04/19/13:30――オボロ・国王との面会

 国王への面会には、さすがに緊張を覚える。シャヴァ王国軍に所属していた六年間で二回ほどあるが、粗相をすれば首が飛ぶなんてことは当たり前。こちらにとっては一人の王でも、向こうにしてみれば兵の一人でしかないことなんて、考えるまでもない事実だ。であればこそ、二度目の時に名前を憶えていてくれたことは、非常に嬉しいことだったけれど。

 王城前にいけば、二人の守衛と共に、先ほどオボロが話しかけた男が、軽い談笑をしながら待っていた。顔を見せれば、案内しようと先頭に立って王城の中へ入っていく。豪華というよりも、やはり綺麗だ。荘厳といった威圧を感じないのは、ウェパード王国の雰囲気がそうさせるのか。

 内部は、静けさも広がっている。昼食後の時間だからか――しかし、人の活動そのものが、まったくなくなっているわけでは、なさそうだ。庭の手入れや、小さな噴水の調整、掃除をなどを行う侍女や庭師の姿も、ちらほらと見える。だとしたらこの静けさは。

 ここだと、示されたのは開かれた大扉。一直線にここまでだったので、一度振り返る。最終防衛ラインとして設定される城の造りとしては、いささか疑問ではあったが、今は。

「――案内、ありがとうございます」

「気にするな」

 頷き、深呼吸をしてから中へ入った。既に玉座は見えており、年老いた男が座っている。そして、どういうわけか、少年とも呼べる子供が、両足の間に座っていた。

 立ち止まったのは距離にして十メートル。それだけで、いくつかの理解を得た。

 溺れるな、という忠告の意味。そして、静けさが存在する理由。

 ここが謁見の間であるとして――この場所には、強い水気が充満しているのだ。強く意識すれば濁流に飲み込まれるような水、喧噪も遮って弱くしてしまうような気配。やはり、この二番目の大陸ツヴァイにおいて、水龍ウェパードの名を冠するこの国は、七龍に近しい位置にある。

「失礼します! 自分は、元シャヴァ王国軍所属、オボロ・ロンデナンドであります! レーグネン殿より助言を受け、参りました! 謁見許可を戴いたことを嬉しく思っております!」

「――はは、元気がよろしい。けれど距離が少し遠い、もう少し前へ」

「はっ!」

 柔らかい、落ち着いた声色。視線を合わせることもなく、やや斜め上を見たまま、半歩ほど前に出て踵を揃える。その態度を見て、少年は頷き、上を仰ぐようにして男に視線を向けると、男は一つ頷いた。

 そこから、少年が口を開く。

「私は、リクイスです。よろしいですか」

「はっ」

「軍属時代の最終階級を窺ってもよろしいですか?」

「自分の階級は、伍長でありました、リクイス殿!」

「結構です」

 微笑み、けれどしかし、声変わり前の少年は、大きく息を吸って声を上げた。

「ロンデナンド元伍長! 大きく五歩前へ出て、休め! これは命令だ!」

「はっ、諒解であります!」

 大きく五歩も進めば、それは槍の間合いになってしまう。だが、命令である以上、意識はともかくも、躰はそれを認めて行動してしまう。

「では問おう。貴官が生まれてから今までの経歴を、話せる限り聞かせてもらいたい」

「はっ。自分は孤児院の生まれで、両親の顔は知りません。五歳まで孤児院で過ごしましたが、間引きのため売られ、男の手に渡りました」

「待て。その間引きとは、どういった理由で行われるものだ?」

「シャヴァ王国では、孤児が非常に多い傾向にあります。そのため、国の管理下にある孤児院の数もまた、多くあるのですが、そうした者のほとんどが軍属になるための志を持ちます。そのため、多すぎてしまうと孤児院の手に余るため、外部へと売りに出されます。その場合、子供の志願が大半で、自分もそうでした」

