06/25/08:20――朝霧芽衣・日本の学校
まず私が向かったのは職員室だ。場所は知っていたし、それでも編入といえば担任の案内が必要だろうと――考えていたわけではなく、そうした指示が出ていたのだ。しかし、朝の会議とやらがあるらしく、手持無沙汰だった私は、担任だと挨拶した、ガキみたいに小柄な成人女性かっこ笑い、と表現すべき女性の机の前に足を組んで座り、整ったデスクにある文庫本を手に取って読みながら、教頭が進める会議を聞いていた。
「でして、あー、午後からは……」
歯切れが悪いのはいつものことなのか、私がいるからか。たぶん後者なのだろうと、私はこっちに向く視線に対して軽く手を振って気にするなと伝える。文庫本の内容はドイツ語の企業経営に関したマニュアル書だったが、なかなかに興味深い。
「それでは今日一日、乗り切りましょう」
そこで通達は終わったのか、ぞろぞろと教員たちが動き出す。やや慌てたように担任の
「お待たせしましたー」
「ああ、大して待ってはいない。担任殿も大変だな、一クラスを任されるともなれば肩の荷も重いだろう。その点を鑑みれば、この程度待ったくらいで音を上げはしない。ところでこの本だが、借りて構わないか? 帰宅する頃には返せるが」
「えーっと、貸すのは構いませんが、朝霧さんは読めるんですねー」
「経営マネジメントだろう? 面白い内容だ。見るに一通り読んだ形跡もあったのでな」
「はい、いいですよー」
「では教室に向かうとしようか。私が前に立っても構わないが、迷子の少女を親元へ案内する趣味もないのでな。誤解を受けるのは担任殿も避けたいだろう?」
「あのですね朝霧さん、先生はれっきとした成人女性ですっ」
「知っているから先を歩いてくれと、こうして頼んでいるのだが、なにを怒っている? 意味がわからん」
「先生は朝霧さんがわかりません……」
「ははは、人間関係は時間をかけなくてはな」
廊下に出てから、ところでと私はそのまま会話を繋げた。
「どうして最初から教室で待機させないんだ?」
「編入生はですね、紹介する必要があると先生は思います」
「紹介? 杓子定規な挨拶をするよりも、雑談の中に紛れさせた方がよっぽど人間関係というやつは相互理解できると、そうは思わんか? 時間を費やすことと、時間をいたずらに使うことはべつものだろう」
「特別扱いは嫌いですかー?」
「ふむ、これが特別扱いというのなら、私よりもむしろ担任殿の方がよっぽど重要な役割だろう。よく考えてみろ、いくら編入生とはいえ、満を持して登場した私は、しかしあくまでも生徒の一人でしかない。四月から入学してきた新入生、あるいは進級した彼らが、そこまでの特別扱いをされたことがあるか?」
「えっと……」
「聞けば十二組の情報処理科はクラス替えもないと聞く。全員が顔見知りになる段階で特別も何もないだろう。その中に入る私が特別な計らいを受けるのは、いささか場違いとしか言いようがない。となれば、私よりもむしろ、最後に登場すべきは担任殿ではないか」
「そう、なんですか?」
「そうだとも」
私は二回ほど頷き、情報処理科の前で足を止めた。まだ中からは僅かに声が聞こえてくる。
「なあに、私が舞台を温めておくとも。担任殿はしっかりと、どっしりとここで構えていろ」
「はあ……」
理解が追いついていないのか、それともよほどの間抜けなのか。手に持っていた出席簿を奪い取った私は、迷わずに一人で教室の中に入った。途端、ざわりと空気が波打って音がなくなる。教壇に立ち、生徒たちのぽかんとした表情を眺める。
「おはよう諸君。ふむ、どうやら席についているようだな。空席は……一つ、なんだ田宮か?」
「あれ、なにしてんの景子ちゃん」
「先生と呼びなさい田宮くん。それより、ちゃんと席につくように」
「ん? おーう」
後ろの扉が開かれ、田宮が入って、ぴたりと足を止めたかと思いきや、ぱくぱくと口を開いて閉じてを繰り返す。
