力の勇者の宴会
「「「「「「こんばんは、ご主人様♪」」」」」」
町外れの豪邸の空が夜の闇と星空に包まれた頃、中では華やかな夕食が繰り広げられていた。
自慢の豪腕を見せ付ける衣装を身に付けた、かつての力の勇者『フレム・ダンガク』が部屋を訪れると、そこには全身をビキニ衣装で包んだ女性たちが笑顔で待ち構えていた。ただのビキニではない、その衣装は大量の宝石や鳥の羽で飾られており、まさに身につける宝石箱と言った様相であった。
何百もの大きな胸が揺れるたび、青や紫、赤、緑、黄色など様々な宝石の光が放たれ、フレムの体を煌びやかに包み込んでいた。
午後に起きてはぐうたらな生活を過ごす彼にとって、世界を救った後の一番の楽しみはこの時間だった。
「フレム様、私たちが頑張って作った料理です♪」
「さ、口を大きく開けてくださいね♪」
「よーし、分かった、あーん♪」
「「あーん♪」」
ビキニ姿の左右の美女から、美味しい食事をスプーンで渡される彼。まるで赤ん坊や子供のように、優しい手つきのメイドたちによって、彼は腕を一つも動かさずにどんどんご飯を食べていった。そして、その傍らで――。
「あぁん!」「きゃっ!」
「おっと失礼……宝石以上に綺麗なものに触れたかったものでね」
「も、もう、ダンガク様♪」
「はは、冗談さ」
そう言いながらも、彼の顔は正直ににやついていた。手持ち無沙汰になった彼の両手は、時々こうやって近くに居るビキニ姿の美女の胸や尻、そして大胆に露出する太ももや腹に触れてはその感触を味わっていた。そして、彼の見る先には、たくさんの料理と共に――。
「うふふっ♪」ふふっ♪」あはは♪」あははっ♪」うふふ♪」きゃはっ♪」ふふ♪」にこっ♪」……
金髪や黒髪、様々な大きさの巨乳、そしてどれ一つとして同じものがない、煌びやかな宝石のビキニ一枚に身を包んだメイドたちがいた。
「ダンガク様っ?」「気持ちいいですか?」
「あぁ、なんて気持ちがいいんだ……」
胸や尻と同じように、その太ももの気持ちよさも、彼にとっては自らの『欲望』を満たす最高の材料だった。肉や魚、卵などを大量に使った料理を食べ、近くにあった酒を飲ませてもらい、そして大量の美人メイドの肌に触れる、まさに酒池肉林、贅沢の限りだった。
「うふふっ♪」ふふっ♪」あはは♪」あははっ♪」うふふ♪」きゃはっ♪」ふふ♪」うふふっ♪」ふふっ♪」あはは♪」あははっ♪」うふふ♪」きゃはっ♪」ふふ♪」うふふっ♪」ふふっ♪」あはは♪」あははっ♪」うふふ♪」きゃはっ♪」ふふ♪」うふふっ♪」ふふっ♪」あはは♪」あははっ♪」うふふ♪」きゃはっ♪」ふふ♪」……
半裸の美女に囲まれながらだらしなく笑う今の彼を見て、誰が『勇者』だと思うだろうか。
~~~~~~~~~~
宴もたけなわになり、宝石のビキニに身を包んだ美人メイドたちに囲まれ続けたダンガクも、酔いと共に顔が真っ赤になってきた。表情や服装もだらしないものになり、筋肉に紛れた贅肉もたっぷりと露出している。そんな彼の元に、左右からメイドが一人づつやってきて彼に言った。
「ねえダンガク様」「昔の話を聞かせてくれませんか?」
「むかしぃ?あぁ、この俺が、魔物を次々にやっつけた話かー!」
腹いっぱい夕飯を食べ、飲みたいだけ酒を飲み、そして堪能するだけ美女と戯れた彼は、気が大きくなったのか、そのまま昔話を語り始めた。普段はこうやって過去の事を聞くと、少し深刻な顔になり、いろいろ大変だった、辛かった事も多かった、とネガティブな内容ばかりになる彼だが、今日は違った。ここにいるメイドたちの町を守った話が、次々に語られていったのである。
「きゃー、じゃああの時も?」
「そう、この俺と仲間が、一気にやっつけたわけさー!」
「さすが勇者!」「かっこいいですわ!」
「だろだろー、他にもどんどん語っちゃうぜー?」
いつの間にか、彼の周りには話に耳を傾けるメイドたちの輪が何重にも渡って築かれていた。宝石のビキニに包まれた大きな胸や、ちらりと目線を向けるたびについ食べてしまいたくなりそうな魅惑の腰つきが、まるで勇者を祝福するかのように並び立っていた。
そして、彼女たちがどんどん褒め称える度に、ダンガクは調子に乗ってさらに語り続けた。様々な街や村、そしてこの世界の全てを回り、恐ろしい魔物を撃退したと言う彼の話は、やがてその元凶である『魔王』退治へと進んでいった。
「魔王って、とっても怖いのよねー」「ダンガク様も怖くなかったのですか?」
「怖くないわけ、ないだろー♪