「なるほど……その男、というのが、貴官の父になったと?」

「いいえ、違います。男は徹底して名乗らず、自分はただ〝槍使い〟と呼んでおりました。それ以外の呼称は使わないでくれ、と言われたものですから。もちろん、代名詞までは禁じられておりませんでした」

「そうか、続けてくれ」

「は。男に拾われた自分は、槍の扱いを学びました。男との生活は、記憶もおぼろげで定かではありませんが、それ以外はあまりなかったように思います。おおよそ二年後に、男が自分の元を去り、自分はシャヴァ王国軍に入りました」

「二年ですか……貴官は、その男に拾われ、しかし、捨てられたとも見受けられるが?」

「そうかもしれません。ただ男は、都合が悪くなったと、そう言っておりました。幼いながらに仕官の口を見つけられたのは、男のお蔭であります」

「となると、七歳で軍に入ったのですね?」

「その通りであります、リクイス殿」

「軍での生活はどうでしたか」

「入って二年は基礎訓練課程に従事しておりました」

「聞いた話では、確か基礎課程は一年だったはずで、その終わりにはもう実戦配備もされる……とのことでしたが」

「自分は同期の中でも、とりわけ若かったので、含みがあったのでしょう。その二年後、今の――失礼、最後の上官である方に拾われ、その方の命令を第一として、自分は前線に出ました」

「なるほど、それで槍を持っておられるのですか」

「は、自分は若すぎることもあり、こと前線においては先陣を切らされることが多くありました。そのため、一番槍、などという名で呼ばれることもあり、分不相応だと思いながら、甘んじた次第であります」

「すまない、聞き忘れた。貴官は今、何歳なのですか?」

「失礼しました。自分は当年、十三歳であります」

「――、いや、そうでしたか。失礼。ではレーグネンと逢ったのは?」

「最後になった仕事、哨戒任務の最中のことであります。夜間行軍の際、先導していた自分は、ついてこない後続の同僚とはぐれ、孤立した際に、レーグネン殿と遭遇しました」

「偶発的に?」

「かも、しれません」

「どんな話をしましたか」

「会話はほとんど、しておりません。自分はただ、槍を見せられました」

「そうか、それでここへ来たのですね。ふうむ……ああ、そうだ、説明がまだだった。おじい様」

「そうですね。――すまないね、オボロさん。私が現国王の、ワイズ・ウェパードだ。この子は私の孫で、そう、次の国王になる予定の子になる」

「そうでありますか」

「この国の王座は、少し特殊なところもあって、人を選ぶのです。私の子が……とも思ったのですが、彼は好まなくて、こうして孫が座って、学んでいる最中です。どうでしたか、オボロさん」

「は、自分には王の責務など想像もつきませんが、リクイス殿の対応に違和はなかったと受け取っております」

「そうですか、ありがとうございます」

「ではおじい様」

「うん、構わないよ」

「はい。――オボロさん」

「はっ」

「あなたの志はともかくも、レーグネンさんが示したことは、こちらも理解できました。それ故に、あなたがレーグネンさんと出逢っている確信も得ることができましたので、その流れを示します。のちほど、目的地を記した地図を渡すので、そちらへ向かってください。そこには家があるので、訪問の際はこう言ってください。リクイスに言われて来た、楠木はいるか――と」

「復唱します。リクイス殿に言われて来訪しました。楠木殿はいらっしゃるか――で、間違いないでしょうか」

「はい、それで構いません。なんだかたらい回しのように感じますが、それもこれで最後になるでしょう。なにか質問はありますか?」

「は、質問ではないのですが、もしよろしければ、ウェパード王国の全体図がわかるような地図は、ありますでしょうか」

「ありますよ、あとで一緒に渡しましょう。旅人の多くが、この王国の水路の流れなどを気にするので、一般向けに出しています。機密ではないので、回収もしません。しばらく外でお待ちを」

