10/11/14:30――シュリ・新しい小太刀
ここにきて、困りごとに直面した私、シュリ・エレア・フォウジィールは、とにかくこのままじゃいけないと思いながら、
得物が壊れたのである。
いや、決して戦闘をしたわけではなく、何かを斬ったわけでもなくて――ただ、センセイの動きを真似て、その技の精度を少しでも上げようと鍛錬を続けてきたのは言うまでもなく、それをいつものようにやっている最中、ぽっきりと小太刀が折れてしまったのだ。もちろん、それは右小太刀だけだったので、もう一本は残っているのだけれど、二刀と呼ばれる技術を持つ私にとって、それはなくなってしまったのと同じであり、二本揃っていなければ意味を成さない。
いやそれでもだ、私は戦闘ができないなんてことは決して口にしない。しないが、しかしこれでは小太刀二刀の鍛錬はできない。つまり困った。どうしたものか。
流れとしては――。
センセイから貰ったとはいえ、一応はオトガイの作品なので、オトガイの門を叩いて調達するのが王道なのだろうけれど、残念ながら私自身は、オトガイの〝客〟にはなれていない。だからそもそも、入店できないのである。だとすれば、親父――造船の親父のところに顔を出して、繋いでもらうのが現実的だ。となれば、ここから四番目まで移動しなくてはならない。
海に出るのが不安だ――とは思わないが。
面倒だと思うことはある。
いやそれでも、行かなきゃならないので、こんなところで、ぐだぐだとしている場合ではないのだけれど――と、思っていたら、ふいに。
近くを通りかかった女性が目についた。
「あ――」
軽装で、ケープを羽織ったような恰好の、やや背丈の高い女性だけれど、目についたのは、胸元にある紅色の輝きであった。おそらくガーネットだと当たりをつけた私は、思わず声をかける。
どうせ海に出るのならば、理由を作った方が前向きになれる――いや、待て。一体いつから私は、人を乗せることに肯定的になったんだ。
「――ちょっと!」
「はい?」
振り向けば、赤色の髪にも目が行く。落ち着いた、どこか冷たいような印象を受ける雰囲気を持ってもいるが――。
「船を探してるの?」
「はい、その通りでございます」
「んー、どこへ行くかは決まってる? ちょっと問題があって、四番目に行こうかなーとも考えてるんだけど、〝二人〟なら乗せてあげられるし、どう?」
「――、失礼。私を知っておられるのですか、船頭様」
「ガーネでしょ?」
「はい」
「やっぱり。サギとアクアから、見かけたらよろしくって言われてたんだ。私はシュリ――だけど、あの二人と同じように、やっぱり名前は呼ばないかな?」
「――アクア姉さんと、鷺花様が? 船頭様、お二人は一緒に行動なされていたのですか?」
「うん、私の船に乗った時は、そうだった」
「そうでしたか……」
どこかほっとしたように、肩の力が抜けるのがわかった。まあ、あの二人とどういう関係なのかは、いまいち知らないのだけれど。
「お誘いはありがたいのですが、もう一人と話してみないと、返事はできませんが」
「ああうん、それでいいよー。シディだよね、確か」
「そうです。もう少しでこちらへ来ると思いますが……」
「いいよいいよ、急いでないから。こっち乗ったら? 海に出るのは初めて?」
「はい、初めてなので、どのような船になるのかと、探していたところでございます。では船頭様、失礼して上がらせていただきます」
ふわりと、跳躍して甲板に乗る。術式の気配はなかった、単純な体術だ。よく鍛えてある。
「――っと、わかってはいましたが、足元が揺れますね」
「すぐ慣れるよ。ガーネは体幹がしっかりしてるし」
「それでしたら良いのですが……失礼ながら船頭様、問題があるとおっしゃられていましたが、どうなさったのですか?」
「あーうん、ガーネに話すのも変かもしれないけど、私の得物がねー……」
「得物……? 小太刀、二刀ですか?」
「うん、そう。流派は名乗ってないんだけどね。ただ、片方がぽっきり折れちゃって」
