改札の愛情について

とりい

改札の愛情について

定期入れを持った手が、改札の光に触れるか触れないかの位置にただ数瞬とどまり離れ通り過ぎたかと思えば、また次の通過者が現れ同じような動きを繰り返すがその動作は決して先のものと同じものではない。リュックを背負う人は改札の六歩前でそのかばんをくるり回して腹側にかけ定期券かなにかを見つけかざすその時間わずか四秒、けれども引っかかる人もいて、その人はまるで恋人の別れを惜しむ抱擁のように、改札のその二枚の扉で阻まれてしまう。乱れなく続いていた流れはそこで一瞬途切れ、後ろ歩きで改札に抱擁されなかった残りの人のために道をつくる。できた道を気まずくも通り抜ける人、そんな顔なんてしなくていいんだ、列は列のことを愛しているし流れは流れを愛しすぎていて、ただ改札の愛とそれがぶつかってしまっただけなんだ。悪いことなんてなくて、悪意なんて想像もつかないただの物質が、そこに意志すらない重さを持ってしまっただけだから、人には難しすぎる物質の感情、ひかり以前のひかり、LEDの瞬き、人は人に助けてもらう、駅には駅員が居て、物の気まぐれに振り回されてしまった人のためため物に話を通す。呪文が滅んだので電磁誘導の目に見えない流れを使う。ICカードと話を通じさせる機械、そしてそれと指とをつなぐタッチディスプレイ、小さく発光している、それに触れる。ピッと音を立て、ICカードは改札の愛なんてわからなくなる、人はもう一度改札を抜けようとして、抜けて、駅の外に出る。人の流れはずいぶん小さくなって、ぽつぽつと改札の声が鳴る。ICカード、これは人がまた駅に戻る証でもある。駅はいつでも人を待って光ったり暗くなったりする。

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