「はっ、諒解しました、サー! オボロ・ロンデナンド、失礼します!」

 左の拳、その親指側を胸に当てる敬礼をして去る。やってから、ここはシャヴァ王国ではないと思ったが、今更直すのもおかしい。ただ、大扉をくぐる前に、頭は下げておいた。

「――お疲れさん」

「ファル殿」

 そのまま真っ直ぐに歩いていたら、案内してくれた男が、庭から声をかけてくる。小さな庭園のようになっており、テーブルには珈琲が二つ置いてあった。片方をファイが軽く持ち上げる。

「待ってろって言われたんだろ? ちょっと付き合えよ、酒じゃねえから」

「お待ちいただいておりましたか、ありがとうございます」

「気にするな。俺が受けたんだから、送り出しまで俺がやる。おかしなことじゃねえだろ」

 それにしてもと、ファルは苦笑しながら珈琲を渡してくれた。

「お前さん、態度が変わらねえなあ」

「は……それは、どういう意味でありますか?」

「緊張の度合いはあるにせよ、俺の前でも王の前でも、一貫してるって話だ。元シャヴァ王国の連中は二人いるが、普段は結構、気楽だからな」

「自分はまだ幼く、同期も年上ばかりでしたので」

「その年齢で伍長なら、部下の面倒も見てきたんじゃないのか」

「階級が上でも、やはり見た目は幼いので、心境は複雑だったのではないでしょうか。戦闘訓練はしてきましたが、それ以外はほとんど、接点を持ちませんでした」

「そっちの方が、俺は興味があるね。得物は――長物か?」

「はい、自分は槍を好みます」

「槍か。俺は見てわかるほど達者じゃねえが、戦場を生き残ってるんだ、それなりにできるんだろう?」

「どう――なのでしょう。一番槍という称号にしても、自分に対する当てつけが半分、やっかみが半分と、そう受け取っておりましたが」

「使い捨ての駒として扱われてたってか?」

「現場では、そういう扱いを受けることも、稀にありました。ただ、自分の元上官は、一番に先陣を切っても、必ず戻ってくるものだと、そう思われていたようです。自分には過ぎた期待でしたが、どうにか、今まで応えることができました」

 それなのに。

「恩があるのは自分の方だと思っていたのですが……元上官は、自分の出立の際に、餞別まで出していただき、心苦しい限りでした」

「それだけの仕事を、お前はしてきたんだろ。上官の評価ってのは、公正だとは言わんが、相応の理由があってのもんだ。素直に受け取りゃいいじゃねえか」

「そうかもしれませんが、自分は国を出ると、そう言った人間です」

「それでも、今までが帳消しになるわけじゃねえ。逆に――俺に言わせれば、その餞別ってのが良い報酬なら、お前さんの評価が高くなる。ほぼ初対面で、軽く経歴を聞いた現状じゃ、目安になるからな。ちなみにそれは、お前の上官への評価じゃないぜ」

「……そんなもの、でありますか」

「しばらくは根無し草なんだろ? いいじゃねえか、それで」

「そう思うことにします。その、いくつか質問があるのですが、よろしいですか、ファル殿」

「おう、なんだ?」

「根無し草なので、これから先に仕事を探すことになるかもしれません。この街には、なにか、仕事のようなものはあるでしょうか」

「金になるかどうか、稼げるかどうかってのを度外視すりゃ、あるよ。繁華街の酒場や飲食店なんかに掲示板があるから、見てみろ。内容はさまざまだが、張りだしてある。受けようと思ったら、そこの店主に一声かけりゃ、教えてくれるだろう」

「いわゆる依頼、でしょうか」

「そうなるな。制限があるのも、中にはあるが……ま、そりゃ直接見てからの話だな。ちなみに公営ギャンブルもあるから、賭場で一稼ぎってのもあるぜ? はははは、俺はやらねえがな」

