05/27/07:40――リウラクタ・旅立ちの日

 朝早くから精が出るなあと、背中にノザメエリアの外壁を置きながら、腕を組んだミヤコは欠伸を一つした。随分と小さく映るリウは、メイと一緒にあちこちと移動しながら、何かをしている。何をしているかまではわからないが、怖さはないものの、近寄るには警戒に値するだけの危機感と違和感は覚えていた。

 得体が知れない、というべきか。

 そうして考えてみれば、今まで魔術師を間近で感じながらも、自分は武術ばかりで、理解しようと――そんな心構えを、たった一度でもしたことがなかったように思う。けれどこれからは、そういうわけにはいかない。

「――よお、なんだ、リウは危なっかしいことしてんじゃねえか」

「いんちょ」

「どうだミヤコ、体調は」

「うん、だいじょぶ。昨日あれから、水に浸かってたし」

「そこらへん、水気の利点だよなあ。誰でもってわけじゃねえだろうけど」

 昨日、昼過ぎから夕方まで、エイジェイが不動の行に付き合ってくれた。これほど幸運なこともないと思い、全力を注いだのは言うまでもない。

 最初は二秒で殺された。

 岩場で五メートルの距離で対峙したが、居合いの姿勢のミヤコはともかくも、エイジェイは岩に躰を寄せた楽な姿勢のままで、それでも二秒で殺された。そんなことを三十分も続ければ、殺され続けたミヤコも、六秒まで引き延ばすことができて、そうなってようやく、最初の二秒で三度殺されていたことに気付く。精神的にも追い詰められ、気を失った回数はもう数えられないほどだ。それでも立ち上がれば再び行い、最後には限定的であるものの、十秒は防げるようになった。

 思えば。

 戻ってきたエイジェイがリウとミヤコと対峙した時、どれほど手を抜いていたのか、痛感させられる。よくやった、なんて最後に言われたけれど、気休めにすらならない。

「聞いてなかったけど」

「あん?」

「いんちょが、あたしくらいの頃、どうしてた?」

「お前、いくつだっけか」

「十四になったよ」

「あー……その頃だと、三番目の大陸ドライに連れられて、火龍アブソリュートと遊んでたな。まだ先代が現役だった頃の話だ」

「えっと、継いだのはいつ?」

「十七……だったか、そんくれえだな。早熟だとなんだのと、さんざん言われて叩きのめされた。最後はぶっ飛ばしてやったから、気は済んだけどな」

「うーわ、参考にならない生き方してるなあ」

「それでいいんだぜ。参考になんかせずとも、お前は自分で見つけられるだろ」

「……うん」

「それでも、見失いそうになったら自分に問え。良し悪しじゃねえ、受け入れて進めるかどうかだ」

「いんちょは、後悔したことある?」

「山ほどある。けどな、後悔だってちゃんと取り戻せるんだよ。一度も後悔しねえ人生なんてのは、俺はごめんだ」

「焦らなくてもいいってこと?」

「そういうことだ。それでも、言葉を重ねるのなら――そうだな。一を求めろ」

「うん?」

「目的じゃなくていい、何か一つを求めろ。たった一つだけ、極めようという心意気で、求めろ。そうすりゃ全が見えてくる」

「それは、一つを理解できれば、その一つを中心にほかのが理解できる?」

「はは、頭の回転は悪くねえんだよな、ミヤコは。そういう意味合いもあるが、逆だよ。一つを極めよう、一を求めるってことは、結局全を知らなきゃどうしようもねえってことだ」