「田宮、固いことを言うつもりはないが、時間は守れ。荷物が置いてあるから今回は見逃すが、本来なら遅刻の扱いだ。よし、全員出席だな。さて――私が今日より編入することになった朝霧芽衣だ、よろしく頼む」
出席簿に印をつけつつ、軽い口調で言った私は、そのまま先ほどの職員会議の内容を思いだしつつ、ほかの書類に軽く目を通す。さすがに秘匿されている情報はないようで安心だ。
「来週から始まる試験――七月頭にやる辺りがよくわからんが、試験準備期間が今日から始まる。そのため部活動は禁止だ。速やかに帰宅しろとの命令はないが、職員室に立ち入るのならば神経質になれ。私たち同様に、教員も準備が必要だ。そこを理解するのは容易いだろう。それと、これは担任殿のメモで、暗躍禁止と書いてあるが、ルールを逸脱しない限り、何をするのも自由だろう。迷惑をかけるならば相手を考えろ、かけたぶんは違う形で返す。それらの点を抑えれば問題はあるまい。――ああ、どうやら授業中に携帯端末を扱う生徒が多くいるようでな、措置として電波妨害装置の導入を検討しているらしい。まだ検討段階だ、潰すならば早い方がいい。――と、今日はこんなところだな」
印を終えて顔を上げると、まだ呆然としていた。やや長いなと思いながらも、田宮に向けて席に座れと手で示しておく。
「さて、ここで我らが担任殿が、満を持して登場だ。このクラスの責任者でもある、丁重に迎えようではないか。――どうした諸君、拍手だ」
ぱちぱちと手を叩く音がまばらに。半分ほど開いた扉から担任が顔を見せる。
「あ、あのう……やっぱりこれ、なんか違うような気が」
「ああ、――当たり前だろう? 担任殿が伝えることを、編入生の私が伝え、立場を奪うなど、どう考えたって非常識だ馬鹿者」
「やっぱりそうですよねっ! そうじゃないかと思ってました!」
「そうやって最初から勢いよく登場すればいいだろう。他人の結婚式に紛れても、堂堂としていれば誤魔化せるというものだ。だが安心しろ、優しい私は最後の仕事を残してある」
「優しくないですけど、なんでしょう」
「うむ。私の席はどこだ」
どういうわけか、無言で中央最後尾の席を指された。なるほど、確かに空席になっている。私がそちらに移動して鞄を置くと、教壇に上がった担任はしかし、何かを言おうとして俯き、顔を上げ、それから。
「……以上でーす」
本当に疲れたように、そう言った。
さすがに意表を衝かれたようで、すぐにでも質問を投げるような生徒はいない。私は脚を組んだ状態で文庫本を片手に開き、初めての授業に突入した。
突入して五分後だ。
「朝霧!」
「なんだ、早いご指名だな。どうかしたか、教員殿」
「お前は授業を受ける気があるのか?」
「ふむ。最初に言っておくが、私は扱いにくい要注意人物になるつもりでいる。その上で、私への時間を割くくらいなら授業を進めたらどうだと、それとなく進言するが」
「その態度はどうなんだと言っている!」
「うわべだけ取り繕って欲しいならそう言ってくれ、遠回しに伝えられても意図が読めん。特別扱いではないだけありがたい話だが……面倒だな。教員殿の授業はきちんと聞いている。態度が悪いのは自覚している。責任を教員殿に押し付けるつもりはない、正当な評価をしてくれ。それでも気に入らないなら、私を教室から除外するなり、教員殿が出て行くなり、好きにすればいい。それともなにか、私に数学の授業代行を望むならばやろう」
「――なに?」
「ただし、生徒の立場である私が授業を代行した場合におけるメリットとデメリットを計算してからにしてくれ。できないと思っているのならば結構、できた時には貴君の立場が危ういと知れ。用無しのレッテルを張られるのは、なかなかきつい」
「……」
「ふむ」
ぱたりと文庫本を閉じて、私は教員を見る。怒っている様子はない、つまり冷静なのだろう。しかし、だからといって前へ倣え的な日本の教育制度そのものに意見があるとはいえ、この教員に言っても仕方ない。けれど、私が私である以上、譲れないものもある。