「遊びでは多少やりますが、賭場でやるほどの腕はありませんし、稼げるとも思えません」

「ならいい。つっても、身を持ち崩しても、俺には関係のない話でもあるが――多少はやるのか。以外だな、生真面目に見える」

「野営地での暇つぶしは、大抵がカードでしたので、人数が足りない場合や、ディーラー側の役割を、たまに自分が呼ばれていたものですから」

「なるほどな。つーことは、あれだな――その年齢にして、俺よりよっぽど、実戦経験はあるわけか。参る話だな」

「そうかもしれませんが、実力とイコールではないかと」

「馬鹿言え、実戦で培われるのは実力じゃなくて〝生き残る力〟だろ。それは腕力や速度なんていう力だけじゃねえ。知恵に知識、そういったものを含めた総合力だ。そういうものは、訓練じゃ身につかない――と、俺は思うね」

「そう……なのでしょうか」

「なんだ、やっぱり誰かを育てたことはねえか」

「はい。自分は伍長であり、兵に指南することもありましたが、自分の槍がマニュアル通りではないこともあって、どちらかといえば育て、指南することよりも、自分が相手をする場合がほとんどでした。実戦でも、ただ指示を飛ばしていただけのようにも思います」

「一番槍が先陣を切るんじゃ、指示くらいしか出せねえか」

「そんなものです。――ん」

「まあ待て、まだ時間はある」

 珈琲がなくなったので、どうしようかと思ったが、ファルは立ち上がるのを制して、通りかかった侍女にお代わりを要求した。

「美味しい珈琲です」

「だろ? 良い水を使っているからな。閑談ついでだオボロ、お前さん戦場は好きか?」

「いいえ」

 これには即答できる。迷う余地などない。

「戦場の怖さは変わりません。知れば知るほど、負担になります。仕事が終わるたびに、自分は生きていることを噛みしめてきました」

「嫌になったりはしねえのか」

「そうですね、自分は不器用で、軍人以外の生き方を、今までしようとも思っておりませんでした。であれば、拒否権はそもそもないのです。命を受け、戦場に出た自分は、必死にやっていました。恐怖を振り払うように、同僚の死を少しでも見ないように、自分は先頭に立って槍を持って、駆けてきたのです」

 だから、怖さを知るのは、いつだって、仕事が終わってからだ。避けられなかった同僚の死を悼んで、次は御免だと思いながら、怖さを抱いて、それでも戦場に出る。そういう生き方しか、知らなかったのだ。

「心残りがあったとすれば、それは、自分が抜けたことで、自分の代わりが誰かに押し付けられること、でしょうか。しかし、上官は自分の代わりなどいないと、そう言っていただけました」

「そういう環境だった――と、一言で片づけりゃ、面倒はねえがなあ。だとしたら尚更、新しい道を踏み出した理由はともあれ、不安はねえのか?」

「そう、ですね……それなりに不安はありますが、一人旅のように歩き出して、初めて向かった街の宿で眠る時、戦場ほど生きにくい場所ではないと実感しました。それがおそらく、自分の中では安心する材料となっているのかと」

「しっかりしてやがる。つーか、無口なタイプかと勝手に思ってたが、そうでもないな」

「そうでありますか? 感情が豊かではないなど、よく言われましたが……」

「あっちじゃ、こうやってのんびりすることも、そうねえか――ん? こゆき?」

「お待たせ。またサボってると思ったら、ちゃんとお客様の相手をしていたのね」

「また、とは人聞きが悪いな」

 お盆を片手にやってきた女性は、侍女服ではなく、珈琲を置いてくれたので、オボロは一礼をするに留めた。

「ファル、これ」

「おう」

「どうぞお客様、ごゆっくり」

「ありがとうございます」

 まったくと、ファルは苦笑しながら渡された紙を片手で開き、すぐにそれをテーブルに広げた。

「オボロ、これがウェパード王国の概要図だ。去年の調査で修正したものだが、大きくは変化がない。黒色に塗られているのが水路になる」

「……術陣ですか、これは」

 見れば一目瞭然だろう。基本的に水路は四角形が繋ぎ合わさって作られているが、大きい水路は基本的に線対称になっており、細かい水路などは小さな四角形として存在し、それが重なり合って模様を作っているようだった。