「ふうん……よくわかんないけど」

「ははは、それでいい。偉そうに言ってる俺だって、ちゃんと理解できていると胸を張って言うことはできねえよ。迷ったら自分に問え、くらいが俺の基準だな」

 そもそも、先代から継ぐことと、新しく何かを作ろうとする行為は、別物だ。その点においてエイジェイとミヤコは、比較対象にならない。

「それで? ミヤコ、その服はどうしたよ」

「あ、うん。昨夜に先生がくれたんだけど……詳しいことは聞いてない」

 同じような袴装束でありながら、裾には大きく一つの紋様が記されている。

「家紋だ」

「――楠木、の?」

「なんだ、知ってんのかよ」

「知ってるっていうか、まあ、なんとなく……そっかあ。こりゃ大変そうだ」

「大変か?」

「そりゃそうだよ。今はまだ着られてる感じだけど、いつか相応しくなりたいし」

「それが自覚できてりゃ、十分だ」

 そう言って笑ったエイジェイは、おうと戻ってきたリウに声をかけた。

「危ねえことしてんなあ」

「おはよ。といっても、これを確認しておかないとね……っていうか、まだ準備すらしてない状態なんだけど、よくわかるわよね」

「あ? お前ね、こんなのは危機感知の初歩程度だろ。探りを入れるまでもねえ。だいたい隠してもねえ」

「……」

「あ、リウが変な顔してる。たまにあるよねー」

「うっさい。こういう顔させるのは、いつもミヤコだっての。いや本当に、私はただ状況を確かめていただけで、どの程度なら大丈夫かをあれこれ確認してただけ。ほかはなんもしてないよ?」

「ばーか。お前が事を起こそうって行動そのものが、既に匂ってんだよ。知られたくなかったら、もっとうまく隠せ。匂うってのも一つの評価だけどな」

「どういう嗅覚してんのよ……」

「こんなの、程度としちゃ並みだ。つまり、俺は手出ししなくても構わないんだな?」

「へ?」

「なんだ、ミヤコは知らないのか。二度目の襲撃だよ。今日なんだろ?」

「そうだけど……どうしてと、一応聞いておく」

「あの一度だけで、西の騒がしさが消えたわけじゃねえ。その上、リウが準備するとなりゃ、そういうことだろ。ほかにも考察材料はあるが、そんなもんだ」

 そういう流れなんだよと、エイジェイは苦笑する。

「こういった事象、流れってのは、それこそ経験がものを言う。理解しろとも、納得しろとも言えねえよ」

「あたしにはよくわかんないけど、リウは何しようとしてんの? さっきから怖くて、あんまし近寄りたくはなかった」

「ん……ちょっと、火の取り扱いについて、試してみたいことがあってね。この機に場を借りようかと思って」

「うっわ、怖いことするなあ。あたしを巻き込まないでよ?」

「さあてね」

 嫌だなあ、なんて思いながらも左手が柄に乗る。軽く瞳を閉じれば、なるほど、確かに西の方はまだ騒がしい。そして、それは近づきつつある。

「案外、早そう」

「ま――そうでしょうね。ハンターたちが気付く頃には、終わってるといいけど、残党が出るようなら処理はお願い」

「あい」

「そんくれえはな。街の結界は?」

「どこまでやれば壊れるか試したいって言ったら、怒られた」

「……お前ね」

「あたしが怒られなくてよかった……」

「あんなもん、見ただけでわかるだろ。試すまでもねえ……といっても、まあお前らじゃ壊せるかどうかは半半ってところか。リウ、サギとは話をちゃんとしたか?」

「――うん」

「ならいい。お前の人生に俺がとやかく口出しするつもりはねえよ」

「……あ。そうだ院長、これ壊せる?」

 影の中に手を入れ、宝石をいくつか取り出した中に、黒色の板があり、それをエイジェイへ放り投げる。重量はそこそこ、手のひらよりもやや大きく、厚い。

「これ、リウが作ったのか?」

「そう。金属の雛形なんだけど、本当ならミヤコに頼もうとしてたもの。ちょうど良いから、院長やってよ」

「ふうん? 壊し方に注文はねえんだな?」

「今のところはないけど、破壊後は回収するから、そのつもりで」

「おう。ちょっとミヤコ、離れてろ」

「あい」

 俺を試すとは良い度胸だと、半ば苦笑ぎみに三歩ほど前へ出て離れたエイジェイは、表面を術式で軽く撫でる。術式といっても、体温程度のものであって、火を発生させているわけではない。本来ならば力を弱くする方の制御において、火系列は非常に難易度が高いのだが、これでも五神を名乗る実力者だ、この程度の軽い調査など意識しただけで行える。

