10/17/21:20――中原陽炎・見えなかった目的

 ソファに倒れ込んだ七に近づいた陽炎は、限りなく睡眠に近い吐息を手で確認してから胸をなでおろした。

「何が起きたのか、とは問わないよ。そっちは大丈夫かな?」

「まったく……やってくれたわね。ええ疲れはあるけれど、問題ないわ。文句は山ほどあるけれど」

「それを俺に言っても仕方がないよ」

「そうね。ともかく、もう終わったわ」

「……そうか。じゃあ後は、鷺ノ宮を発端とした流れがゆるやかに海と合流するのを待てばいいだけだね」

「流れを、読めるのね?」

「あの嘘吐きに、ある程度は教えられてね。ただ、気になるのは――フェイ、どこまで気付いていたのか教えてくれないか?」

「馬鹿ね、今まさに使われる瞬間まで私は無防備だったわ。そう見えていたでしょう?」

「そうだね、だから確認したかった。――フェイに気付かれず、フェイを巻き込んだ手を打つ人間は、心底から恐ろしいと思うよ」

「そうね。私に対してまったく干渉せず、状況だけを整える。しかも――私だけではないわ」

「どこまでその手が広いのか、俺には想像もできないよ」

「手は……広く、ないのでしょうね。私にしてみれば、無理やり舞台上に乗せられた気分よ。ただ一つ言えるのは、私の思考を完全に読んでるわね」

「――でも」

 七の前髪に触れながら、陽炎は思う。

「たった一人の手で行われたと、俺には思えないね。そう仕向けられたようでいて、たぶん、幾人かが別の方向から助力してるはず」

「そうかしら?」

「まだ結果を俺は見てないから何とも言えないけど――なんとなく、そういう感じがあったんだ。けどま、始まりはやっぱり鷺ノ宮だね。フェイだって依頼で動いたんだろ?」

「そうなるわね」

「狩人は存外に動かしやすい――そう考えていたのかもしれないね」

「それが感想?」

「俺の感想なら、七さんがとりあえず無事で良かったなと」

「入れ込むのね」

「……え? そう見える?」

「どうかしら。他に質問があったら受け付けるわよ」

「疑問ならある」

「たとえば」

「目的――かな」

 あまりにも、それは、不明瞭だ。

「たった一つの目的のために何かを成し遂げる――俺はそう思っていたんだけど、なんか違う。違和感がある。まるで複数入り混じった問題を、一挙に解決したみたいに……と、そんなことができないとは思うけど」

 けれど、どうしてかそう思う。

 あるいは、複数の目的を解決した結果が、今なのか。

 目的とは、己が成し遂げないものも該当するのか。

 その答えは、陽炎はもちろんのことフェイにもわからなかった。


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