「――よろしければ、見せていただけますか?」
「いいけど……折れてるよ?」
「はい、それで構いません」
ちょっと待っててと言い、私は折れた小太刀を船室から取ってくる。だから今の腰には、小太刀が一振りしかない。魚を下ろすには十分だけれど。
「はいこれ」
「失礼します。……――これは」
左手で折れた方を持ち、右手は柄を持ちながらも、撫でるように折れた方へ触れてすぐ、ガーネは目を丸くした。
「オトガイの作品ですね。量産品程度のもので、どうやらマエザキの手によるものではなさそうですが……」
「あ、知ってるんだ」
「ええ、まあ、そういう繋がりもあるものですから。あの、失礼ながら船頭様は、どうして折れたのか、わかっておられるのですか?」
「んや、よくわかんない」
「そうですか。……簡単に言ってしまえば、小太刀が追いつかなかったのです」
「追いつかなかった?」
「はい。言い換えれば、船頭様の動きに小太刀が負けてしまったのです。おそらく無理な行動ではなかったのでしょうけれど――そう、技に耐えられなかった、とでも申しましょうか。この程度の作品では、船頭様の行動にはついていけません」
「おおう……」
そうなのか。ってことは、もう一本も駄目ってことじゃないか。
「オトガイの作品でこれですから、おそらく船頭様の使用に耐えられる小太刀ともなると、それこそマエザキに頼むか、業物を掘るか……しか、ありませんね」
「困ったなあ……私さ、多少は知ってるってくらいで、オトガイと直接の繋がりはないんだ。この船も、オトガイを引退した造船師が作ったっていうやつだし」
「……あの、よろしいですか、船頭様」
「なあに?」
「私どもは七番目まで行こうかと考えております。よろしければ、その対価として、私に船頭様の小太刀を作らせていただけませんか」
「へ? ガーネが?」
「はい。船頭様の使用に耐えられる作品を作らせていただきます」
その言葉を疑う気はなかった。なかったが、しかし。
「うーん、私、人を乗せることを商売にしようって、そういう考えはないんだよね。そりゃもちろん、七番目ならべつに、問題ないんだけど」
「では、対価ではなく、好意でいかがでしょう。私としても、船頭様に使っていただける小太刀ならば、望むところですから」
「そうなの?」
「私はこれでも、刃物の作り手です。ただし術式で――ですが。もちろん、私の作品であっても、船頭様が満足いかなければ、それまでですが……」
「そこは疑ってないってば。うん、まあいいや、物は試しとも言うし、頼もうかな」
「では船頭様、いくつかお聞きしますので、答えられる範囲でお願いします。そもそも船頭様は、武術家なのですか?」
「いや、違うよ。違うと思う。ただセンセイ……えっと、名前なんだっけ。雨の? とかなんとか」
どうしてガーネとシディを覚えていて、センセイの名前を忘れるのかといえば、まあそもそも、名前を覚えるような状況があまりなかったというか、聞き流しても問題なかったというか、そんなところである。
「レーグネン様ですか?」
「おー、それ。一応、基礎やら何やらはそのセンセイから教わってる。小太刀二刀の技は……水ノ行だっけ? その一部だと思うんだけど、いろいろ見せてもらって、今は身に着けてる最中ってところかな」
「けれど、武術家ではないと?」
「うん。私、戦闘って嫌いだし。面倒だから」
「……こう言ってはなんですが、面倒で嫌いだからこそ、努力に余念がないのですね?」
「そうそれ。とっとと終わらせるための努力は惜しまない」
「なるほど。やはり小太刀であるべきでしょうね」
「あー、たぶん、それ以外の扱いは難しいんじゃないかな」
ふうむ、なんて視線を手元に落としたガーネの横、陸地にて小柄な少女を発見。オブシディアンの宝石を胸元に見た私は、おおいと、声をかける。
「シディでしょ? こっち、こっち!」
「あ、ガー姉ちゃん! いた! って、……なぬ、なんで鷺花の匂いがすんの、船頭さん」
