ぷろろ~ぐ2 スカウト
「転生って完全に生まれ変わるんですか? って言うか、俺の魂ってあそこに繋がってるんですよね。確かロロさんは次元世界リグラグ担当だって言ってましたよね? そんな魂が別の世界に行っても大丈夫なんですか?」
「繋がりはこちらで千切りますから大丈夫ですよ。ブチッと簡単に」
ニコッと微笑みながら、太いロープを引き千切る仕草を見せてくれるロロさんだった。
「それって、そっちの世界で亡くなった場合はどうなるんです? 帰る場所との繋がりが絶たれるなら、死後俺は浮遊霊として彷徨い続けるんですか?」
「魂源から分断された魂は最寄りの魂源に引っ張られる傾向があるんです。切断後すぐにリグラグの魂源の元へと転移しますから、リグラグの魂源に再接続されることとなり、死後はそちらへと回帰するようになりますね。
前任者から数えても、今までにかなりの地球人の魂を送りましたが、迷った人はいません」
結構単純なシステムのようだ。
「転生はどんな感じになるんです?」
「大体二つのパターンですね。
まず第一に、全く新しい生命体としてあちらの世界に生まれ変わる方法。生まれてくる赤ん坊の中に魂を入れると考えて下さい。
この場合の利点は世界との親和性が高く、産んでくれる親次第になりますが生活基盤が始めからあります。
欠点は、成人するまでの間にこちらでの記憶及び人格のほとんどが意味消失してしまうことですね。発達していない子供の脳ですと、魂の記憶を留めておくのが難しいんですよ。中には強く残せる人もいるみたいですけど、普通は幼い頃に読んだ偉人の伝記程度にしか前世の思い入れは残りません」
どうやら、完全に生まれ変わると考えれば良いようだ。
「もう一つのパターンは、こちらでの記憶人格を有したままある程度成長した身体で転生する方法です。
望めば、こちらでの生前と瓜二つの身体を用意することも可能ですし、全く異なった容姿を用意することもできます。ただし、魂の形質影響を受けますから、どこかしら特徴が残ったりしますね」
「その場合の利点と欠点は?」
「利点は記憶も人格もそのままなので、転生の実感が強く異世界ライフを楽しめます。
欠点は、突然世界に湧いて出たような存在ですので生活基盤がありませんし、世界との親和性は個人の感性や特性、性質、そして周りの状況に左右されるため、場合によってはすっごくストレスを溜めることになります。
しいて例えれば、田舎での生活に憧れた都会っ子が脱サラして農家を始めたけど、こんなはずじゃなかったと後悔してる感じですか」
「…………」
ロロさんって地球の管理者じゃないのに、どうしてそんな例えが出来るのか不思議だった。
でも、適性があればいけるってことか。
「一つ訊きたいんだけど」
手を上げ、改めて口を挟む。
「わざわざスカウトに来たってことは、転生したならば、リグラグの次元世界に影響を与えた方がいいってことですよね?
前者じゃ場合によっては世界への影響は皆無で溶け込んでしまいそうなんですけど。それに後者は後者で、適性が無ければすぐ死んじゃいますよね? それはいいんですか?」
「世界への影響とかは気にしなくていいですよ。重要なのはリグラグに来たと言うことです」
小首を傾げ、話の続きを待つ。
「ずばり、私が地球の方に求めているのは魂の色なんです」
「色?」
白黒マーブルな腕を見ては反芻した。
「地球の魂は色数が豊富で多様なんです。対してリグラグは人口が乏しいこともあってか文化や文明が発展せず、色数が全然増えないんです」
「色数って人口に比例するんですか?」
「人口と言うよりも文化文明の発展具合ですね」
地球でも、発展途上国よりも先進国で生きた人の方が色数が豊富だと教えてくれた。
「文化文明の発展具合は人口数に比例する傾向があるんですけどね……リグラグの人口は同一魂源を持つ亜人種を加えても一億人に満たないですからね。文明なんてここ数千年ある一定レベルから全然発展してくれないんですよ。
ほんと、人口が増えてくれれば少しは変化しそうなのに、増え始めたと思えば何かにつけて無茶をしては勝手に滅んでくれるし……ハードモードかって言いたいです。
折角異世界人の干渉で双発文明の下地は出来上がっているのに、それを生かし切れてないし……」
ぶつぶつと、ロロさんの発言に愚痴が混じり始めていた。
「ロロさん!
その色数なんですけど、増えると魂源には良いことがあるんですか?」
やばそうな気がしたので慌てて話の流れを変えることにした。
「ああ、それでしたら、ある一定レベルに達すると集合された魂源は次のステージへと進めるんです――っと、詳しく話しても末端である佐月さんでは理解できませんので割愛させて貰いますね」
とにかく、進化のために必要不可欠な行為とだけ教えてくれた。
「それに、折角次元世界を渡っての転生なんですから、私としても楽しんでもらった方が見ていておも――嬉しいです」
今、面白いって言おうとしたよな?