「何かしらの結界が敷かれていると、そう見えますが」

「そうだな。いわゆる妖魔避けのためのものだ。専門に言わせれば、水の流れによって構築された術式らしい。実際に効力がどの程度あるのかと聞いたら、登山をする時には熊避けの鈴を持つだろうと、そんな返答があったな」

「あくまでも軽いものなのですね。しかし……これだけの水は、一体どこから? 近くに大きな山岳があるわけでもない――と、思っていましたが」

「オボロはここが、軍事国家だったのを知っているか?」

「はい。随分と前のことなので、情報として知っている程度であります」

「その頃のウェパード王国は、水気ってものが一切なかった。外堀だって今は水路だが、かつてはただの塹壕だ。枯れていたと、そう表現すべきなんだろう。そして、当時の革命が成功した暁に――現国王、ワイズ・ウェパードが玉座に座ってから、この街には水があふれた。まだ当時を知ってるご老体もいるから、聞いてみろ。冗談でもなんでもなく、この国の水の全ては、どこから引いているわけではなく、湧水なんだよ」

「――これら全て、湧いているのですか……?」

「信じられないかもしれないが、ここでは常識だよ。汲み上げているわけでもない。もちろん、ある程度の指向性は持たせているがな」

「……凄まじい、ですね。思えば、ウェパード王国に手を出せない理由は、決して経済的な立場や軍の錬度だけではなく、こうした事情も含まれていたのでしょう」

「半ば自然現象だけどな。さて、そっちの地図はやるよ。ただしこっちは覚えてくれ。といっても、そう難しい図面じゃあない」

 言いながら、もう一枚の紙を並べて置いた。

「王城が南に位置しているから、西口になるのか。街道から外れて歩くことになるから、位置の把握は立体図で頭に入れてくれ」

「はっ、諒解であります。山の傍……ですか。こちらに、楠木殿がいらっしゃるのですか?」

「住んでいるのはリエール一家だ。こっちも、まあ事情があって、国王とは個人的な付き合いがある。楠木との繋がりもな」

「答えられたらで構わないのですが……」

「なんだ?」

「地図をいただけない以上、リエール殿の一家は、隠れ住んでいると、そういった認識で構わないのでしょうか」

「ありていに言えば、そうだ。だからといって隔離されているわけでも、秘匿しているわけでもない。昔はともかくも、今はそれほど秘密にしているわけじゃないが、向こうさんも人がわらわら集まることを嫌っているのも事実だし、こちらから干渉したくもない。たまに王城に遊びにくるし――まあなんだ、隠れ家に近いが、それほど隠れてはないってくらいなもんだ」

「そうでしたか」

「というか……案外、自分以外のことも、気にするんだな、オボロは」

「そうでありますか? 自分にとっては何もかもが新鮮で、好奇心で動いているようなものだと思いますが……ありがとうございます、覚えました」

「おう。迷ったらまた戻ってこりゃいい」

「はい。ご馳走様でした、美味しかったです」

「おう。余裕ができたら、一度顔を見せろ。軽く手合せでもしようぜ、オボロ。きっとその方が、お互いに多くを知れるだろう」

「は、覚えておきます、ファル殿」

「ったく――レーグネンのことがなけりゃ、うちに引き抜きたいくらいの人材だな」

「引き抜く……で、ありますか?」

「ああ。これでも俺は、ウェパード王国騎士団副団長だからな。人材を育てることも好めば、お前みたいなのを引き抜くのも仕事のうちさ」

 驚きに息を呑みながらも、姿勢を正し、頭を下げる。シャヴァ王国軍では、おそらく少佐クラスの階級のはず――そんな男と今まで談笑を交わしていたとは、己の迂闊さを嘆くというか、平然と交わせていた事実が、上手く飲み込めない。

 ひらひらと手を振って去るファルの背中に、強さを感じたわけでもなく、それはオボロ自身が見抜けないほどの未熟である事実のようで。

 世の中にはこんなこともあるのかと、現実を呑み込むのに、しばらくの時間を要した。


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