第8話 黄色い電話

なんでまたこんなところに 隆は走りながらおもった


自分は持ちうる力を駆使して全人生をかけ全神経を使いあの仕事を成し遂げたはずなのにそうして


もう一度やり直せるはずなのに その時明かりを見つけはっとして足を止めた


 電話ボックスが2つ並んでいる 久しぶりに見る


長く透明なボックス


 黄色い電話が見える しんとした暗闇にそれだけが浮かび上がっている


 かすかな悪寒が走ったがこんなところにいるよりはましだ


昔の光景がよみがえって来た 頭をひねって激しくのたうつ姿 のたうちが痙攣に変わるまでの


 永遠に続くのではないかと思われる長い時間 両手が伸びて虚空を打ちめちゃくちゃに振り回される


 頭を振ってその光景を追い払った あれはもう終わったことだ


自分は生きなおさなばならない


 汚れたガラスを開けて中に入る 


電話は変な風に混線していると見えてじりじりなったりびんびんと風の音が聞こえる


 すると 隣の箱から声が聞こえる 綺麗な女の声が


 「仕方ないわ ええかまわないわ それが道理なのよ」などと言っているのが聞こえる


はっとして横を見るとうつむいた若い女が話している


 「すぐでいいわ では切るわね」と言って女が電話を切ってゆっくりと顔を上げこちらを見た


 赤い唇が見えた

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