問題児として生活する私が与える影響により、上層部がなにを判断するかも気になるところだ。あっさりここで退くくらいなら、最初からこんな態度を取らない。それに、最初で決めておかないと、あとあとで面倒になる。
「いいだろう。心苦しいが、私に時間を割く心意気は買った。では話し合おう、そもそも教員殿は私にどうして欲しい」
「真面目に授業を受けろ」
「態度だけでそれを決めつけるのはいかがなものかと思うが? それとも、教員殿の見解では、態度が悪ければ全員、授業を聞いていないと、そう言いたいのか。ちなみに言っておくが、私は貴君をここで突破すれば、次の授業からは楽になると考えている。私が手におえないとわかれば、ほかの教員にもその話は伝わるだろう。実に好ましい展開だ。つまり簡単に言ってしまえば、今の私が真面目に授業を受けていないという、貴君の認識そのものに、それなりに頭にきている」
「……」
「こう言えば伝わるか? 貴君が真面目に授業を行っている現在を指して、不真面目にやるくらいならやめた方がマシだと、そう直截された状況と同じだと私は言っている。教員殿は、それを笑って受け流すことができるのか?」
「――俺が悪いとでも言いたげだな」
「授業を進行せず、私に時間をかけているのは悪いことだろう。少なくとも授業を妨害しているのは教員殿だ。違うか?」
返答はなかった。ただ、授業が再開されたので、私は再び文庫本に視線を落とす。それから十五分後に、問題を解けと言われたので、授業内容に沿った計算と回答を示し、その上で違う解法での導き方を二つほど追加したら、さすがにそれ以上の文句はなくなった。
そして三つの授業を終えての昼休み。やや教室内は騒がしくなり、食事を購買へ買いに行く者もいる中、前の席に座った彼は、私の机にサンドイッチの入った袋を置いた。
「――よお」
「なんだ田宮、その忸怩たる想いを噛みしめたような顔は」
実に複雑そうな顔だが、それもそうだろう。私も鞄の中からブロック状の栄養食と、ゼリー状の補給食を取り出した。
「やられたと思ってな。姉さん――朝霧の態度も態度だが」
「無茶をしたと、敬遠するか?」
「まさか、俺としちゃよく言ったってやつだ。実力に裏付けされた言葉なら、なにを言ったっていいだろ。その実力も証明された。妬み嫉みは知らねえけど、敬遠するよか興味が先だろ。やれやれ……朝に逢った時点で知ってたのかよ」
「事前調査は基本だろう、なにを言っている。あとは情報開示のタイミングだ。その重要性が理解できたのならば、お前は一歩進めたことになる。よかったな」
「なんでそんな上から目線なんだよ……」
「性格の問題だ、そうそう変わるものではない」
「あっそ。ったく、朝から慌ただしく探りを入れるだけ無駄だったかもな」
「では一つ指摘しておこう。無駄だったのは、私への探りを入れたからだ。いいか? ああいう状況下ではまず、どうやって自分の情報が漏れたのかを探れ。そうすれば無駄になることはないし、危険も回避できる」
「そりゃどーも。つーか朝霧、そんなんで足りるのか?」
「食事などエネルギー補給に過ぎん。それに日本の食料は美味いからな、問題ない――それはそうとして、なんの用だ? 目付きが悪いと定評はあるが」
「なんだそりゃ。背後から見た限り、すらっと整ってて綺麗だったぜ」
うむ、目付きはスルーか。
「うなじは髪で隠れていて見えないはずだ。私を美人の分類にすれば、世の努力している女性を敵に回すことになる。まあ既に遅いだろうがな」
「恐ろしいことを言うなよ。じゃあ朝霧から見た美人ってどんなヤツだ」
「一日で六百ドル以上は稼げるストリッパーはどれも美人だ。それともミロのヴィーナスを引き合いに出した方がいいか?」
「いやわからんし、ミロは一日に六百ドルも稼げねえだろ」
「一括の支払いで充分な稼ぎがある」
「そりゃそうか。――よお朝霧、まさか二日か三日くらいで転校するつもりはねえよな?」
「唐突に何を言っている。前例でもあるのか?」
