女勇者、植樹

「おかえりー♪」おかえりー♪」おかえりー♪」おかえりー♪」おかえりー♪」おかえりー♪」おかえりー♪」おかえりー♪」おかえりー♪」おかえりー♪」おかえりー♪」おかえりー♪」おかえりー♪」おかえりー♪」おかえりー♪」おかえりー♪」おかえりー♪」おかえりー♪」おかえりー♪」おかえりー♪」おかえりー♪」おかえりー♪」おかえりー♪」おかえりー♪」おかえりー♪」おかえりー♪」おかえりー♪」おかえりー♪」おかえりー♪」おかえりー♪」おかえりー♪」おかえりー♪」おかえりー♪」おかえりー♪」おかえりー♪」おかえりー♪」おかえりー♪」おかえりー♪」おかえりー♪」おかえりー♪」おかえりー♪」おかえりー♪」おかえりー♪」おかえりー♪」おかえりー♪」おかえりー♪」おかえりー♪」おかえりー♪」おかえりー♪」おかえりー♪」おかえりー♪」おかえりー♪」おかえりー♪」おかえりー♪」おかえりー♪」おかえりー♪」おかえりー♪」……


 最初の『侵略』を完了し盗賊団の豪邸を『征服』した後、住居である地下空間へと戻ってきた5000人のレイン・シュドーを待っていたのは、25000人のレイン・シュドーだった。『レイン・ツリー』が天高く生えている場所にやって来た彼女たちは、とてつもなく広いこの場所の隅々まで、自分と全く同じ姿形の可憐なビキニ姿の女剣士が埋め尽くす空間をしっかりとこの目に焼きつけ、満面の笑みを返した。


 地下空間で蠢くレインのうち100人が地上にある豪邸へと乗り込み、侵略と復讐の第一歩を築き上げた一方で、残ったレインたちは普段どおりに魔術や剣術の訓練を続けていた。空を舞い、前後左右、そして上下、あらゆる方向から剣を振りかざす自分自身との戦いで得意の剣術を磨く者もいれば、新たな自分自身を産み出したり、より複雑な物質の情報を自らに転写したり、はたまた未知の美味を創造したりと言った形で魔術を鍛え続ける者もいた。

 そして、今日の特訓が終わった彼女たちは魔王の指示の元で『レイン・ツリー』が聳え立つこの場所に集まり、垂れ下がった枝に実った新たな1000人の自分の目覚めを確認した後で、無事に帰還し数も大幅に増えた自分を出迎えた、と言う訳である。


それにしても、一体何故レインたちはこの場所にわざわざ集められたのだろうか。


「ねえ、魔王……」「「「「「これってどういう事?」」」」」

 


 そう尋ねられた魔王は、帰還したレインのうち、9人が持っていた黒い球――地上の森で生えていた普通の木を一本づつ封印した物体をこちらに渡すよう命令した。それに従い、レインが球を渡した瞬間、黒い手袋を着こなす魔王の目の前で9つの球が浮き上がり、魔王の体の周りを飛び交い始めた。魔王の持つ黒いオーラが球の内部に注ぎ込まれている様子を、30000人のレインは目に焼き付けた。


 一体どうする気なのか、と言うレインの疑問を無視し、魔王は球を途轍もなく広い空間のあちこちに飛ばした。



「ここだ」


 魔王が静かに呟いた途端、9つの黒い球がふかふかの地面の上に落ちた。そしてあっという間に球は地面の中に潜り込み、跡に残ったのは種を植えた後を思わせるこんもりと盛られた土であった。

 そして、魔王の掌の中に小さなポットが現れた。


「「「……ま、魔王……?」」」「「「そ、そのポット……」」」

「……どうした」


「「「「「「「「な、何でもない…」」」」」」」」



 普通の家でお茶を沸かすようなお洒落なポットが明らかに『魔王』のイメージと合わない事を、レインは妙な気分で眺めていた。


 そんな彼女たちをよそに、魔王は件のポットを使い、あの黒い球が地面に埋もれた場所に丁寧に液体を流し始めた。普通の水にしては妙に白く濁っていたようだが、その正体はレインにも分からず、一体何が始まるのかとその様子を見守る他無かった。作戦や鍛錬などはしっかりと指示を行う魔王だが、説明をしない時にはレインがいくら問いただしても実際の結果が現れるまで何も返答をしないのだ。

 今回もそのパターンなのかもしれない、そう30000人のレインが一斉に思った、その直後であった。



「「「「「……え!?」」」」」



 魔王が9つの場所に白い液体を流し終えた時、突如としてその場所から物凄い勢いで植物が育ち始めたのである。一瞬で芽が出たと思ったらあっという間に背を伸ばし、茎はどんどん太く硬くなり、葉っぱも倍々に増えていき、やがてレインの目の前に現れたのは、封印される前と同じ――いや、その何十倍もの大きさにまで成長した、9本の『木』であった。




