ワンリミット・アンリミテッド~一秒間じゃ限界があるに決まってるだろ~
誇高悠登
第1話 入学式をサボったら天才が来た……
「はぁ。みんな凄いよなー。黙って長い話聞くだけなんて、俺は到底耐えられないのによ」
教室に俺は一人で残っていた。
本来ならば教室に残るなんて許されるはずもないのだが。
なぜなら、今、この時刻においては――『六道高等学校(りくどうこうとうがっこう』の入学式が行われているからだ。
「あー、だりぃ」
俺は新入生ではあるが、式に参加するのが面倒くさいので、こうして一人、教室に残っていた。
「入学式なんてさ、しても、しなくても入学できてるんだから、意味なくね?」
誰に言うでもなく俺は一人呟いた。
教室の窓から春の香りがした。
開花した植物。冬眠から目覚めた生命の香り。
俺はその匂いが嫌いだ。
新しい生活が始まるからとはしゃぐ、人間たちを思う起こさせるから。
嫌な風が頬を撫でた。
「一応、『六道高等学校(ここ)』に入学できたけど、別に何かやりたいことがある訳じゃないしな……」
『六道高等学校』は国が管理する高校であり、この辺りの高校の中ではかなりのレベルと言ってもいいだろう。
ここから国を動かしていく人間達もいるほどだ。
「つーか。自分でも入れたのが奇跡だと思うぜ」
俺――ライルの成績は至って普通だった。
いや、少し見栄を張った。
平均に届くか届かないかである。
知識量を図るテストではいつも平均以下。
身体に魔力を流して強化する――『魔強』は平均にぎり届く範囲。
魔力を異なる物質に変換して放出する『魔法』に至っては明らかに人より劣っている。。
「そんな俺がねぇ。世の中不平等だな」
俺の言う台詞じゃないのかも知らねーけど。
窓際の1番後ろの机。
そこが俺の席だった。
「本当、なんで俺が入っちまったんだよな……。これから大変だっつーの」
無理して入ったレベル高い学校だと、ついていくのが大変だと聞いたことがある。
入学して一日目から気が重かった。
「…………ねぇ」
「なっ」
俺の後ろにいつの間にか人がいた。
背後から聞こえてきた声にびっくりした俺は、思わず声を出してしまった。
さっきまで、誰もいなかったのに
「…………」
声をかけてきたのは相手なのだが、なぜか無言である。
その沈黙に耐えられなかった俺は、名前を聞いた。
「お前は……?」
初めて見る顔。
初日なのでそれこそ、クラスメイトの顔も全員覚えているか分からないが、だが、こいつは間違いなくこのクラスにはいなかった。
高い身長。
淡い色をした美しい長髪。
体つきから男だとは分かるが、男だとしても綺麗だと表現するのが相応しいほどに、こいつは整っていた。
「……」
無機質な目で俺を見る。
感情が全く読めない。
「なんだよ?」
しかし、いつまでたっても声を出さない男子生徒。
「……」
「ひょっとして、お前もサボりか?」
一緒にサボりに来たのか。
まったく、悪い奴だ。
仕方がないが、俺は親切にも忠告をすることにした。
「いいか、入学式はサボるもんじゃねぇぞ? いい学校に入れたんだから真面目に生活しないとな」
「……」
優しいな俺。
自分を棚に上げた忠告に対して、やはり、最初から変わらない、無の表情で立っているだけである。
「まじで、お前なんだよ」
流石に俺もイライラとしてきた。
黙って後ろに立ちやがって。
俺は後ろに誰かいんのは嫌いなんだよと、椅子から立ち上がって男の首を掴む。
「てか、さっきから聞いてんのか?」
俺よりも身長は頭半分ほど高い。
だが、身体は細いので、それほど力は強くなさそうだ。
頭の中で計算した俺は掴んだ腕に力を込めた。
「……あのさ」
中性的な声。
脳内に直接響くほどに魅惑的な声を聞いた。
その刹那。
「……へっ?」
俺の視界が回る。
無様に背から落ちてようやく自分が投げ飛ばされたのだと理解した。
「なに……?」
「式をサボるとか、くだらないことしないでよね」
俺を投げ飛ばした相手は、つまらなそうに言った。
「……」
今度は俺が黙る番だった。
本当は怒鳴りたいが――こいつ、かなり強い。
油断していたとはいえ、まさか、俺を投げ飛ばすとは……。油断しなくともやられてはいただろうけどな。
俺は、喧嘩も『魔強』を使った試合も、恐ろしく勝率が悪いんだ。
「ていうか、君……弱いね」
「うるせぇよ」
「弱すぎ……」
「あっそ。で、俺になんか用かよ。まさか、投げ飛ばすために、わざわざ入学式を抜けてきたのか?」
時計を見る。
まだ、式が終わるには早すぎだ。
今、ちょうど新入生代表の挨拶が終わったくらいじゃないのか?
こいつは何をするためにここに来たのか。
その答えを、男は口にした。
「このクラスの担任に頼まれただけ。僕、違うクラスなんだけどさ」
「頼まれた……」
「うちのクラスにサボってる阿呆がいるから、新入生代表として挨拶してこいって」
俺の担任か。
確か女性の教師だったのは覚えているが、どんな顔だったのか、はっきりとしない。俺が話を聞く気がなかったのが原因ではあるのだけれど。
その教師がサボっていることに気づき、連れてくるように命令したのか。
しかも、新入生の代表に。
「新入生代表ねぇ……。って、ええ!?」
新入生代表。
それはつまり、目の前にいる男が――今年のトップだということになる。
「まじかよ」
しかも、今年の新入生代表は凄いと入学前から噂になっていた。
俺ですら噂を聞いたことがあるくらいだ。
『知識』
『魔強』
『魔法』
そして更には、魔力を個人の特別な能力に変える『魔能』まで持っている、百年に一度の天才だと、俺は聞いていた。
まさか、そいつが……俺を呼びに来るとはな。
「……」
俺みたいな人間がこの高校に入るのは不平等だとか言っていたことが恥ずかしい。
自分の言葉が突き刺さる。
本当に不平等っていうのはこういうことを言うんだろうな。
俺のはただのマグレってところだ。
「ほら、早く行くよ」
倒れたままの俺に、早く入学式に向かうように指示するが、
「……やだね」
俺はそれを断った。
「あのさ……。ひょっとして投げ飛ばしたことを怒ってるわけ?」
「まさか……」
「じゃあ、なに?」
「俺は行きたくねーから、行きたくないわけ。俺はやりたいように生きるんだよ」
それを学年トップに決められてたまるかと俺は抵抗する。
「そう」
こいつの能面のような表情が――冷えていくのを俺は感じた。
とても同年代とは思えない迫力。
教室の空気が冷えて止まっているようだ。
「こないなら力ずくでいいって言われてるんだけど?」
だろうな。
天才に頼むくらいだから、予想は出来ていた。
力には力。
俺の力が通用するかは分からないが――、
「ま、天才の力を知るにはいい機会だ。是非とも経験させて――」
俺は立ち上がり、天才に挑もうとするが、それはできなかった。
頭部に激痛が走ったのだ。
俺を襲った痛みの正体。
それは、天才のくせに、俺が話している途中で、俺の頭を踏みつけるという姑息な行為の結果。
床と足に挟み込まれたことで生まれた衝撃だった。
硬い床に俺のデコが直撃する。
『魔強』も、受け身も取れなかった俺。
「おい……。てめぇ」
傷んだ部分を抑えながら、立ち上がろうとしたが、再度、天才の足が振り上げられた。
さっきよりも強い衝撃が俺を襲い――意識を失った。
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