--/--/--:--――円つみれ・簡素な連絡

 深夜に入り、寝て、早朝に入って目を覚まし、朝食後にまた温泉に浸かる――つまるところ、円つみれは温泉が好きだ。

 広い浴槽だから良いというよりも、雰囲気そのものが好ましい。何も考えずぼうっとできるのも、出先ならではだろう。何もしなくても食事が出てくるのをありがたいとも思うし、朝食後の暇な時間を見計らって料理長と話をしたりもした。

 唯一の手荷物であるノート型端末を手にして部屋から出たのは、昼食後の温泉から上がった頃だ。エントランスにある談話室を選択したのは、やはり一人でやるのなら自宅でも良いのだし、せっかくなので違う環境に身を置こうと思ったからだが、そんな大した理由付けなど、本来は必要ないのだろう。

 いくつかのプログラムを作成しつつ、紅茶を飲み終えて緑茶に切り替え、薄く切った羊羹を三切れほど食べた頃、ふらりとやってきた鷺城鷺花が対面ではなく隣に腰を下ろした。そういえば、昨日に会話をしたきり、顔をずっと見ていなかったと、そこでようやく思い出す。

「鷺花さん、まだいたんだ」

「いたわよ? さすがに今日は戻るつもりだけれどね」

「神出鬼没っていうか、行動が読めない人だなあ……あ、作業中だから反応は適当になるかも」

「構わないわよ」

「ちなみに、興味本位なんだけどさ」

「できるわよ」

「や……だからまだ言ってないんだってば」

 この先読みというか、こちらの思考を当たり前のように読むのは、なんだろう、嫌がらせなのだろうか。それともただの癖? いやいや、話術の一環かもしれない。

「私に電子技術を教えてくれたのが、現在の公爵位にいる二人ね。さすがにあの二人ほどじゃないにせよ、一通りは。というか、魔術以外は基本的に最高峰の八割程度ってのが、私の限度なのよね。それ以上となると、バランスが崩れるし、私は魔術師としての自覚があるから、そこが否定できない」

「とんでもないこと言ってるんだけど……バランスなの?」

「そうよ。何かを突き詰めようとしたのならば、突き詰めた先に残るものは僅かで、結局はほかのものを犠牲にしている自分に気付く。それは単純に許容量の問題にも感じられるけれど、もっと本質的なものなのよ。たとえば、私が武術を突き詰めた先に、どうなると思う?」

「……武術家になる」

「その通り。魔術師でもあり、武術家でもある、なんてのはどっちつかずの中途半端。未だに突き詰めていない現状に甘んじているだけね」

「厳しいなあ――ん? あれ」

 結果、そうなるとしたのならば。

 いや、現実として、そうならば、つまり。

「極論になるけど」

「ん……ああ、続けて」

 あ、このパターンはまた先読みされたんだなあ、と思いながらも、促されたことをありがたく感じながら、つみれは頷く。

「突き詰めたいのなら、邪魔なものを先に捨てる――ってことと、同じだよね?」

「そうね。極論というより、乱暴な手段ではあるけれど、ある種の人間にはかなり有効な方法よ。何が犠牲になるかは確定できなくても、突きつめたい欲求に身を委ねた際に、邪魔だと思えるものも、あるいは必要かもしれないと思うものでも、最初に捨てて犠牲を作ってしまう」

 賢いやり方じゃないけれどねと、鷺花は苦笑して珈琲に手を伸ばす。

「だから、ベルは最初に言ったのよ。狩人になりたいなら、全てを捨てろってね。それに応えたからこそ、イヅナは今の生活を手に入れた」

「でも、必ずしもそうなるとは限らないでしょ」

「限るわよ? あのね、なりたい夢を持っていても、現実には叶わないなんて言葉はね、私に言わせれば程度が足りていないと苦言を呈したい気分よ。夢だって、やろうと思えばなんだってできる。ただし、犠牲を許容しなくてはね。あれを捨てるのは嫌だ、だから諦めようだなんて、そんな自覚もなしに吐き捨てる甘ったれは、最初から夢を叶える気なんてないのよ」

