの興奮が収まったのを確認しあった彼女たちは、用意してきた『世界』をそっと大量のグラスが並び立つ空間の中に設置した。その瞬間、中に充満していた純白の液体――単一の存在によって完全に支配され、何物にも乱されることがない真の平和を実現させた『世界』が、グラスの中から一気に溢れ始めたのである。

 


「「「「「「「「「「「「あぁん……素敵……♪」」」」」」」」」」」」」


 

 まるで湧き水の如く、大量のグラスの中からどんどん外に噴出し続ける純白の液体は、周りの空間を純白で満たし続けるのと同時に、傍に設置してあったどす黒く汚い色の液体で満ちたグラス――別の『世界』の中へと次々に侵入していった。最初はまるでその純白の美しさを受け入れないかのような動きを見せた液体も、時間がたつにつれて次第に汚さが抜け、最終的には彼女たちが何よりも好む煌びやかな純白へと変わっていった。あらゆる世界、あらゆる世界が、自分たちの色に染まっていく様子は、いつ見ても美しく素晴らしい光景であった。


 だが、それに加えてもう1つ、この空間には彼女たちの心を柔らかな胸ごと弾ませる素晴らしい要素があった。

 際限なく溢れながら、果てしなく続く無数のグラスの内部を自分たちと同じ色に変えていく過程で、純白の液体――数えきれないほどのビキニ衣装の美女の大群の一部は、まるで水しぶきを上げるかのように上の方向へと広がり始めた。そして、その水滴が彼女たちが見つめる場所に飛び散った時であった。



「「「「「「「「「「「「「「「「「あはははは♪」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」



 『純白の液体』の中に漂う目に見えない大きさの微小な粒子であった、あらゆる世界に拡散を続ける純白のビキニ衣装の美女が、満面の笑みとともに具現化したのである。その姿は、全員ともこの場にいる最高の存在とまったく同じものであった。声も心も、その豊かな胸の大きさも、何もかも同一であった。


 『世界』の壁を飛び出し、その外側に待つ無数の『世界』を思うがままに見下ろすことができる段階にまで達することができた新たな自分たちを、彼女たちは揃って快く受け入れた。名前も髪型も肌の色も違えど、全く同じ体、同じ心、同じビキニ衣装、そして同じ愛おしさを持つ女性――いや、女性の姿をした『概念』たちは、自分で埋め尽くされていくこの空間を、思う存分楽しみ続けた。


「あぁん、私!」あぁん、私!」あぁん、私!」あぁん、私!」あぁん、私!」あぁん、私!」あぁん、私!」あぁん、私!」あぁん、私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」私!」…


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