 物体の構造式を読み取る、なんてことは初歩だ。軽く撫でるだけであっても、今のリウが準備をして探りを入れるのと同じことができてしまう。ただし、この板を作れと言われれば、時間を寄越せと返答するだろうけれど。

 ――よく作ってあるじゃねえか。

 摩耗における消耗を前提とした構造物だ。可能な限り損傷そのものを度外視する形から、物品の永続性を考慮しているのだと読み取れる。いくら使っても壊れない、どれだけでも持つ――それは、理想だ。

 固くなくてはならない。硬い方が良い。けれど堅過ぎてもいけない。同時にそれが弱くてもいけないし、柔らかくては刃物にはならない――そんな、絶妙なバランスの中から、さらに耐久度をほぼ極限にまで持っていくとなれば、奇跡的な一点を求める結果になる。

 いや、リウはそこを求めているのか。

「――四十六通り」

 言って、金属を高く放り投げた。するりと抜いたロングソードは右手へ。切っ先は抜いた先の地面から掬い上げるように上へ向かい、落下してきた板と、空中でぶつかり合った。

 いや、ぶつかったというより――すり抜けた。

 落ちる。二つに割れた金属が音を立てて地に触れた直後、エイジェイを中心にして熱の余波が周囲へと弾け、ミヤコは思わず姿勢を低くする。口を開いていたら喉を焼かれただろうし、瞳を閉じていなければ眼球の表面が焼けたかもしれない。もっとも、ミヤコはもともと水気を身に宿しているため、ある程度は相殺されたが。

 加えて、エイジェイが本気でなかったのも、良かった。

「その内の一つを選択だ。よくできてる、なんて言えば嫌味だろうけどな」

 拾った金属の切り口は鋭利だが、僅かに溶けている。火系術式を刃の表面に流すことで切断力を上げた形だ。体術だけでこれを斬ろうとするのならば、おそらく試行回数は二桁になってしまう。

 受け取ったリウはいくつかの術陣を展開して、今の情報そのものを蓄積する形で保留したあと、ざっと記録に目を通してから影の中に落とした。

「反省は後回し。院長、その得物は?」

「んー、オトガイのマエザキが作った代物だ、とは答えておくか」

「同業者か……ありがと」

 だったら、いつか逢うこともあろう――そう思って視線を切れば、空の色が変わり始めていた。

 今度は、どうなるだろうか。

 また以前と同様に街を目指すだけなのか、それとも迂回して回避して、あるいは人を喰うことを主体とするのだろうか。

 どうであれ。

「――ミヤコ、気をつけなさいね」

「あい」

 リウは、自分の望むことをやるだけだ。

 一歩ずつ、歩きながら街から離れていく。その一歩ごとに術陣は周囲へと展開し、重なり、五枚以上になれば目視での確認は難しくなった。

 増え続ける。一歩を踏み出すたびに、術陣の数が増えるたびに、双肩に伸し掛かる負担は増え、リウは一個目の宝石を口の中に放り込み、奥歯で噛み砕いた。それは飴細工のように、口の中で溶けて消え、一時的な魔力補填を行う。

 ちりちりと肌を焦がすような熱気が周囲に漂い始めた。空を覆う黒色が近づく。振り返らずとも、街が小さくなっていくのがわかる。

 なんだか妙な感覚だった。これほどまでの大規模行使は初めてだったが、規模が大きくなればなるほど、大雑把になってしまうのだと今までは思っていたけれど、むしろ繊細な、実に詳細に、周囲の状況がすべてわかる。危機的状況に脳が認識を拡大させ、普段よりも多くの情報を仕入れることから、周囲の光景が停止して見えるような状況を、今のリウは意図して引き起こしているようだった。