「厳しいなあ」

 言っていることに間違いはない、と思うけれど、現実に即しているかどうかと問われれば、甚だ疑問だが、きっと鷺花たちの領域においては当たり前のことなのだろう。その真似ができるかと問われれば、未だに夢や理想――目標や目的など、大それたものをつみれは持ち合わせていないと、そんな本心を誤魔化しながら口にするはずだ。

 そう簡単に、人は大事なものであっても、くだらないものでも、物体として所持していないものならば、捨てることなんてできやしない。

「で、防御用のプログラムなんて作ってるわけ?」

「へ? あーうん、なんていうか基本かなと思って。今までは平面的だったのがわかったから」

「ああ……構造を立体的に捉えるのは男性の方が得意だものね、数学的なのよ結局。まあそれを差し引いたとしても、セキュリティの複層構造はそれほど単純でもないのよ?」

「うん、構造そのものの理解はできたんだけど、いざどんなセキュリティにするかってところ。汎用性が高すぎて、逆に取捨選択に困ってる。バランスが悪くなると、弱くなっちゃうし」

「セキュリティを構築する上での目安は理解してる?」

「目安……っていうと、仮想敵の想定?」

「それもそうだけれど、もっと単純なことよ」

「単純? ……守りたいものがなんなのか?」

「目安よ。いい? 大前提――自分が持つ攻撃プログラムの全てを使って、防御可能なセキュリティを目指すの」

「――え? それ、常識?」

「常識よ。だってそうすれば、己の技術に見合ったセキュリティが組めるもの」

 言われてみれば確かにと頷ける話である。

 バランスがどうの、と考えだしたのは、どういう攻撃をされたらどう防御するか、などと考えた際に、その対応ばかりを突き詰めていくと、セキュリティとしての全体像がちぐはぐになってしまうからだ。だから、どうやって組めばいいものかと思っていたが、鷺花の言うことは道理だ。

 何しろ、攻撃する方法そのものが手元にあるのだから、それを参照してやればいい。べつに攻撃そのものを仮想せずとも、現物があるようなものなのに、そこに至らないとは、やれやれ痛恨の極みだ。

「うーあー」

「知識に溺れて発想の転換が疎かになるようじゃ問題よ」

「らーじゃ……鷺花さんと話してると、落ち込むなあ」

「ありがたく思いなさいよ」

 わかっているけれど、言い方なのだろう。率直というか、本質的に突いてくるというか。

 どうしたもんかなあと、手を止めて紅茶に手を伸ばそうとした時に、小さな電子音が短く聞こえ、つみれはポケットからタッチパネル形式の携帯端末を取り出す。間違いなくメールの着信だが、珍しい……というか、初めてではないだろうか。

「ミュウだ」

「へえ?」

 どういうわけか、鷺花は目を細めて頬杖をつくと、小さく面白そうに笑った。その反応こそよくわからないと思いながら端末に再び目を向けると、メールの内容は簡素なものだ。

「――ヒナを確認、ステージで踊る。相手は知らん。よろしく頼む……って」

 逡巡の時間に二秒、すぐさまつみれはノート型端末を叩き始めた。

「馬鹿じゃないの!?」

「ぼやかないの」

 迷わずに自宅のサーバへとアクセス、続いてイヅナから借りた認証コードで〝オレンジジュース〟を遠隔起動した。

「ん? へえ……オレンジね。イヅナのかしら。コードはさすがに、見ただけじゃ二割読める程度よね」

 そんな感想は右から左へ。携帯端末のリレー局を追って、白井のメール発信点を確認するのに六十秒を要した。操作に不慣れな自分を恨めしく思うが、そんなことをあっさりやってしまうプログラムに脱帽――というか、忸怩たる想いだった。

 最寄の監視カメラの映像には何も映っていなかったため、記録を遡って映像を確認。こういう時に画面が小さいと面倒だ、なんて考えながら続いては白井の携帯端末が発信しているGPSを特定した上で、愛知県の地図上に表示させる。

