10/17/21:11――蒼凰蓮華・すべての鍵を手にして
そして、観測によって五つは確立する。狩人と呼ばれるものたちの観測で。
赤色の柱が五本、線で繋げば五角形の位置に出現したのを中央にて確認する。橘という繋がりが作り出した五本は術陣の軌跡をなぞって移動し、蓮華の正面に門を作り出した。
門――それは、扉へ至るために必要なものだ。
だから扉を作るために、擬似的な世界を構築する。
〈
彼女は空間の支配者だ。その気になれば世界と呼ばれる器そのものを構築できる。ただしそれは空っぽの器だけであり、その中には法則も何もなく、故にそれは世界などとは呼べない代物かもしれない。
だから、世界を世界たらしめる根源にして根本たる法則を組み込めばいい。
〈
まずは現在から過去へ流れる法則を。
〈
そして人が意識できず感じ取ることすら難しい現在と呼ばれる法則を。
〈
現在から未来へと流れる法則がここに在るのならば、時間軸が完成し世界が確定する。
だが、扉に至るまでには進化が必要だ。
進化の原点は――即ち、火にある。
そこに、扉ができた。
それは自動的に開く。
「――はッ」
犬歯を剥き出しにして笑う蓮華は、開いた扉から飛び出してきた碧色の何かに――触手のようでそうではない何かに、飲み込まれるようにして全ての感覚情報を切断された。
世界に対し、擬似的にとはいえ世界を作り出すとは何たる反逆行為。これが脅威でなくて、何になろう。
「世界が持つ抵抗措置……か。こりゃ予想できてたとはいえ、俺にゃァ対応が難しいのよな、これが」
だが、目的はこの場からの脱出ではなく。
「止めるよ」
世界が進行してしまっている、破壊への導を止めることだ。
蓮華が持つ記録の中に、久我山桔梗が最後に記したコードがある。それは雪芽が使った、記録停止コードだ。
だが、どこに書き込めばいい?
それを見つけるために、それは稼動する。
〈
多くの意味の中から選別し、進行しているものを一時的にせよ中断可能な〝意味〟の一点を見つけ出し、いや、あるいは中断できるような意味に〝使役〟してやる。
では、どうやって書き込む?
雪芽の下位構造でもある彼がいる。
〈
ただ記す者と呼ばれるコンシスの法式を以って、世界の深部に書き込みを行った。
――でも、これだって一時凌ぎよなァ。
以前、東京事変の際にはここまで直接的には行わなかった。けれどあの時は鷺ノ宮があったため、世界の意志を感じ取ることができただろう。
けれど今回は、その鷺ノ宮が原因だった。
いや、鷺ノ宮が強引に開始させた。
目的を達成するために。
だから直接的な干渉が必要だった。敵対行為として、それを防ぐために世界がこちら側に干渉して来るのを利用したとはいえ、同じことだ。
「――よし。簡単なもんよなァ」
簡単ではない。ここまで仕込むのに随分と時間がかかった。
それにまだ――上手く行っただけで、蓮華は帰らなくてはならない。
帰ろう。
待ってくれている人がいるのだから。
平衡感覚はない。ただ眩しいほどの碧が周囲に満ちている――と。
その中に、まるで墨汁を垂らしたかのような黒点を見つけた。それは点点と、まるで道しるべのように落ちている。
――なんだ戻ってきたのかよ。
それもまた、予想通り。
予測した未来を呼び寄せずとも、その結果が見えるだろうことを蓮華は予想していた。
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