第46話




 スカムズの予告状が届き、警察内部は慌ただしくなっていた。剛は、心愛命記念病院の会議室に捜査本部を展開し、対策に追われていた。



「部長! 監視カメラの設置、完了しました」



 剛の部下、真山が言った。まだ20代の、若い男の刑事だ。



「あぁ。ありがとう」



 院内は、常設の監視カメラの他に、死角がなくなるように更に監視カメラを増やした。捜査員を変装させて、患者や医師、看護師の中に紛れ込ませた。


 厳戒態勢で、スカムズが殺害予告をした日、金曜日の夜に備えていた。



「ですが、郡上燻の病室はどうしても監視カメラの設置をさせてくれないんですよ。特殊なセキュリティとかで、病室は疎か、特殊閉鎖病棟にすら近づけなくて」



 心愛命側が、頑なに拒否しているのだ。心愛命の要求には従うように、という尾乃陀総監の指示なので、剛も強くは出られなかった。


 剛は人差し指で眉間を押さえた。



「仕方あるまい。予告日当日だけは特殊閉鎖病棟にも立ち入らせてくれるそうだ。あくまでも、病室は立ち入り禁止のようだが。当日、郡上燻の病室周辺は、30人体制で警備する」


「了解です! でもなんか、納得いかないでですね」


「うむ……納屋橋は何をしている?」



 剛は、突然思いついたように聞いた。



「納屋橋管理官ですか? 今は別の殺人事件で捜査本部に詰めてます」



 剛は眉間に人差し指を当てたまま、何かを考えていた。



「斑目管理官は?」


「斑目……分かりませんが、聞いてみます!」



 そう言って、真山は走って捜査本部を飛び出した。剛は、デスクに両手をついて首を垂れた。












 荘子が父のPCから拝借した警備配置図を、スカムズ屋敷のコタツのモニターに映していた。



「すげぇな、大統領が来るみてぇだ」


「目標がいる部屋に至っては上下左右、360度囲んでいますね」


「でも、肝心の目標がいる病室には捜査員が配置されないみたいだにゃ」


「どうやら、心愛命側が拒んでいるらしい」



 明らかに、心愛命の郡上燻に対する扱いは異常だった。奴らは、何かを隠そうとしている。



「やはり、問題はこの本棟と中央の特殊閉鎖病棟を繋ぐ地下連絡通路だな」


「ここしか入り口がないからにゃ、絶対に通る事になる」



 なづきは見取り図を見つめた。



「連絡通の攻略は、荘子に任せたい」



 なづきはそう言って、荘子を見た。荘子は頷いた。



「わかりました」


「頼んだ。それでは、脱出の段取りだが——」



 作戦会議は、大須の商店街が静かになるまで続いた。










 荘子が家に帰ると、剛がリビングのソファーに座っていた。



「お父さん、帰ってたの?」



 意外だった。


 事件を担当すると、父は余程の事がない限り家には帰って来ない。



「あぁ、ちょっとな」


「お疲れ様」



 そう言って、2階に上がろうとすると、剛が荘子を呼び止めた。



「なに?」



 荘子が振り返ると、父は背中を向けたまま、



「いや、何でもない」



 と言った。荘子はそのまま2階の自室へ行き、部屋着に着替え、1階のリビングに降りて行った。


 その時、すでに父の姿はなかった。



「お父さんは?」


「仕事行くって。少しでも休んでいけばよかったのに」



 母は、剛が座っていたソファーを見つめながら言った。







 こうして、作戦決行の日、金曜日を迎えた。




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