 攻撃をしよう、とは思わない。思えない。思ったところで実行に移せないのは、さんざん今まで試してきた。こと術式において、攻撃系列のものを扱おうとすれば、それがある特定地点を超えてしまえば、攻撃と断じられてしまえば、意味消失したかのように、何もかもが最初からなかったことになるのは、リウの制約そのものだ。だから最初から攻撃を捨てて、創造に傾倒できた。

 劣等感はない。攻撃ができないからといって、戦闘ができないわけでもなく――そして、攻撃とは、あくまでも術式に絡んでのことでしかないのだ。

 だからこれも、攻撃ではない。ただ、そう、ただ――リウは。

 鉄を打つための火を、熾そうとしているだけだ。

 ――純度は高く。

 濃度を上げて。

 それこそ世界中の火と呼ばれる要素を、この場に集めよう、という気概だ。

 冷やすための水、打つための火、叩くための鋼――この三つを知ろうとする、その一歩。

 上空を妖魔が通過しようとする頃にはすでに、火はその形を作って燃え上がった。大地を焦がし、岩の表面を撫で、木木は避け、空気を攪拌しながら燃え上がる。三日前にエイジェイが前線に出た時に上がった火柱など、比較対象にもならぬほどの、炎柱だ。

 ――もっと。

 三つの宝石を噛み砕き、額に流れる汗を拭いながら、肩に乗ったメイに一瞥を投げれば、実に嫌そうな顔をしながらも、頷きが返る。当人の――当猫の心情を察すれば、どうせ毛が焦げて毛並を整えるのが大変だから、それだけは避けたいのだが、なんて感じだろう。知ったことではない。

 術陣が百枚を超えた辺りから、躰の重さが消える。アドレナリンの分泌による高揚とは違う――危険な兆候、つまりこれは。

 リウの制御下から、火そのものが離れようとする兆候だ。いや、もう既に離れつつあるからこそ、重さは消える。暴走が危険なのではない。暴発しないような術式は最初の方にも、半ばほどにも、幾重にも張り巡らしてある。

 術者の手を離れた術式は。

 ――その術式を、構成を、保てないことが大半だからだ。

 徒労、なんて二文字を、最後の宝石を握りつぶすことで振り払う。これでここ五年で溜め込んだ魔術品は使い切った。金額にしておおよそ――いやいや、考えるのはやめよう。失敗した時の損失を今から考えるようでは、成功などしない。

「メイ」

「……うむ」

 言葉は短く、意図の交換は早い。

 無尽蔵に集めに集めた火を、自身の傍に凝縮させていく。一点――は不可能でも、限りなく小さく、小さく、火を。

 火を、火で囲って、火とする。

 そんな現実を、術式によって行う。

 かつて水を、水で囲って、水としたように。

 強い圧力を感じるものの、そこは留めながら、集まりやすい部分に向けて集中する。可能ならば集めた火を魔術品として凝縮保管したいものだが、なんて考えは、甘かったといえよう。

「――主様あるじさま!」

 注意喚起に似た叫びに、はっと気づいて顔を上げれば、ぼやけていた焦点が一気に戻る。

 そこに。

 巨大な、龍がいた。

 ゆらゆらと陽炎のように揺らめいているものの、胴体が太く、翼は短く、赤色の巨体を持つ龍は、ぐるりと胴体を巻くかのごとく、リウへと顔を近づけた。その瞳のサイズが、おおよそリウと同じくらい。