 それらの作業が終わったのは三分後だった。

「うーわ、ばぁーか!」

 街頭監視カメラに映った実行犯なのか、それともあえて流れに身を任せた白井に対してなのか――おそらく、後者だろう。

杜松ねず市郊外……まだぐるぐる回ってる感じかあ。相手の目的がわからない以上、あたしができることは――んっと」

 いくつかのプランを頭に浮かべながら、二つの映像をそのままミルエナへと送ってやる。それから、可能性の考慮だ。

 何故――誘拐などしたのか。

 思いつく限りの理由を頭に浮かべ、その際に起こりうる可能性を考慮し、その解決手段を模索する。

「――ん」

 あとは、それらの可能性を一つずつ消して行くだけだ。

 〝オレンジジュース〟に含まれる手段の一覧をざっと見たつみれは、まず携帯電話のメールログ、および通話ログにサミュエル・白井で検索をかけた。もちろん略称を考慮してのワード検索だ。続いて衛星側から、GPS発信の逆探知をかけ、現在白井の傍にある携帯端末を特定する。

「っていうか、なんでこんなに万端なプログラムを義父さんは作ってんだろ……」

「起きてから対応するんじゃ手遅れになるからよ。状況入りしてからプログラムを作ってるようじゃ話にならない」

「そりゃそーだけど」

 そこで携帯端末に着信があり、名前を確認するより早くハンズフリーの状態で受信した。

「はあい」

『うむ、状況は理解したが……放っておいてもミュウなら生還するだろうと楽観している私だ』

「そういうこと言ってると、対応を隣にいる鷺花さんに任せるけど?」

『さあつみれ、私は何をすればいい。なんでもやるぞ、動くとも。やれやれ、ミュウも面倒を起こしてくれる。現状はどうなっている?』

 なにしたの、と横目で鷺花を見ると、素知らぬ顔でつみれの茶菓子を摘まんでいた。今のところ、こちらに介入するつもりはなさそうだ。

「どこにいんの」

『部室だが、すぐ動けるようにしておくべきか?』

「んー、まだ三十分くらいは大丈夫かなーと、楽観はしてるよ。とりあえずあたしのノート型端末、立ち上げて」

『諒解だ』

「どう見る?」

『今のところ私が理解できたのは、尾行に気付いたミュウがいくつかのパターンを想定した上で、状況に流されることで虎穴に入り相手の目的を探ろう、との判断だろう。つみれに連絡が入ったのか?』

「うん。軽く」

『そこは評価してやるべきだな、ははは。信頼されていると思っておくが……』

「相手は?」

『おそらく、仕事として請け負った誰かだろう。つみれの読み通り、依頼人がいる』

「んー、まあ……そうだけど、実行した連中に見覚えもなければ、手際の悪さに言うこともない?」

『そんなところだな。ただ、狙いがわからんというのがどうも落ち着かんな』

「今、通話ログとメールログを洗ってるところ。発信地を特定したら、そっちに侵入してもらうから、そのつもりで。現場はとりあえずミュウに任せる」

『到着を狙って指示を出しておけ』

「え? 睡眠剤か筋肉弛緩剤のあたりを使われてんじゃない?」

『使われていたとしても、ミュウならどうにか動くだろう。対策くらいしてあるだろうし、してなかったら馬鹿と笑ってやれ』

「はいはい――っと、そうだ本題忘れてた。ミルエナ、エイジェイって一応はあたしらの顧問なんでしょ? 連絡先知ってる?」

『……知らないな、そういえば』

「ばぁか。まあいいや、そっちにはあたしが連絡しとく。といっても、状況報告だけね」

 地図表示を一瞥してから折りたたみ、自宅のサーバを経由させてからVV-iP学園のサーバにつみれの名義でアクセス。以前にアタックを仕掛けた、エイジェイ名義のサーバへとアタックを仕掛け、当人が気付くだろうアドレスを割り出す。以前よりもスマートにことが運ぶのは、そもそもエイジェイが使っているセキュリティが一般向けの甘いものだからだ。

