第7章・1:レインが一つの決着を見るまで(1)
レイン、急襲
その日、ダミーレインたちの一団はいつもと変わらず、とある『村』の道を埋め尽くしていた。
感情が見えない眼を開き、純白のビキニ衣装に包まれた胸の柔らかさが感じられないほど規則正しく動き、外敵への警戒や村の維持管理を続けていた。
この場所はかつて、世界を手に入れんと企む魔王の手下である魔物――いや、元勇者であり現在は魔王と共に世界を狙い続けているレイン・シュドーにより一夜で占拠された。そこに住んでいた村人は全員とも、自分たちに何が起きたのか知る由も無いままその存在が永遠に消え去り、新たなレイン・シュドーへと変えられてしまったのである。その後彼女たちは日々空間を歪めてこの場所を無限に広げ続け、建物は勝手に作り替えられ、特に名産品もなく地味だった村はあっという間に無数のビキニ衣装の美女たちで賑わう巨大な空間へと変貌したのだ。
だが、その日々も長くは続かなかった。人類がなす術も無かったレイン・シュドーをダミーレインたちがあっという間に蹴散らし、村を奪還してしまったのである。そして、村人が誰もいなくなった子の場所の留守を守るかのように、ダミーたちは人間たちに与えられた指示に従い、村を元通りに戻したりそこで日常生活の真似事を行うようになっていた。
何故このような事をしなければならないのか、何故自分たちは日々増え続けるのか――ダミーレインは一切の疑問を持たなかった。ただ彼女たちは、この村を魔物=レインから奪い取れば人間たちが喜ぶと言う事、そのような行為をするレイン・シュドーは紛い物の勇者であり自分たちこそが本物の勇者レイン・シュドーであると言う事のみしか考えなかった。自分たちが人間のために尽くせば、世のためになる――感情が見えない瞳を宿しながら、ダミーたちは日々その感情に従って動き続けていたのだ。
『おはようございます』
『『『『『おはようございます』』』』』
勿論、何故こうやって挨拶をするのかと言う事についても、一切考えていなかった。
ただ挨拶をすると言う行為のみを行い続けていただけなのである。
感情が一切見えない者たちで埋め尽くされたこの村であったが、それでも今日までは平穏無事な日常が続いていた。ダミーレインの持つ絶対的な力――『光のオーラ』の前に、魔王の元に下ったかつての勇者レインは一切勝つ手段を有していなかったからである。まるで全てを綺麗に洗い流すかのような浄化の光によって、彼女の体はあっという間に消え去ってしまうのだ。
ダミーレインも、そんな自分たちの力を十分認識していた。この『光のオーラ』があれば、世界を狙おうと企む紛い物を蹴散らすことが出来る、と自負していた――いや、正確には『自負している』ような思いを持っていただけかもしれない。ともかく、この光のオーラの力でダミーたちは次々に魔王の領域を奪還し続け、今や数箇所を残すのみとなっていた。このまま戦いを続ければ、後数日で魔王によって侵略されていた人間たちの町や村が全て人間とダミーレインの元に還ってくるという段階にまで来ていたのである。
だが、その人間たちにとっての希望、そして本物のレインたちにとっての絶望に満ちた未来は――。
『『『『『……!!』』』』』
――村の中心部で突然起きた大爆発によって、終わりを迎える事となった。
爆風で建物がひしゃげ、爆心となった道に巨大な大穴が開いている周りに、次々とダミーレインが集まり始めた。彼女たちも全く予想できず防ぐ事ができなかった事態であったが、全員とも慌てる素振りは一切見せず、淡々と爆発した現場の周りに密集していったのである。そして、彼女たちはそこに佇む存在に向けて、一斉に憎悪の表情を送った。命令されない限り感情を表に出さないダミーレインであったが、今回だけは違った。何故なら、そこにいたのは――。
「「「「「「「「「「……ふふ、こんにちは、レイン♪」」」」」」」」」」
――自分たちが蹴散らしたはずの、10人の『本物』のレイン・シュドーだったからである。
