終着駅





百億年も前に、爆発の光の中から生まれた

星の名残が、どうも僕らのようだった

そんな僕らも、百数十億年かの後に、遠い銀河で

命の光を生むためにまた、いつか星になるのだろう



重力で歪んだ時空に、外側はありましたか

丸い風船の外にはなにが広がっていますか

直進する光線はまっすぐ心を貫きましたか

感じられないすぐ隣に、いつでも並行世界のあなたはいますか


来世があったって現世で燻っていたって明日がなくたって今は生きているんだ

過去を忘れても希望がなくても足元が暗くても息をしているんだ

迷いながらも彷徨いながらも叫びながらも進んでいるんだ


僕らは星だったらしいから

このままある日いつしかいつの日か、遠い銀河の果ての

真空を照らす火の、一部にでもなれるのだろうかと

願っていた

星明かりもない夜





ノックのジェスチャーで、薄い膜が破けないかなと思っていた

うっかり真理に穴を開けて、if だと思っていた世界に会ってみたいと

あるいはあの人とうまくいっていた自分や

あなたともっと仲を深めていた自分や

人類はまだ誕生していない地球へ

遡れない時間旅行をして、立派に矛盾を孕んで

宇宙から疎まれて、不可避的にこの存在を消してみたいと


吐き捨てた言葉に愛はありましたか

丸い心の中には何が広がっていますか

曲折する通信はまっすぐ頭を貫きましたか

感じたかったすぐ隣で、温かさは冷たさでしたか


時代があったって世代があったって齟齬があったって二人は二人だ

若かりし彼らと今若い僕ら、足を引っ張っても同じ時間を吸っているんだ

重なりながらも引き剥がしながらも転がりながらも手を繋いでいるんだ


いつまでも、お伽の夢を信じていた

終わらない極夜の下で

人形のように行き交う人々と

寿命を一秒ずつ交換していく

双つの眼球を凍らせたら、世界への扉を閉ざせると思っていた






冷たい黒の中で、ぷかぷか泳いでいても星の熱に焼かれるなら

腐敗しない死に方はないのだね、と頭が嗤ったが


混沌から浮かび上がって、醜い腐り方をして混沌へ帰る

それが命というものだが


なんとなく、僕らは時の矢に叛逆はむかったのだったと記憶していた僕だった


ここは仮初めの居場所

そう、仮初めの居場所

あるいは仮初めの雨宿

仮初めの定点だね


だって、ここは仮住まいだから


今日の居場所は

明日の居場所ではないですので


つまり明日の居場所は

もはや今日の居場所ではありえないのですから







角笛が夜の闇を振動させて

小さな小屋の、蒼い月を受け容れた窓枠に

立てかけてあったいつかの街角は

僕らが覇気もなく取得し続ける何百万画素の毎日より、

遥かに鮮やかに死んでいた。


そこにはあなたがいて

 そう、あなたがいて

そうして撮影主のぼやけた親指があり

 そう、顔のない愚者が裏側で微笑んでいて

だから、セピア色の過去は僕を抱きしめるように

もういない全員の素直さで、硬くささくれた写真立てを濡らしていた。


溢れた雫はあの日の涙だ。


そこには、もう流れるべき時間というものは存在しないけれど、







白い語彙の中で

溢れた気持ちを音のない歌に乗せようとした

届ける相手はどこにもいなかったが、

あるいはそれは神秘で

それから奇跡で

二度と来ないこの意識の光だったのかもしれなかった


あとは、そうだな、

僕といつまでも、手を繋いでいたあなたとか


儚さに想いを馳せるのは切ないので

きっと僕はいつまでだって、日々切なくいるのだろうと思うのでした。

目の前から視線を逸らしたら

どうあがいても生きられない遠くの星や

どう考えても生きていない遠くの未来がくっきり視えたよ

そんなの幻想だって笑うなら

幻想でいいんだよと言える強さが僕にはあった


そこには光がありましたと

想ってもいない嘘をここに刻んで共に去ろう


流転して、

もう僕のいない明日にこれを旅人が見つけたなら

彼は呟くんだ、素敵な歌を見つけたと


鳥瞰して、

どこまでも見下ろしたつもりの景色は

どこまでもつぶらに濡れた瞳だったので


流石にこの子に嘘はつけないなと

いつかきっと本当になる嘘を僕らは言っておくんだ


そこには光がありました。

そこには心がありました。

そこには愛がありました。


それから、


君には明日がありました。

そして幸福がありました。


僕には幸福がありました。


そうやって、生まれたばかりの僕は喜んで指を舐めた






ねぇ、僕らは星だよ


そしていつかまた、どこかで名も無き星に、


青く朽ち減る、かしましい焱に、

もっとも無慈悲に、さようならと告げる運命に、

奇跡を恵む光の粒に、


僕らが一番嫌った世界とやらに、なるのでしょう。


今はまだ、人の形を保っている、

いつまで保てるか、競争しよう


僕が逝ったら、あなたも逝くと言うのでね

あなたが先に逝ってしまったら、僕もすぐさまそこへいこう


終わる時は迷わず一緒だ。


引出しにしまっていた痛々しさを、僕は初めて君の前に取りだした。


二人でいつまでも

まだ生きている二人を見守っていよう

あの世界とか

この宇宙の辺境とか

あんなふうに生きられたらよかったねとか

同じ方向を指さして笑いながら。


そこには愛がありましたと、

誰も感知できないひしゃげた次元の中、永遠を潰して響かせあおう。


そこまでに捨ててきた天文学的な分岐のすべてを

手繰り寄せて、いっせーのーせで飲み込んでしまいながら。


それではじめて、僕達は星になる。


 遠い重力中心に閉じ込められた

 最後の意識を時空に変換したり

 果てない哀しみを無駄の一言で片付けた

 割り切りの境地を量子の揺らぎに流し込んだり


 地球ではない命を育む惑星を、温める名も無き心に


そうやって僕はまた、痛々しい言葉を引出しにしまいなおして、

鍵をかけて、

あなたと向き合って、

終わるその時までは、幸せだと笑い続けるんだ。













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