「「「「「「「「「「「「「「「す、凄い……」」」」」」」」」」」」」」」


 29999人のレインがその光景に目を丸くする中、先程魔王に黒い球を渡した1人のレインがある事に気がついた。青々とした葉を茂らせ、偽りの太陽の光をさんさんと浴びて聳え立つ9本の木の傍にもう1本、これらの木々と似たような姿の樹木が立っている事を。レインが何十何百人集まっても包みきれないほどの巨大な幹、日々元気に育つ無数の葉、そして魔王が与えた謎の液体――1人のレインがその答えに気づいた瞬間、同じ心を持つ残りの29999人も次々にその答えにたどり着いた。


「ねえ、魔王……もしかしてこれって……!」「あ、そうか!」「そうよね、これって!」「あれだよね!」「そーそー!」「絶対そうだよね!」「うんうん!」


 顔が嬉しさでほころびだしたレインに向けて、魔王は10本の木々から生える巨大な枝を見るよう指示を下した。そこにあったのは、まさにレインの予想通りの光景であった。元々あった『レイン・ツリー』を含め、この空間に生えている10本の木々の全てに、大きな実が大量に実っていたのである。

 それらの大きさは普通の木の実の何百倍、人間が1人すっぽりと入ってしまいそうなほどのものであり、そしてその中には本当に『人間』が1人づつ、目覚めを待ちながら眠りについていた。長髪のポニーテール、健康的な肌、純白のビキニ衣装、そして背中に背負った自慢の剣――その姿は、全員全く同じ『レイン・シュドー』そのものだった。

 

 これでレインは確信した。魔王がずっと行っていたのは、レイン・シュドーが毎日実り続ける永遠の命を持つ巨木『レイン・ツリー』の製造方法を、レインたちに見せると言うものだったのだ。



「魔王、ありがとう!」ありがとう!」ありがとう!」ありがとう!」ありがとう!」ありがとう!」ありがとう!」ありがとう!」ありがとう!」ありがとう!」ありがとう!」ありがとう!」ありがとう!」ありがとう!」ありがとう!」ありがとう!」ありがとう!」ありがとう!」ありがとう!」ありがとう!」ありがとう!」ありがとう!」ありがとう!」ありがとう!」ありがとう!」ありがとう!」ありがとう!」ありがとう!」ありがとう!」ありがとう!」ありがとう!」ありがとう!」ありがとう!」ありがとう!」ありがとう!」ありがとう!」ありがとう!」ありがとう!」ありがとう!」ありがとう!」ありがとう!」ありがとう!」ありがとう!」ありがとう!」…



「……ふん」


 30000人のレインからの感謝の言葉に、いつも通り魔王は鼻で返した。だが、その言葉には憎しみの感情は込められていない、と明らかにレインは分かった。手札を無限に増やせるだけの力を身に付けたからかもしれないが、それ以外にも何か理由がある――薄々だが、レインはそう察した。だが、そんな彼女の心を読み、思いを妨害するかのように、魔王が突っ込みを入れてきた。


「貴様ら、風呂はどうした。入らないのか?」


「……あ!」……あ!」……あ!」……あ!」……あ!」……あ!」……あ!」……あ!」……あ!」……あ!」……あ!」……あ!」……あ!」……あ!」……あ!」……あ!」……あ!」……あ!」……あ!」……あ!」……あ!」……あ!」……あ!」……あ!」……あ!」……あ!」……あ!」……あ!」……あ!」……あ!」……あ!」……あ!」……あ!」……あ!」……あ!」……あ!」……あ!」……あ!」……あ!」……あ!」……あ!」……あ!」……あ!」……あ!」……あ!」……あ!」……あ!」……あ!」……あ!」……あ!」……あ!」……あ!」……あ!」……あ!」……あ!」……あ!」……あ!」……あ!」……あ!」……あ!」……あ!」……あ!」……あ!」……あ!」……あ!」……あ!」……あ!」……あ!」……あ!」……あ!」……あ!」……あ!」……あ!」……あ!」……あ!」……あ!」……あ!」……あ!」……あ!」……あ!」……


 その言葉で、すぐさまレインは気持ちを入れ替えた。せっかく30000人にも増殖したのだから、ここは一気に皆でたっぷり風呂に入って気分を和らげよう、と考えたのである。そして、大量のレインたちはビキニ衣装に包まれた大きな胸を揺らしながら、明るく賑やかにこの部屋を後にした。



 そして、大量のレイン・シュドーが実る、10本の『レイン・ツリー』を、魔王は1人静かに眺めていた。無表情の仮面の下で何を思うのか、それを知る者は魔王本人以外に誰もいなかった……。

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