ダイブ!いんとぅ~ざ・SCUM(=^・・^=)

竜宮世奈

プロローグ〜彼女達との出会い〜

第1話 プロローグ




◆◆◆◆◆◆Evil personified◆◆◆◆◆◆



 雪が降り積もった真っ白な大地に、底知れぬ深い闇が横たわっている。


 空は厚い雲に覆われ、月の光も届かない。白い大地には、綿のように柔らかい雪が休むことなく、ゆっくりと降り続いている。


 森を下った遠くの下界には、虹色の灯りが鮮やかに闇の中に浮かんでいるが、こちらの丘の上では、木を組んで作られた小屋の、小さな窓からもれるわずかな光が唯一の灯りとなっている。


 小さな窓をくぐり抜け、暖かい光の中へ入る。そこには、暖炉の前で、白い髭をたっぷりと蓄えた老人が手作りの木の椅子に座り、床の上に敷いた赤いクッションの上には、ブロンドの綺麗な長い髪を持つ少女が、老人を見上げるように顔をあげてちょこんと座っている。老人は、少女に物語をするようにゆっくりと話しかける。



「いいかい。この世界に、人に嫌な思いをさせたり、人を傷つけたりする人間がいるだろう。その人たちは、人間ではない。人の形をした、悪魔の化身なんだ。良い人たちを惑わす為に存在している、悪魔の化身なんだよ。だから、もし、そういう人——悪魔の化身に出会ってしまったら、すぐに殺してしまいなさい」



 そう言って、老人は少女に黄金色に輝く刃のついたナイフを手渡した。



「でも、ひとをころすことはわるいことではないの?」



 少女は、エメラルドグリーンの瞳で老人を見つめる。



「悪いことではないんだよ。悪魔の化身を殺すことは、良い行いなんだ。大丈夫、心配することは何もない。女神さまが見守っていてくれる」



 少女は、ナイフを受け取った。刃物の冷たい現実的な質感が、少女の小さな手のひらに溶けていく。



 小さな窓の外には、柔らかい雪がゆっくりと降り続いている。





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
















 犯罪者など殺してしまった方が良いと、思っていた。






 それは、机の引き出しの奥に仕舞ってある、誰にも知られていない秘密の日記帳にすら書かないほどの、心の奥底にある密かな感情だった。



 その、誰にも明かす事が出来ない、決して理解されないであろう、小さな小さな、それでいて確かに心の奥底から鈍く響く感情を、代弁してくれるような存在が現れた。



 わたしは正義の名の下に、彼らを捕らえようとした。



 彼らを悪者として捕える、すなわち、彼らを悪として否定する事が出来れば、わたしの中に存在するこの小さな気泡のような悪しき(それは世間一般的な考えでの)感情も、同時に消え去ってしまうものだろうと、そう思っていた。




 そして、わたしは彼らを捕まえた。




 それなのに……





 どうして、あなた達がSCUMS凶悪犯罪者なの?












「白川刑事部長! 被疑者の死亡を確認、SCUMSスカムズの姿は確認できません!」


「くっ、またしても逃げられたか」



 壁一面を埋め尽くすモニターと、複雑な操作機器が並ぶ超高層ビルのコントロールルーム。


 その、モニターの青白い光だけが薄暗く照らす部屋の中で、スカムズ対策室室長の白川剛しらかわごうは、破壊された操作盤の上に置かれた拳を震わせていた。白髪の混じったオールバックの髪が、少し乱れている。目じりに刻まれた凛々しい皺が、小刻みに揺れている。捜査員の間にも、敗北感が漂う。


 しかし、スーツや防護服に身を包んだいかつい男性の捜査員達が詰めるコントロールルームでただ一人、白い肌にひと際目立つ黒真珠のようなくるりとした大きな瞳、前髪を眉の上で揃えた黒髪のショートカット、額に白い包帯を巻き、場違いなセーラー服に身を包んだ16歳の女子高生、白川荘子しらかわしょうこだけは、まだ幼さが残る眼差しでモニターに映る映像と施設の見取り図を交互に見比べ、脳内でビルのジオラマを組み立てると、そのジオラマの中で今まさに脱走しようとしているスカムズを発見した。



「いえ、まだです。スカムズはまだこの施設の中にいます」



 荘子は、そう訴えると同時に、ひらりと紺色のスカートを翻し、コントロールルームを飛び出した。



「なに? ま、待て、荘子! 危険だ!」



 剛が止めるのも聞かず、荘子は大理石の廊下を走り、階段を滑るように下る、闇の中に姿を消した。



「荘子を追え!」



 剛が出した指示に傍にいた捜査員が従い、コントロールルームを飛び出した。








 スカムズは、実に賢い連中だ。


 綿密に計画を練り、確実に実行する。もし何か問題が起きても、それを補える対策を幾重にも備えてある。とても注意深くもある。


 今回のケースは突発的な事案なのに、この手口の鮮やかさ。


 スマートに被疑者を始末し、そしてスマートに姿を消す。捜査員は手をこまねいているだけ。いつものパターン。



 でも、今回はそうはいかない。



 わたしは、これまでのスカムズの捜査資料を、熱心な信者が聖典を読み込むように何度も何度も熟読した。そして、微かに感じ取れる、特融の思考パターンを発見した。その思考パターンを、荘子は自身の脳内にインプットする。



 わたし(あるいはスカムズ)なら、こう考える。



 荘子は、使い古したポール・スミスの鞄から、自作の小型ボムを取り出した。それを床にセットする。



 床に左耳をつけ、聴覚に意識を集中させる。



 微かに聞こえる、数人の足音。



――今だ。



 荘子は、小型ボムから距離を取り、タブレットの画面をタップする。小型ボムが作動し、激しい衝撃と共に、床が崩れ、それとほぼ同時に、荘子も階下に飛び降りる。階下は、大きなパイプ状の通気口だった。



 破壊した際に起きた噴煙で、視界は限りなく悪い。



――いた。



 煙の向こうに、黒い影が3体。

 向こうからは、荘子の存在は見えていない。荘子は、スカートのベルトに挟んであった銃火器のようなものを手に取ると、黒い影に向けてそれぞれ1発ずつ放った。銃口から放たれた物体は粘着性のある柔らかなもので、その形状は段々と広がり、黒い影の顔を覆う様にしてピッタリくっ付いてしまった。



『うががががが』



 黒い影は、息が出来ないようで苦しみもがいている。


 そのもがき苦しむ声は、ボイスチェンジャーで変えてあるのだろう、機械的な音声になっている。



「マスクを取らないと窒息しますよ」



 次第に煙が収まり、3人の姿が露わになる。


 全身黒ずくめのスーツに、フード付きの黒いマント。背中の黒い翼。彫刻のような、獣人か何かの顔を模った形状のマスク。そのマスクに今、粘着性の膜が貼りつき、そのせいで3人は息が出来なく苦しんでいる。



「さぁ、マスクを取りなさい」



 そして、その顔を見せて。



『ふがぁぁぁぁ!』



 3人は、耐え切れずにそれぞれマスクを取ると、地面に投げつけた。



「まったく! なんなんだよおめぇさんは」


「ぷはー、苦しかったにゃあ!」


「……お見事」





「え……?」








 どうして、あなた達がスカムズなの――



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