「あるさ。鷹丘っつー野郎が編入してきたんだけどな、四月くれえに。一日か二日顔を出して、そのまま行方不明だ。生徒会に聞きにいったら、退学処理になってるんだと。何だそりゃって感じだぜ。……足取りも追えねえし」
足取りか。しかも鷹丘ときたか……まあ、言及はしないが。
「……ふむ。このクラスに、か?」
「そうだ。まあいろいろと噂はあったけど、もう収まったな」
「私は違う、とは断言しないが――まず、大丈夫だろう。サボることはあるだろうが」
「おいおい、編入初日からサボるなんて口にするたあ、どういう了見だよ」
「たまにはそういう日もある。女性の月のものを知らないのか?」
「わかった、参った。俺の負けだ」
べつに勝とうと思ったわけではないが――しかし。
「噂とは、なんだ?」
「いやな、四月頃――そいつが編入してきた頃合に、うちの学校の教頭が癒着っつーか横領でしょっ引かれたのさ」
「つまり、それをするために編入してきた、と? ただの学生だろう。齢はそう変わらないと思うが」
「だから、噂だろ」
「そんなものか。しかし、一ついいか田宮」
「おーう、なんだよ」
「私の制服姿はどうだ?」
「女に衣服のセンスを訊ねられたら、似合ってると答えるようにしてるよ」
「本心は?」
「おいおい、着飾るってのは努力を評するんであって結果を下すもんじゃねえだろ。なあ?」
周囲に向かって言葉を投げると、大半の女子生徒が半眼で田宮を見ていた。
「結果も評しろと言っているようだが?」
「俺を追い込みたいだけさ」
「団結力があって結構だ。さて用紙に落ちた墨汁はどうすれば良いか、助言はあるか?」
「用紙が真っ白かどうか確認するのが先決だろ? んでもって、落ちたのが墨汁かどうかも確認すべきだな。――でだ、ちょいと質問をいくつかいいか?」
「ああ構わない。答えられるかどうかは聞いてから判断しよう」
「それでいいさ。――ってことだみなの衆、質疑応答の時間だぜ」
それを待っていたんだと言わんばかりに、教室内に残る……いや、ほぼ全員いるなこれは。しかも、逃げ場を封じるのではなく、視線だけこちらにきた。
「はい! はいはい! 現在付き合ってる殿方はいますかね!」
「なんつーありきたりな……どうなんだ朝霧」
「ふむ、敬語は不要だ、適当にしてくれ。恋人という意味合いならば右手――冗談だ。そう引くな。現在はいない」
「好みの男性タイプはなんだ?」
「……この手の質問は常套句なのか? 私の好みはそうだな、ハンス=ウルリッヒ・ルーデルだ」
「ルーデルってあれか、確かドイツ軍の撃墜王か?」
「ああ。空軍での撃墜王は彼しかいない。エースパイロットだ」
「じゃあ年上と年下はどっちが?」
「がっつくなよ男子、見苦しいわねえ……」
「うっせえ! これは男の本能だ!」
胸を張って言うものではないと思うが男子諸君、何を納得しているんだ。
「そうだな……落ち着いている相手を好むが、他人に入れ込むような生き方はしていないので、わからんというのが本音か。異性など、ついてるかついていないかの差でしかないだろう?」
率直な感想を口にしたら、何故か全員が押し黙った。しょうがねえ、とばかりに田宮の苦笑だけが聞こえる。
「じゃあ趣味はある?」
「いや、これといってない。休日はどうやって過ごそうか、まだ悩んでいる最中だ」
「尊敬する人は?」
「エルヴィン・ヨハネス・オイゲン・ロンメルだ。砂漠の狐と言えば聞き覚えもあるだろう。戦術家として尊敬している」
「特技は?」
「射撃だ。残念ながらオリンピックには出たことがない」
「胸を大きくするにはどうすればいいかな」
「手術が嫌なら神に祈れ」
「自動車を買うなら何色にする?」
「これといってないがスポーツカーなら青色を選択するだろう。自転車なら赤、単車ならば黒、電車は特に気にしない。アニメキャラがプリントされていようともな」
「最近、腰の痛みが……」