「どんな鼻してんの、あんたは。いや事実、サギとアクアを乗せたことあるから。ガーネとシディのことも、そっちから聞いててね。どうする? 乗る?」
「乗せてくれるの?」
「いいよ。でも、船の上じゃ私がルール。わかってるよね?」
「途中で転覆するのはヤだなあ……うん、諒解。というか、ガー姉ちゃん?」
「ん、ああシディ、私はこの方の得物である小太刀を二振り、七番目に到着するまでの間に作らなくてはなりません。そのつもりで」
「――うぇ⁉ 姉ちゃんが作るの⁉」
「そうです」
「うっわあ……」
「なに、それ驚くところ? シディもこっちおいで。食料はあるし、すぐ出られるけど?」
「はーい、お願いしまーす」
飛び上がったシディは、船べりについた手すりに手をかけ、ひょいと上ってくる。さすがに一跳躍では無理そうだったが、まあ、それでも身のこなしが丁寧なのはわかった。
遠隔でエンジンに火を入れて、出港準備を整えた私は、すぐに帆を張って移動を開始する。今回は海賊に遭わないことを祈ろう。いや、祈らないけど、なんとなくだ。客がいる時は――客じゃないけど――あまり遭遇しないし。
「よろしくね、船頭さん」
「ん。というか、やっぱり二人とも、私の名前は呼ばないんだ」
「アクア姉ちゃんもそうだった? うん、なんていうか、そういう〝ルール〟なんだって思ってくれればいいよ。え、でもなんで? ガー姉ちゃん?」
「シディ、私は集中したいのです。船頭様、もう片方の小太刀を見せていただいても、よろしいでしょうか」
「ん? どうぞ。面倒があったら返してね」
「もちろんです。――シディ、これを見なさい」
「折れてるね……ん」
魔術師――なのだろう、それを隠そうともしない。折れた刀身を中心にして小さな術陣が複数展開すれば、おおう、なんてシディは目を丸くする。
「こんだけの刃物が使用に耐えられなかったかあ……」
「っていうか、よくわかるね、そんなの」
風向き良し、天候は並み、しばらくは問題なし。もしも二人が早い到着を望むのならばともかくも、嵐は避ける方向での進路を取ろう。
「それなりに長生きしてるから。そんでも、ガー姉ちゃんが作るっていうのも、珍しいっていうか、初めてとは言わないにしたって、片手もなかったのに……」
「疑ってないけど、ガーネは作り手なんだよね?」
「そうだよー。どの程度かって比較する人もあんましいないんだけど、オトガイの刃物製作者で、統括をしてるマエザキってのがいるんだけどね。かつても今も、ただの一度ですら姉ちゃんが壊せない刃物を作ったことはないし」
「ああ、壊せるか壊せないかって比較なんだ、そこ」
「みたいだよ。っていうか……武術家くらいなものだと思うんだけどね、これじゃ足りないって」
「あー、さっきも説明したけど、レーグネン? だっけ? 武術家に教わってはいるけど、私自身はそのつもりないの」
「うげ、雨の人かあ……ぬう」
「知ってるんだ、やっぱり。んじゃ武術家って連中はどんな得物を使ってんの?」
「あー、どうだろ。正直に言って、得物が耐えられない――なんてことは、ほとんどないよ。そんな武術家ばっかじゃないし、今はね。かつては、それこそ名工が作った業物なんかを使ってたって感じ。それこそ一点もの……生涯を賭けて作った一振りってやつ?」
「ああ、それこそ、本当に業物ってやつか」
「うん。レーグだって、そういうの今じゃ沢山持ってるだろうし。あとは天魔が形代にしてる、んと、それこそ命そのものを吹き込まれた得物とか、かなあ」
ああ――それは、たぶん、カイドウが持ってた刀と同じだ。よくわかってはいないし、聞いてもいないけれど、そういう〝生命〟を感じた。
「なるほどねえ。私にとっては手段の一つでしかないし、壊れない得物ならそれでいいとも思ってるけど」
「うん。でも、今の船頭さんだと、そんくらいのレベルじゃないと……」
「あ、そう」
「あれ? 興味薄い? すげー強いって言ってるんだけど」
「そうなの?」
「そうなんだけど……」
「実際、そんなことないよ?」
サギなんかは除外したところで、エイジェイにだって届かないだろう。コウノやコノミなんて馬鹿な話だし、そりゃカイドウとは対等でいたいとは思ってるけど。
「ううん……私の周囲を見ても、そんなことないと思うよ、うん、間違いない」
「え、たとえば?」
「んー? コウノとか、コノミとか、イザミとか、リンドウとか、エイジェイとか、サギとか、ベルとか……」
「それ比較対象が違うからね! ぜったい違う! そいつら馬鹿ばっかじゃん!」
「その通りだけど、言っていいのそれ」
「しまった! な、内緒ね?」
「私はいいけれど――結構な地獄耳な連中だと私は思うね、うん」
そう言えば、心当たりがあるのか、身震いをするようにして、シディは小柄な自分の躰を両手で抱いたかと思えば、きょろきょろと周囲を見渡した。
「船頭様」
「ん?」
「一つ頼みたいことがあるのですが」
「一つじゃなくてもいいけど、なに?」
「はい。この小太刀で、この板を斬っていただけませんか。その結果を精査したいのです」
「ああうん、作成のための情報収集ってことか。おっけい、そういうのならやるよ、面倒なんて言ってられないし」
手渡された小太刀は二本。鞘もついていたので、一応腰に佩いてみる――が、これは、さっきの壊れた小太刀の〝再現〟に限りなく近い。ほとんど変わらないのだ。
「っと、この板を斬る? 突くんじゃなくて?」
「はい」
「あいよ」
船の進行方向を考え、上空に放り投げる。ふ、と吐息を一つ落としてから、ゆっくりとした動作で小太刀を引き抜きながら、踏み込んだ。踏み込んでから抜くのではないのが、私の〝間合い〟である。
だが、抜いた瞬間に理解した。
駄目だ。
これは――また折れる。
だが構わずに振りぬけば、やはり小太刀が触れた先から折れてしまい、金属の破片が二つ飛び散った――が、それを術式でか、シディが回収している。ぽとりと落ちた金属はともかくとして、私は中央付近で折れた小太刀を見た。
技、と呼ばれるようなものではないにせよ、確かになるほど、耐えられないとは、こういうことか。
「うっわ……」
「ん? ああ、ごめん、ぼうっとしてた。はいガーネ、これ板。さすがに頑丈だね、半分も斬れなかった」
「いえ……」
折れた小太刀と、鞘と、板をガーネに渡せば、やはり思案顔になった。作り手も大変なんだなあ、と思う。うん、そりゃ大変だよなあ。
「いやいやいや! 折れた小太刀はともかく、ガー姉ちゃんの板に傷つけるとか、普通じゃないからね⁉」
「……? そう言われても、よくわからないけど、私の知り合いならできると思うよ」
「あいつら化け物じゃん! っていうか、えー……船頭さん本気? 大丈夫? これ、普通のレベルでの話をすると、独学で鍛えて老人になってから、ようやく見える先っていうか、そういうやつだよ?」
「だから知らないってば、そんなのは」
「どこまでなの? どうして鍛えてんの?」
「んー? 雷龍と風龍が遊んだ時にね? 渦中にいたんだけど、何もできなかったわけ。んで、私は〝次〟に同じ状況に陥った時――私は、また何もできない、なんて間抜けは晒したくない。それだけよ?」
「あー……七龍と対峙するレベルとか、ありえないし。私でも怖いし、あいつら。なんなのもー」
いや、だから知らんての。
「船頭様」
「あ、うん、なに、ガーネ」
「二日ください」
「……うん?」
「二日で、二振り作ります。その間の私は集中しますので、おそらくまともな対応はできなくなりますが――完成させます」
「あ、ああ、うん……よろしくお願いします?」
「はい。期待に添えるよう、努力します」
「うん。あれなら船倉を使ってもいいよ? シャワーもあるから、私も使うけど、暮らすには面倒だけど、空間はあるから」
「では、そちらを使わせていただきます」
「はいよ」
私は船室から船倉へ向かう梯子の位置を教え、ガーネを見送ってからまた甲板へ出る。状況の目視確認は基本だ。
「本当にびっくりだ……」
「え、なにが?」
「いやね、ガー姉ちゃん、今まで本当に、誰かのために刃物を作るなんてこと、してなかったんだってば。誰かが使うだろうって、いわゆる目安的なものならともかくも……」
「ふうん? 私はこれといって、何かしたわけじゃないんだけどね。話の流れとかじゃないの?」
「そういう感じで流されるとは思えない。そりゃ鷺花とアクア姉ちゃんが逢ってたっていうのも、一因なんだろうけど……あ、ごめん。良いことなんだと思ってるし、否定的じゃないの。ただ、珍しいから、どうしてだろうって」
「私としては――ただ」
そう、たぶんそれは実に簡単な理由で。
「私が使える刃物を作れるかどうか、試してみたいんじゃないの?」
「それはそうだけど……」
「いや、作れるのは前提でね。でも、ほら、私がってなると、ちょっと大変だと思う。なんかねー、センセイが言うには、基礎しか知らない馬鹿が、ずっと基礎を重ねて今まで生きてきて、ようやく技を見せて貰って覚えよう――っていう状況らしいし」
「……はい?」
「なに」
「え? 今何歳?」
「二十三。海に出て五年目で、小太刀を扱ってからはまだ八年くらい」
「――基礎だけで八年やってんの⁉」
「やってたの。だって技とか知らないし。あ、針と糸は使ってたけど」
「……そっか、わかった。それだ。タイミングだ。〝武術家〟が使う小太刀を作れるなんて、そりゃ飛びつくかー」
「私は武術家じゃないけどね」
「うん、そうかもしんないけど、それって同じことだから。作り手にとっては喜ばしいこと――なんだろうけど、あのガー姉ちゃんがなあ……」
まあよくわからんが、ともあれ、ひとまずは調達のあれこれを考えずには済ませられそうで、私としては助かった。
――余談である。
二日目に、一睡もせずに完成させたガーネから小太刀を受け取り、調整に一日。三日後の昼には、七番目の大陸に到着した。
「おー、陸地が懐かしい!」
「大げさですね、シディ」
「そういうガー姉ちゃんは、初めての海なのに、あんまし海を楽しめなかったでしょ」
「そう言われれば……そうですね。満足はしましたが」
「あはは、満足は私の台詞。次があったら、また私に声をかけてよ」
「ありがとうございます、船頭様。オトガイとは直接の関係はなかったと思いますが、仮に関係者にその小太刀を問われたのならば、ガーネットの作品であることを明言してください。そうすれば、触る者はいないでしょう。仮にそれでも壊れてしまう場合は、――私が作り直します。その際は駆けつけますので」
「おおう、アフターサービスまで万全だね。ありがと、ガーネ。業物っぽいし、馴染むのにちょっと時間かかるかもだけどね」
「ありがとうございます」
ま、それでも、小太刀に振り回されるようなことには、ならないと思うけれど。
「でも、一応聞いておくよ? どうして私の小太刀を作ろうと思ったの?」
「長く――長く、時間を過ごしてきました。私はおそらく、師には未だ至らないでしょう。どれほどの研鑽を積もうとも、届かない。けれど、私は作り手なのです、船頭様。作り手の作品とは、誰かに使われてこそ、得物なのだと」
「――ガーネ、めっちゃ適当なこと言うよ?」
「はい? なんでしょうか」
「至らないのは、研鑽じゃなくて〝使い手〟がいない方だと思う。誰が使うか、どんな人の得物か――そこがないと、作れないんじゃない?」
「――」
「お、おおう……」
「いえ、目から鱗が落ちる想いです、船頭様。ご助言、ありがとうございます」
「いや本当、適当なことだから。逆にそういう使い手も、いないのかなあって思うしさ」
ともあれ。
こうして、私たちの出会いは終わる。残念ながら、いや、良いのかもしれないけれど――ガーネが、私に駆けつける機会はなかった。
そう。
私が死ぬまで、ずっと、この小太刀は使われ続けたのだ。
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