 いちいち電話で連絡する必要はない。ミルエナに送ったのと同じようなファイルを転送しておけば、すぐに推察してくれるだろう。

「よしっと。それと、杜松市を管理してる狩人知らない?」

『うむ、悪いがまったく知らんな。ははは、忘れているようだが、私も日本にきて浅い』

「役立たずって言っていい? それとも、これからの行動で挽回できるから、もう少し待っててあげよっか?」

『何故私の扱いがこうも悪いのだ……』

「連理(れんり)先輩への連絡はいらないっしょ?」

『ああ、そちらは必要ない。私からしておこう。何しろ、レンは一応、私の監視なのでな』

「じゃ、お願い。まあ基本的には、今やってるようなこっちの動きが、全部向こうに筒抜けって状況を想定して動くから」

『諒解だ、続報を待つ。準備もしておこう』

「ノート型端末に情報送ってるから、そっち見逃さないようにね」

 言って、軽く手を触れて携帯端末の通話を切断する。未だに続けているメールログの特定に対し、どのような動きをしているのかを確認するのには余念がない。何しろ自分で作ったプログラムではないのだ、ミスがあっても対応はできないのだから、余裕などそうはない。

「――杜松市の管理狩人、知らないの?」

「え? ああ、うん。基本的には五年単位くらいで変更されるのが通例だし、ランクC以上の狩人っていう規定があるのも知ってるけど、普通に生活してて耳に入るもんじゃないと思うけど」

「まあそうだけれど……どうやって調べるつもり?」

「非公式依頼所Rabbitに打診できないかなあって、いろいろ考えてる。駄目ならしょーがない、義父さんか義母さんに聞こうかなって」

「イヅナに連絡なさい」

「……なんで? あたし、プライベイトしか知らないし、あんま頼りたくないんだけど」

「杜松を管理してるのがイヅナだからよ」

「……――え」

 一般的に市を管理する狩人は、市長の上にいる。厳密には裏、と表現すべきもので、基本的には治安などの管理であって資産管理、運営などに直接関与はしない。もちろんアドバイスはするし、もしも口出しをしたのならば、管理狩人の意見が必ず採用されることになる。

 ちなみに、野雨を管理しているのは、あの〈鈴丘の花ベルフィールド〉だ。その情報は聞いていたけれど。

「え、え? 義父さん、いつもふらふらしてて、情報もつかめないし、なにしてんのかなーとか思ってたけど」

「ほぼ放任してるけれどね」

「うそ――逆に言えば、放任できるだけのシステムをもう確立してあるってことでしょ、それ」

「そういうこと。というか、気付いていないでしょうけれど、ミルエナと電話している最中にメールが来てるわよ」

「え? あ、ほんとだ……げ」

 養父からのメールだった。

 行動許可、殺害許可などがランクB狩人〈管狐の使役者〉の名で与えられ、末尾には好きにしろと短くある。

「うーわー……」

「そのくらい状況が読めなくては、狩人は務まらないわよ」

「手早いなあ。あたしがオレンジジュースを飲んだのに気付いたんかな」

 殺人許可リストだけをサーバを経由してノート型端末に表示させる。おそらく現在、ミルエナもこれに目を通しているだろう。

「これ、確保じゃなく殺害前提なんだね」

「そうよ。つまり――確保しても、狩人専用拘置所で殺されるだけ」

「逢わないことを祈りたい気分だけど、義父さんのことだから折り込み済みかもなあ。まあいっか、とりあえずこれで動けるかな。あとは情報次第……」

「どう?」

「んー、どれだけ早い手を打てるのか、そのための準備をしておく必要はあるよね。対応は早ければ早いに越したことはない。あとは、動ける人間の確保……まあ、現状においては充分だけど」

「ふうん。相手の狙いは?」

「一番可能性が高いのは、あたし狙い。ただ今のところ、その狙いで得をする人間が想定できてないって辺りが、あたしの行動理由かな」

「人員の配置は、現場に白井で後ろにミルエナ、つみれはここで指示?」

「え? うん、今のところは……」

「そ」

 軽い返事から、さして興味がないんだなあ、と受け取れる。そこに疑問もあったがすぐに意識を切り替えた。

「音声ログの方は後回し。メールは……」

 いくつかの件数がヒットしており、それらに対して更に追加検索を行う。拉致や誘拐、その隠語を含めて心当たりを入力すれば、ようやく二十件ほどに絞られた。今度はそれらに直接目を通し、直感で数軒のログを漁れば、発信地点が特定できる――どれも、携帯端末ではなく、据置端末で行ったものであり、また同時に、あちこちのサーバを経由したものだ。