「レントゲンで異常を確認してから対策を練るんだな。腰は上手く付き合っていくしかない。ベッドの上での運動も気をつけろ。下になれば楽のように思えるが、実際には下の方が腰に負担がかかる」
「化粧とかしてる?」
「していない。いわゆるスッピンだ。日ごろから運動を心がけているため、肌荒れなどはないと思うが?」
「姫様と呼ばせて下さい」
「帰って寝ろ」
「数学の白石がヅラ疑惑なんだけど」
「いや、あの人はカツラではなく植毛だ。頭頂部よりも生え際が中心になっている。いいか? 禿げるのは加齢による劣化だ。相手を傷つけぬよう心がけろ」
「じゃあ白石にどうアドバイスしたらいいかな?」
「私ならば無駄な抵抗はやめろと優しく伝える。遠回しにスキンヘッドの有用性も説いてみせよう。中心に穴のあいたクッションをさりげなくプレゼントするのと同じだ。だが育毛剤は止めておけ、あれは下手をすると全滅させる恐れもあるからな」
「じゃあ女王様と呼ばせて下さい」
「お前はとりあえず病院へ行け」
「クソッタレな上司に愛想を尽かしそうになった時はどうするよ?」
「毒づく前に上司の指示を完全に行え。それができたら壁に向かって文句を言う権利を得たと思う。後は流れ弾がクソッタレな上司に当たることを想像してハッピー入れ」
「一日が二十六時間だったら最高だよな?」
「二時間程度増えても暇を持て余すだけだ。最高だと思うならば日ごろから時間の分配に気を使って二時間分の空白を生み出すよう努力しろ」
「好きな音楽とかある?」
「あまり音楽は聴かない。前の学校でも雑音交じりのラジオくらいならあったが、そんな暇もなくてな」
「そろそろ俺を踏んでくれませんか?」
「メーデー、黄色いアンビュランスを呼んでくれ。幼女趣味より性質が悪い」
「え!? 貧乳が最高とか今誰か言ったろ!?」
「誰も言っていない。貴様の趣味はよくわかったから本の続きでも読んでろ。幼女に触れたら犯罪だ、見るだけにしておけ。それと二次元は決して嫁にはできないからな」
「株で一儲けするにはどうすればいい?」
「株で儲けるのは資産であって金ではない。換金することを忘れた時点でどうしようもないから気をつけろ。情報は鮮度が高ければ高いほどいい。まずは学校を辞めて専門家に弟子入りしろ」
「酒に酔ってテンション上がるとどうなる?」
「今はそうでもないが、昔はダンスホールでぶっ放したこともある。照明が落下してきて大変だったが、跳弾は壁に食い込んだので人的被害はない。――説教はされたが」
「痛風がさあ」
「ビールを飲むな」
「巨乳が足元見難いとか肩凝るとか言ってっと殺したくならね?」
「殺人は犯罪だ。大きいのが羨ましいにせよ何にせよ、背後から掴んで揉んでやれ。感度が悪いのはすぐわかる」
「俺、最近彼女から連絡がこないんだけど……」
「それは直接顔を見せろとの催促だ。別れ話のコツは雰囲気を察したら自分から先に宣告することだ、覚えておけ。その方が傷が浅い」
「あ、そういやあたしもそうだ」
「浮気の可能性を考慮するなら、拘束してから話し合いをした方がいい。親指同士をテープで縛り、手首を縛り、足首を縛る。これで完璧だ。錬度が足りないならスタンガンで武装するのが効果的だ。人のいない場所でやれ」
「弱点とかってあるのか?」
「私の感じる部分は衣服によって防御してある。弱点を触りたいなら私を組み伏せてから合意を得るんだな」
というか、質問もあるが相談が含まれているのはどうしてだろう。とりあえず答えておいたが。
「……しっかし」
質問の途切れを狙ったかのように、笑いながら田宮が口を挟む。
「淀みなく答えるなあ」
「質疑応答だろう? 慣れている」
自分で返答を考慮できるだけありがたいものだ。軍法会議には一度だけ出たことがあるし、その時のものと比べれば段違いだ。
それに。
「――興味を持たれるのは、悪くない」
それだけ私を知ろうと、そう思ってくれているのだから、むしろありがたいくらいである。
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