でも、俺たちは頑張って挑んだんだぜ。可哀想な犠牲も出ちまったがなぁ~」
「かわいそーな犠牲?」
耳元で可愛い声で尋ねられた彼――力の勇者は、戦いの中で二人の尊い犠牲が出てしまった事をメイドたちに伝えた。自分たちの旅に付き合ってくれた、剣の勇者『レイン・シュドー』と、浄化の勇者『ライラ・ハリーナ』。この二人が命を落とさなければ、今の平和は無かっただろう。そう彼は語った。
「うぅ……」「そんな事があったなんて……」
「仲間思いなんですね、ダンガク様は……」
その話に感動するメイドたちを見ながら、ダンガクは心の中で思った。
確かに、彼女たちは『尊い』犠牲だ。ねちっこく自分たちに干渉してくるあいつらがいなくなったことで、こうやって幸せな暮らしが出来る、と。幸い、メイドたちも自分の命令をしっかりと聞き、『白いビキニ』衣装を身に着けてくるようなものはいない。そのような存在がいたらすぐに追い返す、と言う忠告が利いているのかもしれないが、あの衣装を見ただけで、忌々しい気分になってしまう、そう思っていたのである。
私たちは勇者。人々に迷惑をかけるような事は絶対に――。
「……けっ……!」
「ど、どうしましたか、ダンガク様!?」
――つい口から出た不満を見られた彼は、慌てて『魔王への憎しみ』だと誤魔化した。何とかメイドたちに例の真実がばれずに済んだ、と一安心した彼の元に、彼の右側にちょこんと座るメイドが語りかけてきた。
「でも、レイン・シュドーさんも可哀想ですね……私も、あの人に助けられたので……」
「はは、そうかいそうかい。でも、もうレインはいなくなっちまったんだ」
「そうですよね……」
「貴方たちの力によって」
それは、突然の発言だった。笑って受け流そうとした彼も、流石にその言葉の違和感を感じ取らザルを得なかった。どういう意味なのか、と尋ねたかつての勇者、フレム・ダンガクに向けて、そのメイドははっきりと言い返した。あの尊い犠牲によって、世界は確かに平和になった。でも、それは堕落した世界を貪り食うだけの『偽りの平和』でしかない、と。
「な、な、何を言ってるんだ、お前……!」
「世界の真実を言ったまでですよ。それに、世界は決して『平和』になった訳じゃない」
「う、うるさい!やかましい!お前、俺様に向かって何を言い出してるんだ!」
自分に仕え、甘い言葉を述べるだけであった美人のメイドが、突然ナイフを突きつけるような言葉と共に、心を批判し始める――彼にとって、それは自分の心を否定された以上の苛立ちを沸き立たせるものだった。いや、批判以上に、何故そのような事を知っているのか、と言う疑問の方が彼には大きかったのかもしれない。
そして、フレムの中に1つの疑問が浮かび始めた。それは、かつて魔物を相手に戦っていた時代に幾度となく味わった、「嫌な予感」そのものだった。いくら酒に酔っていても、いくら体を贅肉が包み始めようとしても、そしていくら堕落し果てても、ほんの僅かな『勇者』の名残は、彼の中に残っていたのだ。
「お前、何者だ!」
明らかにメイドではない、一体誰なのか。
だが、その答えが返ってきたのは、彼女1人だけではなかった。
「『フレム・ダンガク』」
「かつての力の勇者」
「そして、今はこの屋敷で、美人にまみれた暮らしをしている……」
「2人の勇者を、犠牲にしながら」
フレムを取り囲むメイドたちが、次々に言葉を投げかけ始めた。その瞳は、先程までの尊敬の眼差しとは全く異なる、冷たく見下ろすものに変わっていた。しかも、彼女たちが語り始めた事は、今まで一度も教えたはずが無かった、彼の過去についてだった。自分がピンチを救ったのではなく、ピンチだった彼がレインやライラたちに救ってもらった事、報酬を横取りしようとした事、そして、彼が魔王の顔を一度も見ずに平和が訪れたという事実――あまりにも突然の事態に対応し切れなかったかつての力の勇者『フレム・ダンガク』は、あっという間に血の気の色が抜け始めた。
「な、な、何者だよ本当に……お前ら、誰だよ!」
そして、メイドたちは笑い声と共に、一斉にその正体を現した。
「「「「「「「「「「「ただいま、フレム♪」」」」」」」」」」
「「「「「「「「「「「久しぶり♪」」」」」」」」」」
そこにいたのは、一切の汚れも傷も無い純白のビキニ衣装に身を包んだ女勇者、レイン・シュドーだった。
それも、数百人も。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます