07/18/12:00――シュリ・だから心を読むな

 新しい船は最高だ――私、シュリ・エレア・フォウジィールは、ここ最近、海に出るたびにそんなことを思っている。何しろ人生初の、厳密には二度めの新品だ。最初の時とは違った喜びもあるし、大きさはほぼ変化のない、全長を二十メートル、幅六メートルの魔術船舶なのに、いちいち〝余裕〟が含まれている。特に操舵に関しては、私の癖までうまく取り入れられているようで、かーちゃんには感謝がいっぱいだった。抱き着いて、泣きそうになった。あのひと、すげーいい人だ。

 しかし。

 あれからしばらく経過するけれど、未だに海は敬遠されている。もちろん船乗り各員、あるいは乗客だとて、そうそう、あんな〝災害〟が引きおこるだなんて思っていないけれど、まだ落ち着くには時間がかかりそうで、静かなものだ。けれど、だからこそ、こんな時にも私のところには、また妙な客がくるわけで。

 今回は二人の女性である。一人は垢抜けたと表現していいような女性で、やや長い黒髪が結構綺麗だった。柔らかい雰囲気はあるのだけれど、どこか教師というか、上司というか、そんな印象を受けた。

 もう一人の女性は、胸元にアクアマリンの宝石をつけた侍女姿である。全体を見れば白色なのだが、青っぽい印象を受けるのは、やっぱりアクアマリンがあるからこそ、だろう。

 サギとアクア。ちょっと海に出たいから、という理由で乗り込み、沖に出てからも、潮風に当たりながら、景色を楽しんでいた。

 いたのだが。

「あ、ちょっといい?」

「え、なにサギ」

「挨拶してくるから、私はいなくなるけれど、好きにしていて頂戴。船が見つけられなくて迷う、なんて下手は打たないから」

「はあ……うん、まあ、いいけど?」

「よろしい。あんたは伝言ある?」

「……え?」

「ん」

 返事もしていないのに、頷かれた。

「映像残して行くわ。アクア、同期」

「はい、鷺花さぎか様」

「それと、わかっているとは思うけど、名前、呼ばないように」

 え、なにそれ、サギもそれ言うの? なんでだ。

 と思っていたら、いくつかの魔術陣をワンアクションで十数枚も展開したかと思えば、そのままひょいと、海に落ちた。

 ……。

 ――海に落ちた。

「ちょっ⁉」

「大丈夫ですよ、船頭様」

「お、おおう……」

 そういう呼び方はアリなんだ。まあ代名詞ならオッケーらしいけど。

「そうなの?」

「はい。大したことはありませんので」

 にこやかにそう頷かれてしまえば、私としては否定しにくいのだけれど。

 いいのかなあと、頭を搔いていると、アクアの手元に黒色の板のようなものが浮かんだ。板――ではない。それはアクアの手袋をした指先が触れるたびに、形をそのままに大きくなり、おおよそ両手を広げたくらいのサイズで、空中に浮かんで固定された。

「……えっと、術式なのはわかるけど、これは?」

「映像です。ちょっと暗いですね……鷺花様、明度を上げていただけますか?」

 いくつかの段階を経て、黒かった映像が次第に明瞭になっていくけれど、なんの映像か私が理解できたのは、その中で、幾度も横切る影が、魚だとわかってからだった。

「これ――海の、中⁉」

「やはり、初めて見るのですね。どうぞ、鷺花様の視界ですが」

「うわー……!」

 下降しているように見える。海流そのものを捉えることは難しいが、明るくなってはいるものの、周囲にはすでに明かりが一切存在しない、つまり陽光が届かないほど深くに潜っている。その光景からは不安を連想させられるが、私にとってはまず、未知だ。魚や妖魔たちが住む世界、その奥底がどうなっているかだなんて、知らないし、知ろうとすることもできなかった。

 何故ならば、そもそも、海に潜るだなんて〝発想〟が浮かばない。浮かんだとしても、実行に移すだけの準備もできない。何故ならば技術がないからだ。想定して、理屈を持って、そういうものだと認識したところで――現実を確認することは、できなかったのだ。

「っていうかサギすげー!」

「ふふふ、ありがとうございます、船頭様」

「え、なに、こういう術式とか、うわー、調査とか? そういうの?」

「いえ――挨拶ですよ」

 やがて、岩のようなものが見えてきた。ああ、海の底に近いんだと思えば、ふいに出現した足が、その岩を蹴っ飛ばす。映像がやや俯瞰に変わり、サギの後ろ姿が見えた。

 背筋に緊張が走る。――怖い。

「ちょ……」

 わかった。理解できた。挨拶の相手は間違いなく海王竜リヴァイアサンに対して、だけれど。

 そう、なのだけれど、でも。

 違うのだ。

 違いすぎる。

 私は――知らなかった。

 雷龍ヴェドスと風龍エイクネスが、陸地にいる時よりも、以前の戦闘の時には力を出していたと聞いていたけれど。

 まさか。

 海から顔を出したレヴィアと。

 ――海の中のレヴィアが、こんなにも違うだなんて、知らなかった。

 私たちが、どれほど海の上で生活していたところで、そこは海の上だ。

 陸地を私たちが歩くように。

 レヴィアにとっては、海の中にいることが、自然なのだ。

 海に潜れば溺れてしまい、普段の力など発揮できないのが人間ならば。

 海から出てしまえば、普段とは違ってしまうのが、レヴィアという存在なのだと――私は、強い恐怖と共に知った。

 サギが蹴ったのは、レヴィアの一部だったらしく、私が恐怖を抑えている時間で、レヴィアの顔が映像に映った。怖いと思えるレヴィアが、見てわかるくらいに、嫌そうな顔をした。

 嫌――というよりも。

 忌避に近い感情も見てとれる。

 やり取りはわからないが、短くて、すぐにレヴィアの姿は消えてしまった。それとほぼ同時に映像も消えて――終わりかと安堵した途端、隣にサギが出現した。

「うおっ!」

「ああ、ごめん、驚かせた? 行くのはともかくも、戻るのは面倒だったから、先にこの場所へ〝目印マーク〟を置いておいたのよ。嫌だったらちゃんと先に気づいて、消しておきなさい」

「え、ああ、うん……」

 なんだこれ、説教始まるのか? というか、気づいて消せって……なんというか、規格外だな、こいつ。

「濡れてないし」

「濡れる程度なら、まだ良いけれどね。実際に深く潜れば潜るほど、その量の海水を背負わないといけないから、そっちの方が対策としては必要ね」

「……あ、水圧の問題かー」

 そりゃそうか。水のでっかい塊の中に入るようなものだし。

「で、よく考えたら私、海って初めてかも」

「そうでしたか? 私の場合は、もちろん、外出そのものが珍しかったですから、船旅は初めてでしたが……」

「なんにせよ時間がかかるでしょ? 正規の手続きを踏んでも、海は選ばなかったから。今回は楽しめるといいんだけど」

「私はもう楽しんでいますよ」

「そりゃアクアはそうでしょーよ」

 女二人の旅かな? いずれにせよ、随分と仲が良い。なんだろう、距離感が掴めている……とでも、言えばいいのだろうか。

「で、あんたも観戦したんだって?」

「ん? えっと、雷と風のやつ?」

「そう。聞けば、目も預けたと言っていたけれど、あんたは牙みたいね。よくやるわ……」

「――うん? え、なに、それ褒め言葉?」

「そうよ」

 だったら、もっとそれらしく、ちゃんと褒めて欲しいんだけど。

「牙を研ぐ、牙を抜く、なんて言葉がある通り、牙そのものの意味合いは、攻撃的な部分の総括として捉えられる。……ま、あんた個人はともかくとして、だろうけどね」

「うぬ……」

 だから、なんでそう、わかりにくいことを言うんだろう。ただの評価なのか、それとも貶めたいのか、よくわかんないんだってば。

「なにを唸っているのよ。実際にどうだった?」

「どうって……なんか異世界にでも紛れ込んだような」

「異世界ねえ」

「え、なによう」

「いいえ、比喩表現としては最適かもしれないけれど、現実的に考えてみれば、当たりではないと思っただけ」

「……んん? なにその物言い。異世界ってあるの?」

「あるわよー」

 え、あるんだ。マジですか? なにを呑気に、座ってるんだこの女は。

「残念ながら、ルールが違うから行き来はできないけど。行くことはできても、生きることはできないでしょうね」

「……そなの?」

「たとえば、この世界とそう変わらない異世界があったとする。っていうか、あるんだけど。私の場合は認識だけで、それ以上はないから、追及はしないでおいて」

「うん、よくわかんないけど、うん……」

 巡航中、リアルタイムで風速を計算して自動的に帆の向きが変わる。一見すれば風で泳いでいるようにも見えるが、きちんと設定したぶんだけの風を受けつつ、更には流しており、一定速度以上は出ないような仕組みだ。このあたりはどうも、親父の設計らしいけれど。

「見た目は何もかわらない。妖魔がいるし、人間もいるわけ。生活もそう大差はない。だけど、そこは重力がここの六分の一しかないのね」

「つまり……軽くなっちゃう?」

「そういうこと。それこそ、軽く飛び跳ねただけで、地上には二度と戻れないくらいに、重力がない。生活できる?」

「むりむり」

「でしょうね。だから逆に言えば、そっちの世界で暮らしてる人たちの体重そのものが、見た目は変わらなくとも、私たちの六倍くらいはあるってこと。ちょっと大げさな説明だけど、そういうことなのよ。行ったらたぶん、帰れない。ルールが違うから。で、違うとわかるのも、基本的には、そっちに行ってからの話。だから異世界は存在しない。名目上はね」

「そもそも、異世界へのゲートを開くような術式が可能なのは、鷺花様くらいですよ」

「そう? うーん、どうだろ。そっちに特化して、条件を三つくらいクリアして、誰かの協力があれば、なんとかなると思うけど」

 なんだそれは。その時点でもう、不可能ってことじゃないか。

「それで?」

「え、なにが」

「ん。つまるところ、雷と風に混じって、強い天……というよりも、金気を感じたけれど、もう一匹、馬鹿が混じっていたはずよね?」

「そうだけど」

「未だに首輪つきで?」

「……ごめん。え、なんなの? これなんなの! 知ってるなら知ってるって言ってよ! よくわかんないんだけど!」

「何を慌てているのよ、ただの確認作業でしょうに」

「ただの、じゃないでしょ……これ」

「情報量の差ですよ、船頭様」

 助け船がきた!

「今知ったことと、知っていること。そして、予想していること。この三つを可分した上で、会話に混ぜると、鷺花様のような物言いになります。特に鷺花様にとっては、その三つに関して、非常に観念それ自体が大きいのですよ」

 ぬう、難しいな。つまり、金気を感じた。馬鹿が混じっていた。その時点でもう玉藻だと予想がついていて、半ば確信しているけれど、確認が必要で、けれど玉藻っていう名前を出さないで、首輪つきなのかどうか、という、玉藻の状況確認を引き出したわけで。

「首輪はついてたよ、って言えば良かったの?」

「そうね。だったら鎖を持ってる側も、驚いたんでしょうねと答えたわ」

 これだ。

 いや、確かにそうなんだけど。

「つまるところ――鷺花様は、限りなく低い可能性であっても、船頭様が事実、それを知らなかった場合を考えて、迂遠な会話をしているのですよ。符丁と呼べばわかりやすいかもしれませんね」

「え? 通じるでしょ? 適当に端折って、的確な意図の交換ができると思うけど」

「そうかもしんないけど……ついて行けたら」

 というかむしろ、慣れろってことかもしれないが。

「……まあいいや。よしとしよう。気にしない。えーっと……え? なんだっけ?」

「ん。誰が助けてくれたわけ?」

「あーっと」

 つまり、私たちが生き残ったことに対して、誰かが助けなくては不可能であると、私の状況を見て、そう判断した……? と、まあ、そういうことなのだろう。うん、よし、大丈夫。問題なく対応できる。

「ベルが」

「――助言は受けた?」

「……それなりに?」

「あの馬鹿、ようやくか。いや、それとも、業を煮やしてと言うのが正解か……アクア、どっちだと思う?」

「そうですねえ。船頭様には失礼ながら直截すれば、――たかが七龍の二人が争った程度を観戦できないようでは、話にならないかと」

「うぐ……!」

 味方じゃなかったこの人! 反論できないし!

「柔らかく言うと?」

「見ていられなかったのでは」

「最初にそれ言ってよ! なんかもう戦闘とか面倒で嫌いだけどちょっと意欲的になってどうにかしなきゃと思ってた私を、そこまで貶めたいの⁉」

「だから、どうにかしなきゃってレベルが低すぎるのよ」

 ぬおー、だめだこの人。もうだめだー。

「高望みをしているわけではないのだけれどねえ」

「むう……っていうか、ベルも言ってたんだけど、どうして私の名前を呼ばないの?」

「どうしてか、考えた?」

「そりゃ……なんていうか、理由があるんだろうことはわかったけど、さっぱり」

「そう。だったら、まだ知らない状況なのね」

「知らない?」

「たとえば、私たちみたいに名前を呼ばなかった人は?」

「ベルにも言われたけど、えっと、コウノって人なんだけどね」

「ああ」

「なるほど、頷ける話ですね。もっともあの方の場合は、どちらでも構わなかったのでしょうけれど、安全マージンを確保したといったところでしょうか」

「あえてそこに踏み込むことをしなかった――と。踏み込んで結果を変えるほどの好奇心もなかったのなら、既に〝朝霧〟ではなくなったのかも。私が引導を渡してやっても良かったのに」

「望まれれば、ですね」

 ああ――情報量って、こういうことか。すげーな、そこまでわかるんだ。コウノとどういう関係かは知らないけど。

「何度か顔を合わせてるだけよ」

「心を読むな」

「読まれるような顔をするな」

 軽口だけど。……軽口なんだけど! すげーこの人! 本気で頭が上がらない気がしてきたよ!

「じゃ、与太話だと思って聞きなさい。たとえばそのコウノが、次に海に出る時を見た?」

「え? ああ……うん、知り合いの船が傍にあったから、そっちに乗り換えて、すぐ別の大陸に向かったけど」

「へえ――ああいや、気にしないで。海に出た理由についての考察をしただけ。そう、乗り換えたのね。だから、そこなのでしょうけれど」

「……うん?」

「あんたの名前を呼んだ人間は、仮に船で海に出なくてはならない場合、ほぼ必ず、あんたの船を使うことになるのよ。どうして? その問いには、複雑かつ強い縁が合ってしまうから、としか言いようがない。あんたに自覚がないってのも、良いんだか悪いんだか……どっちだと思う?」

「どうでしょう。仕事であれば喜ばしくもあり、大局を見たのならば、その行動が他者の意図に依存しつつある――とも言えますから」

「……? え、つまりなに、あー、今回の〝災害〟みたいに、私が牙だからーって現場に引き寄せられたのと同じく、その、縁が合った相手? と、また逢うっていうか、ともすれば、その人たちが海に出ようと思った時には、私はそこにいるってこと?」

「大雑把には、そうよ。乗せるか否かの判断や、あんたの自意識そのものの改変にまでは至らないから、アクアも、大局を見たのならばと言ったのね。この場合の、俯瞰的な視野を持つには、第三者であること、つまり主観と客観の――……いや、説明しなくてもいいか。どうせわからないでしょ」

「ああうん、たぶん……」

「縁を〝切る〟ってのは、なかなか面倒なのよ。だから、最初から最低限で済ます」

「だから名前を呼ばない?」

「そういうこと」

「……じゃ、センセイが私のこと、エレアって呼ぶのは、ほどほどにってことなのかな?」

「――、その馬鹿は船に乗ってないでしょ。そこも加味して考えなさい」

「そうだけど。……馬鹿ってのを肯定したわけじゃなくて、いや馬鹿だったけど」

「雨の日は手がつけられなかったでしょうよ」

「ぬ……」

 これを聞いたら、どうなるか、ちょっと気になって。

「どうしてセンセイのことがわかったの? あ、いや、センセイのことを知ってるってことだろうし、それはいいんだけど、それこそ名前も言ってないのに、誰かって特定ができる要素、ある?」

「あー、うん、そうね」

 アクアも座ったら、なんて適当に言いながら、サギは足元の影に手を突っ込んで、ボトルを取り出した。なんだそのイリュージョン。いや術式なんだろうけどさ。

「船の上では、躰の使い方そのものが変わるけれど、特にバランス感覚っていうのは基礎が如実に現れるものなのね。簡単に言えば、直立したまま重心だけを落とす。ちょうど腰か、そのやや下くらい。でも、足の裏側が船に張り付いているかと問われれば否、どちらかといえば〝軽い〟ため、移動の転換が早い。この時点で〝手数〟を重視し、速度を持つ手合いだとわかる」

「……」

 わかるんだ。

 ……わかるかあ?

「人の捉え方、事象の見方、そのいずれも点、線、面の三種をきちんと使い分けられていることから、熟練の度合いがわかる。まあこの度合いに関しては、私から見れば三下というか、二流以下というか……」

「んぐっ」

 危うく飲んでいた水を吹き出しそうになったじゃないか。

「そこに、他人との間合いの作り方もそうね。自覚していない中で、私が説明できるのは、これくらいかしら」

「ええ、そのくらいだと思います。もちろん、この船を扱えていることも情報の一つですが」

「そうね。先代ギーギーの引退には、周囲がかなり引き留めたらしいけど、アクアから見てどう?」

「当人の技術レベルは、かつてを知らないので比較には至りませんが、オトガイとしては及第点でしょう。今のギーギーがどの程度かも、見ておく必要はありますが」

「そうね」

「鷺花様、話が反れていますよ」

「ああ、うん。で、それらを戦闘技術だとして見れば、四番目の大陸フィアなら数千人ってレベルかしら」

「数千……」

「残念ながら、四番目が多い方、といったところかしらね」

「それだけじゃ、さすがに絞り込めないよね?」

「そうね。袖口に針を隠していて、糸を扱う」

 おい待て。待ってくれ。

「私、見せてないよね……?」

「実際に使ってはいないけれど、使えるような動きをしているの、自覚的じゃなかったのね、それ。まあいいけれど……」

 いいのかそれは。っていうか、そうだったの……? えー? 見抜ける方がおかしいんだよね、これ。今まで言われたこともないし。

「少なくともその〝センセイ〟とやらも見抜けるでしょうが」

「えー……?」

「で、小太刀二刀」

「うん」

「その時点で、独学では至れないことが事実として確定されるわけ。人に何かを教える時に必要なものは?」

「教えられることの〝理解〟を持ってなきゃいけないこと」

「その通り。――小太刀二刀まで全部ひっくるめて、あんたが誰かに教わったのならばそれは、そういうヤツしかいない。私の候補の中では、雨が好きな馬鹿だけ。だからそう言った。あー、説明すると長いわね、これ。ぱっと見でわかったのに。ねえ?」

「そうですねえ」

「ちょ――ああ、もう」

 本当にだめだ。なんていうかもう、落ち込むのを通り過ぎて陰鬱になりそうだ。聞かなきゃ良かった。

 まったく――。

 化け物じゃないか、そんなの。

「失礼ね。私はただの魔術師よ」

 だから、私の心を、読むんじゃない。


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