 評価できる手際だ、と思う。同時に見習おうとも感じた。隠ぺいをあっさり食い破って発信源を特定したオレンジジュースも、これどうかしてるだろ。

 そんな中で、信憑性の高いメールが見つかった。消去されたメールも自動的に復元していたらしいもので、通信記録を漁れば四度ほど同じ相手とメールで連絡を取り合っている。白井の名前が出ているのは一度だけだが――場所は杜松市内、というのが気になった。

 本来、目的地へ到着するまでの時間稼ぎとして移動を繰り返す場合、本能的に目的地への近くは最後の方にしてしまう。それを確認するために表示されている地図に、ここ二十分ほどで移動した経路を赤色表示で重ねた上で、メールの受信・発信地点を見比べる。

 信憑性は高いか――。

 携帯端末を操作して、再びミルエナへ。

「準備は?」

『いいとも。殺害許可リストは頭に叩き込んだ』

「こっち、ミュウが輸送される場所を絞り込んだけど、ミルエナは彼らを動かした対象の方を調査して。特に目的ね」

『うむ、つまりミュウのバックアップは必要ないと判断するが、構わんか?』

「ああ、いいのいいの。自業自得。とりあえず情報抜くだけ抜いておいて。判断に迷うならまた連絡してくれればいいから」

『諒解した。では、現地でまた連絡しよう。この位置なら到着まで、十五分ほどだ。なあに、油断はせんとも』

「ん、掴まされた感覚はないけど、こっちの行動は筒抜けのつもりで」

『わかった。では行ってくる』

 さて。

 これが当たりであることを仮定すれば、相手の動きも多少は読めるはずだが、どうか。

「杜松――郊外か」

 衛星の映像を拡大すれば、かつて杜松市で大きく発展していた自動車工場の廃墟だ。今では芹沢企業に押され、規模を縮小している。いわゆるエンジンの効率的な電気化に加え、搭載AIによる自動運転システムを芹沢が確定してしまったが故に、個人が所有するバスのような箱といった感覚で利用される車は、運動性能の追及や燃費などを度外視するようになってしまったのだ。

 そうなると、車への愛着はともかくも、選択肢そのものが狭まる結果となり、ただでさえフォルムが似通った車が多くなった状況では、競争そのものが発生しなくなってしまい、車業界は一時期、かなり冷え込んだものである。ただでさえ日本の景気は車産業が基準になっていたのだから、当時はかなり大変だったに違いあるまい。

 とはいえだ。

 ほんの二ヶ月前に、芹沢企業と呼ばれる世界規模の会社は、謎の襲撃にあって各地の支部などの居地をすべて破壊されてしまい、事実上の営業不能に陥って、解体されてしまったのだが。

 それについては、現在進行形で余波もあるのだけれど、余談というやつだ。

「うげ、車載AIへのアクセス手段も用意してあるんだ……でも、さすがにそれはなあ」

 もしも保護優先対象が拉致られたのならば必要だが、自ら誘われて中に入ったのだから使っても意味がない。

 では、白井が生還すると信じているのか?

 そんなことを問われたら、どうだろうとつみれは首を傾げる。相手がどうであれ人は死ぬものだ。白井にいなくなられると困るとは思うけれど、先ほど言ったように自業自得な部分もある。そこは信じるというよりも、任せるしかない。

「あ、そうだ鷺花さん」

「なに?」

「拉致って成功率が極端に低いって話なんだけど――」

 どういうことなのかなと、半ば予想はしていることを口に出して問えば、何故だと思うか言ってみなさいと返された。

 なるほど、厳しい物言いもあるが、やはり鷺城鷺花という人物は、教育者に近いのかもしれない。


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