10/17/21:10――ベル・数知の柱

 落ちてきたように咲真には見えた。

 いや、実際には見えていない。ただそう感じたのだ。

「くっ……! 何故、私の魔力まで呼応するのだ……!」

 三四五と一二三を巻き込んだ赤色は、あるいは二人を一つのものとして包み込みながらも、勢いを増す。むせ返るほど濃い魔力波動に咲真は咳を二度ほど落とし、そして。

 勢いに混じって偏光眼鏡を落としてしまった。

「ああ――そうか」

 まだ幼いままの一二三が言う。

「咲真が継いでしまっていたんだね。やはり、と言うべきなんだろうけれど……言葉が見つからない。それはかつて僕のものだったのに」

「――そうとも」

 咲真の瞳は閉じられていて。

「かつてお前は、決して目を開けることがなかった」

 その二つの目を封じるかのように、幾何学的な紋様の刻印が二つの目に繋がってあった。

「けれど咲真は、受け継いでしまったが故に、目を開けてしまうことがないよう、己で封じたんだね。それは――束縛の刻印(ル・レギィ)。目が見えないけれど、意味を見ることはできる。けれど〝使役〟はできない」

 ごめん、と一二三は謝る。

「今の僕には、それを返してもらうことさえできないんだ」

 その光景を、誰に見つかるのでもなくベルが高い位置から観測していた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る