何故貴方たちがそこにいるのか、とダミーたちは一斉に声を揃えて彼女たちに問い質した。その声にもまた、世界を征服しようとする存在に対する憎悪の念がたっぷりと込められていた。これまでなら、レインはこれに対して余裕そうな素振りを見せながらもずっと逃げ腰の姿勢をとり、ダミーたちの総攻撃を受けるとそそくさと逃げ出してばかりであった。しかし、今回は明らかに様子が違っていた。10人全員が、まるで安心しきったかのような口調で返したのである。
この町は元々レイン・シュドーの物、自分たちがここにいるのが何故悪いのか、と。
余裕に満ちた言葉に一層憎悪の念を募らせるダミーレインの大群であったが、それ以上に彼女たちを苛立たせるものがあった。本物もダミーも、全員衣装は健康的な肌や柔らかい胸の谷間を存分に見せ付ける純白のビキニ衣装だった。どんな敵も寄せ付けない剣の腕や凄まじい魔術の力があれば、それだけで十分だったからである。しかしダミーたちは、いつでも臨戦態勢を取れるよう背中に剣を背負い、肩を防御するための覆いを用意し、外を歩くのに欠かせない靴を履いていた。だが、今回現れた10人のレイン・シュドーは、それらを一切身につけていなかった。彼女たちの全身は、あの純白のビキニ衣装以外何の装飾も無かったのである。
『『『『『……その衣装は何?』』』』』
『『『『『舐めているの?』』』』』
ダミーたちの問いに、10人のレインは口元に笑みを浮かべて告げた。これが、今の自分たちにとって必要な装備一式である、と。それが何を意味するのか、ダミーたちはすぐに察した。純白のビキニ衣装以外何も必要ないという事は、すなわち彼女たちはそれだけでダミーたちを『倒す』事が出来るというのと同じであると言う、宣戦布告に等しい言葉だ、と。
10人のレインを取り囲んだダミーたちは、一斉に右掌に『光のオーラ』の球を創り始めた。何万も輝く美しい浄化の光とは裏腹に、彼女たちの表情は怒りに満ちていた。憎むべき相手に散々舐められたのでは腹の虫が収まらないとでも言わんかのごとく、歯軋りをしながら中央にいる無防備な美女たちを睨み続けていたのである。
そして、彼女たちは掌の上に浮かべた光の球を――。
『『『『『食らいなさい、偽者!!』』』』』
――叫びと共に、一斉にレインたちに向けて投げつけた。
そこには、自分たちと同じ姿形をしたものが浄化され、この世界から消え去る事に対しての躊躇は一切無かった。むしろ自分と全く同じ姿形をした『偽者』が消え去る事に対する爽快感のようなものがあったのかもしれない。そして今回も、散々自分たちを舐めてかかった連中に対して圧倒的な勝利を収めたという功績、そして再び人間たちに褒めてもらえると言う安らぎがダミーたちを待っている――。
「ふふ♪」
――はずであった。
眩い浄化の光が消え、何が起きたか眼ではっきり確認できるようになる前から、ダミーたちの耳には信じられない声が響いていた。先程の余裕たっぷりのレイン・シュドーの笑い声が、確かに聞こえたのである。それも1個だけではなく、2個、4個、10個、数十個とどんどん増していった。そして、あの浄化の光が完全になくなったその時、突然そこから何かが凄まじい勢いで噴き上がり、村の上空を覆い始めたのである。
太陽の光を遮り、村が影に包まれる中、一斉に空を見上げたダミーレインは、一斉にその眼を見開いていた。その瞳には、明らかに愕然としたような感情が見えていた。しかし、そのような事態になるのも当然かもしれない。空一面を覆っていたのは――。
「ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」ふふふ♪」…
――『光のオーラ』を全身に浴びた事で何億人にも増えた、本物のレイン・シュドーだったのだから……。
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