 蛇に睨まれた蛙、ではないけれど、それだけの圧迫感と、熱を感じた。とっくに制御を離れてしまっていた火はしかし、けれど。

 彼の。

 火龍アブソリュートの躰を保つために、そこに在った。

 召喚の術式ではないのに。

 顕現する。

 喉の奥で唸るような――それは警戒、敵意ではなく、笑い。

 笑っている。

『よもや――』

 空気を震わせず、リウに直接伝わる声は、威圧感と共に、衝撃のように伝わる。

『――貴様のような小娘に造られるとは、思わなかった』

 目まぐるしく思考が回転する。なぜ? どうして? その結果は目の前にあるのに、結論に至るまでに時間を要する。

 リウは。

 けれど、要した時間で、世界の構造における片鱗を知ることができた。

 それは――世界が七つに分かれている理由と、それぞれの属性の意味。そして飛来した疑問は、定期的な時間に空を移動する浮遊大陸の存在意義。

 ああ、だが今は。

「――初めまして、アブソリュート。きっと今のあなたは、本拠に置いた身の一割程度なんでしょうね」

 今は、対しよう。

 三番目の大陸に居を構える、火の龍に。

『だろうなあ。人型になることすら、ままならん』

「ごめんなさいと謝るべきところ? ――こっちとしては、召喚した覚えはないんだけれどね」

 火に――業火に巻かれて、劫火に舐められ、空を飛ぶ妖魔も、地を這う妖魔も、一定の領域から先へ進めずに焼かれていく。その光景の最中、リウは胸を張って彼と対した。

 彼は火龍だ。この世にある火を担っている。

 であればこそ――火を集めたが故に、彼は顕現した。

 つまり。

 大陸間を移動したければ、火に向かえばいい。これで憂いはなくなった。

「これから、そちらへ行くわ」

『ほう』

「どれほどの時間がかかるかはわからないけれど、また逢いましょう。名乗りはその時に」

『なにを求める』

「鉄をくべる火を」

『はは、大げさな話だ。しかし――面白い。良いだろう、来い。俺なりに歓迎してやろう。どうせこの場は、風の場だ。俺が長く留まるわけにはいかん』

「バランスが崩れるから、でしょ。じゃあ――……また」

『応、また逢おうぞ』

 ゆらり、とその姿は消え、一気に主導権が逆流する。安全装置の二つがはじけ飛び、奥歯を噛みしめて制御下に置いたリウは、そのまま火を拡散させた。目的は達した、役目は終えた。ならば、あとは安全に気を付けて霧散させるだけだ。

 そうして、試みが終えた頃、街がにわかに騒がしくなってきた。その気配を遠くに感じながらも、荒い呼吸を隠そうともせず、その場に座り込んだリウは、膝の上に移動したメイの背中を軽く撫でた。

「……ありがと、助かった。記録は?」

「なんとかのう。まったく、冷や冷やしたぞ、主様。火の中で冷たさを味わうとか、なんの拷問じゃ」

「はいはい。……さすがに私も、参った。魔力はまだ大丈夫そうだけど、精神と肉体の疲労が結構ある。でもまあ、相応の結果にはなったかな」

「――終わったの、リウ」

「あらミヤコ」

 いつの間にきたのか、振り向けばすぐ傍にミヤコがいた。いつも通りの表情で、驚きや呆れはない。

「終わったわよ」

「ふうん、そっか。どこまで行けるかなーって、試してたんだけど、途中でなくなっちゃったから、失敗かとも思ったんだけどさ」

「あれはあれでいいの」

「うん」

「――行こうか?」

「そだね」

 返事はあっさりと、リウの意図を読んでか否か、ミヤコは頷いてから、首を傾げる。

「え、旅を始めようってことだよね?」

「そゆこと」

「だよね。いいよー、今のあたしはリウについて行くってだけだし。任せた」

「それはそれで、どうかと思うけどね……」

 よいしょと立ち上がりながら、いくつかの術陣を周囲に展開する。ふと思って振り向けば、にやにやと笑っているようなエイジェイが遠く、街の傍に。そして外壁の上に腰を下ろし、呆れ顔で頬杖をついている師が見えた。

「じゃ、始めようか」

「だね」

 しばらくは二人旅。最初は惑うことも失敗もあるだろう。

 けれど。

 いつかは一人旅になる、そのことを誰よりも自覚しているのは、きっとリウではなく、ミヤコだったろう。

 そして、旅には終わりがあるんだと強く思っていたのは、リウの方だ。

 それもまだ、いつかの話。

 今はこれから、二人の旅が始まるのだ。

 まずは、三番目の大陸へ――。


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