08/15/00:10――蒼凰蓮華・借りた技術

「わかってるのよな、これが。涼、借りるぜ」

「なにを――」

 九尾――否、華陽の瞳がこちらを捉え、その口を大きく開いて牙を顕に。

〝――〟

 言の葉はなく、ただ敵意と殺意のみを夜空に伝え、小雨を切り裂いて金色の呪力をそのまま口から放出した。

 一直線に狙ってきたそれに、蓮華が右手を出し――そこに、術式紋様が発現した。

 中央の文字を空白として二重円閉じ、文字円をなしに更に一円で閉じ、そして最後に文字円で括った奇妙な術式紋様が涼の差し出した右手に展開する。それに重なるよう、前面に中央文字と文字円、そして一円の閉じ――二つの術式紋様は、まるで一つだったものを二つに分割したような緑色。

 刹那、いや直後、金色の光は結界に当たって屈折を引き起こしたかのように明後日の方向へと射線をずらされて飛んで行く――。

 それは。

 空気を高濃度圧縮した風を操る。それこそを鏡の役割とし、結界とする都鳥の術式。

 間違いない。

「蓮華……お前は」

 今の術式は蓮華が使ったけれど。

 間違いなく稼動させたのは涼自身だ。

「さすがに九尾の咆哮を正面から受け止めるには強度が足りねェのよな、これが。でもま、相応の呪力を消費すりゃァ弾くくれェはどうとでもならァな。ただ連続は難しいよな?」

「あ、ああ……」

 だからそれは蓮華の手管。いつか行うのならば、今行ってもおかしくはない――可能性を現在に引き寄せる法式を使い、涼の術式を使わせたのだ。

 借りた――のである。

「ん、そうだ瀬菜、こいつを置いといてくれよ」

 振り向いた蓮華の双眸は碧色に輝いていて、忍はぎくりと躰を強張らせる――がしかし、どうしてか瀬菜は、あっさりと頷いて引き受けた。

「もうただの鉄だと思うけど、引き抜くなよ?」

「そうしておくわ」

「――引かねェのかよ」

「何に?」

 呆れたように瀬菜は肩を落とした。

「二ノ葉は最初、蓮華を青色だと言っていたわ。私もそう思っていた。けれど次に見た時は赤色だったと――今は碧色ね。どうして青色を嫌っていた私が、とも思ったけれど……」

「けれど?」

「そうね、単純なことだったわ。色なんてどうでも良かったのよ――蓮華は、ただ蓮華なのよね。だから」

 だから興味を持った。珍しく動いていなかった感情が、身震いをするように手を伸ばしたのだ。

「どんな蓮華でも、ちゃんと見ていてあげるから、安心なさい」

「――」

 驚いたように目を丸くした蓮華は、少し照れたように微笑んですぐに九尾へと躰を向けた。

「先のようにはいかねェ、尾の動きに注意しとけよ。暁は補助」

『おう』

「咲真、二尾を貫け。できるよな?」

『ほう――私には確認をとるか。気に入らんな、言えばいいだろう――やれと、やって見せろと』

 やれやれ、女の扱いに関しても経験が必要だなと蓮華は苦笑して。

「――期待してるよ」

 そう返答した。


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