レインと魔物
確かに、レイン・シュドーは自分自身が世界で何よりも大好きだった。1つに結った長い黒髪も、正義を貫く瞳も、たわわに実る大きな胸も、健康的な肌も、そして彼女の体を包み込む純白のビキニ衣装までも、彼女にとってはあらゆる価値あるものを凌ぐ、世界で最も愛すべきものであった。そして、それが無限に増え続ける日々を、毎日楽しみにしていた。
だが、それはあくまで『本物』のレイン・シュドーへの愛であった。この美しさを有する者は本物の自分自身しかいないと何万何億、もしかしたら何兆人にまで増えているかもしれない全ての彼女は思い、信じ続けていた。だからこそ――。
「「「「「「「はあっ!!!」」」」」」」」
――『本物』のレインは、自分たちの姿を模倣し欺こうとした『偽者』に攻撃する事に対して、一切の躊躇が無かったのである。例えそれが、数千人の自分と同じ姿をした存在を数万人で一気に攻撃するという、卑怯にも見える手段に出たとしても。
「「「「「……くっ……!」」」」」
問答無用とばかりに放たれた攻撃用のオーラの嵐を、何とか地上にいる数千人の『レイン』たちは耐え抜いた。だが、その健康的な肌はまるで煤がこびりついたように黒ずみ、純白のビキニ衣装もその輝きを失っていた。彼女たちが一斉に睨みつけた数万人のレインの攻撃対象は、本物か偽者か争い続けていたレインだけではなく、その場で見守っていたレイン・シュドー全員だったのである。
だが、反論を述べようとしたであろう地上のレインたちは、上空に佇む大量のレインが揃って確信に満ちた怒りの目つきで自分たちを見つめている事に気がついた。その中には、あの凄まじい言い争いの嵐が勃発した際にその場を逃げ出したレインも含まれていた。彼女たちの心は皆、どちらが本物か偽者かと言うもの以前に、一体何故そのような事態が起きてしまったのかという「困惑」や、原因を探りたいとする「探究心」で満ちていたのである。それは、醜く自分たちの意見をぶつけ合うと言う愚かな人間たちのような振る舞いをするレインに似た何かとは全く異なる考えであった。
「「「「「「「おかしいと思ったわ。貴方達は私が思う事『以外』の事を考えていたもの」」」」」」」」
つまり、あの言い争いの場にいたレインたちは、全て『偽者』だったのである。
自分たちを騙すためのチャチな芝居など通用する訳が無い、と怒りの声が響いた直後であった。地上から戻ってきたのは、明らかに「レイン・シュドー」ではない、全く違う存在からの返事であった。
「「「「「……これはこれは、茶番を失礼致しました』』』』』
明らかにレインとは異なる慇懃無礼な敬語であったが、それ以上に本物のレインたちの心に刺さったのはその響きであった。彼女たちが今まで一度も聞いた事がない、汚物まみれで底が見えない沼から響くような汚らわしくも恐ろしい声だったのである。いくら愚かでも、心が弱い「人間」ではこのようなとことんどす黒い響きを出す事はできないだろう。ならば、一体何者なのだろうか。
「正体を見せなさい!」見せなさい!」見せなさい!」見せなさい!」見せなさい!」見せなさい!」見せなさい!」見せなさい!」見せなさい!」見せなさい!」見せなさい!」見せなさい!」見せなさい!」見せなさい!」見せなさい!」見せなさい!」見せなさい!」見せなさい!」見せなさい!」見せなさい!」見せなさい!」見せなさい!」見せなさい!」見せなさい!」見せなさい!」見せなさい!」見せなさい!」見せなさい!」見せなさい!」見せなさい!」見せなさい!」見せなさい!」見せなさい!」見せなさい!」…
何万も重なり合い、町のあらゆる場所に広がったレインの声が収まった直後、地上にいた『偽者』のレインたちは一斉に頷いた。その瞬間、一斉に偽者たちは『レイン』の姿を解き、泥の塊を思わせる固形状の漆黒のオーラへと変貌した。そしてオーラは次々に中央へと寄り集まり、巨大な「塔」を形成し始めた。やがて、レインたちが見下ろす地面に、鋭く尖った円錐が現れ――。
「……!」……!」……!」……!」……!」……!」……!」……!」……!」……!」……!」……!」……!」……!」……!」……!」……!」……!」……!」……!」……!」……!」……!」……!」……!」……!」……!」……!」……!」……!」……!」……!」……!」……!」……!」……!」……!」……!」……!」……!」……!」……!」……!」……!」……!」……!」……!」……!」……!」……!」……!」……!」……!」……!」……!」……!」……!」……!」……!」……!」…
――まるで水飛沫を撒き散らすかのように、巨大な黒い棘を次々に放ち始めたのである。
勿論、そのような不意打ちがレインに通用するはずは無かった。日々鍛錬を積み、自分自身をより強く、より美しく磨き上げる努力を怠らない彼女にとっては、こういった攻撃手段を封じるのはお手の物であった。漆黒のオーラで構成されている黒い棘など、全身に纏った漆黒のオーラをより濃くすれば十分に防ぐ事ができるのである。もし間に合わなくても、自らの剣や掌にオーラを纏わせれば、触れただけでも攻撃を消し去る事は可能である。
だが、すぐにレインたちは、この黒い棘は攻撃のために放ったものではない事に気がついた。あの円錐状の塊は、レイン・シュドーに化けていた偽者の体に纏わりついた水滴とほぼ同様のものだったのである。
そして、全ての攻撃が収まった場所――レインたちに取り囲まれる空中に現れたのは、彼女たちが一度も見た事が無い存在だった。
『ふふふ……始めまして、レイン・シュドー♪』
そこに現れたのは、1体の魔物であった。
「魔物」であると一発で分かったのは、漆黒のオーラや空中浮遊などだけではない。その風貌が、レインに様々な指示を与える魔王と雰囲気が似ていたである。だが、オーラと同様にどす黒い衣装以外は、トカゲの頭蓋骨のような頭に、骨を思わせる真っ白の手や尻尾など、全く異なる姿をしていた。
だが、レインは今までこんな魔物は見た事が無かった。
「貴方……何者……?」何者……?」何者……?」何者……?」何者……?」何者……?」何者……?」何者……?」何者……?」何者……?」何者……?」何者……?」何者……?」何者……?」何者……?」何者……?」何者……?」何者……?」何者……?」何者……?」何者……?」何者……?」何者……?」何者……?」何者……?」何者……?」何者……?」何者……?」何者……?」何者……?」何者……?」何者……?」何者……?」何者……?」何者……?」何者……?」何者……?」何者……?」何者……?」何者……?」何者……?」何者……?」何者……?」何者……?」何者……?」何者……?」何者……?」何者……?」何者……?」何者……?」何者……?」何者……?」何者……?」何者……?」何者……?」何者……?」何者……?」何者……?」何者……?」…
一斉に飛んだ疑問の声に、その『魔物』は汚らしい声で答えた。
自らの名はゴンノー、人間たちと共に世界の平和を目指すために奮闘する軍師である、と……。
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