まぁ、彼女が何を考えているかは図りかねるけど、不遇で不運な人生を歩んできた俺としても人生のやり直しは願ったり叶ったりだ。
「それでどんな転生を望みますか?」
「第一は無しですね」
それを選ぶことはあり得なかった。
「俺としての人格が無い状態じゃ転生する意味なんて無いですし」
「では、第二ですね。
佐月さんはどんな身体で転生しますか?」
「とにかく目付きの悪さを無くしてください。それで、他人受けの良い容姿ならなお嬉しいです」
勢い勇んで願ってみる。それ以外の願いは思い付かなかった。
「目付きの悪さですと……えぇっと、ちょっと待って下さいね。
こーしてあーして、ちょちょいのちょいで……むぅ」
何か見えないパネルを操作するように手を動かすロロさん。その人智を越えた端整な顔付きが険しげに歪んでいった。
「難しいんですか?」
「えぇっと、その……佐月さんの目付きは魂の形質が強く影響していますから、それを封じ込めるのがちょっと難しくて……あっ、大丈夫です。何とかなりそうです」
難色を見せるもそう答えてくれるロロさんの頼もしさに、ほっと胸を撫で下ろした……んだけど、
「容姿をかなり良くしたらマイナスポイントがゲットできたので、そちらで何とか補います」
続けられた言葉に不安が過ぎった。
「マイナス……ですか?」
「はい。
転生体はゲームキャラのメイキング画面を思い浮かべていただければ解りやすいかと思いますよ」
「ゲームを?」
俗すぎる例えに別の意味で頭を悩ます。
「はい。私は以前ゲームのような次元世界の管理運営を担当していたことがあるんです。その名残で、その当時のノウハウを利用して次元世界リグラグを管理運営してるんですよ」
「はぁ、そうなんですか」
何とも答えづらい裏話だった。
「それで、転生者には転生ポイントとして一〇〇用意したとしますね――あっ、あくまで解りやすくした仮の例えですから。厳密には色々と違ってます」
そう補足して彼女の説明が続いた。
「佐月さんの場合は、目付きの悪さを修正するのに最低でも二〇〇は必要なんです」
「えっ?」
聞き流せない必要ポイント数だ。
それってつまり、生前の俺は一般的な人と比べて始めから-二〇〇な状態だってこととなる。
そりゃ、どう足掻いても幸せにはなれないはずだよな。
「そのはみ出て足りなくなったポイント分を容姿の良さで補ったって言うのは?」
普通に考えれば、美形すればするだけポイントがかさむはずだ。
それこそ、
「醜悪な顔にした方がポイントが稼げたのでは?」
「醜悪にした場合、化け物のような顔付きになり、子供は泣きますし大人達からは迫害の対象と。
とても、人受けする容姿とは言えないんですよね」
目付きは治るが、それ以外は最悪だと言うことか。さすがにそれは避けたかった。
「でも、美形にしたことでマイナスポイントって得られるんですか?」
ゲームにおいては、得られないのが普通だ。
「それはですね。ある一定レベルを超えた美形は、人生におけるマイナスの要因が強くなるんです。地球でもあったはずですよ。美人過ぎる人間が変質者に狙われるとか。あまりに美形過ぎて誰とも付き合えないとか」
「あー、そう言うこと」
ようするに、ストーカーに狙われやすくなるってことみたいだな。
何て言うか微妙に嫌すぎる特性が付加されることになるけど、背に腹はかえられないよな。誰彼かまわず石を投げつけられる人生よりはマシだ。
でもそうなってくると、変質者から身を守る術が必要だよな?
そのことを口にすれば、
「戦う力ですか。んー、難しいですね」
ロロさんは口をへの字に歪めてみせる。
「その手の要素はポイントを結構消費するんですよ。モンスターとかいますからね」
「ちょっと待って下さい!?」
聞き捨てならない言葉に、慌てて止める。
「リグラグにはモンスターがいるんですか?」
「はい、いますよ」
あっさりと肯定された。
「ドラゴンとかオークとか色々いますね。ちょうどファンタジーゲームのような世界観だと思って下さい。文明なんかもあんな感じに、どこか未発達なレベルで停滞してますし……あっ、一部の遺跡とかでは過去にスカウトした人の影響で意味も無く異様に発達した遺跡とかもありますけど……はぁ、あの遺跡群の処分も考えないとなりませんね。ほんと、頭が痛い話です」
ロロさんは溜息交じりに愚痴ってみせた。
しかし、ますますゲームって感じの世界だよな――って、
「なおさら戦う力が必要じゃないか!」
慌てる。
転生してもこのままじゃすぐ死にかねない。
「何かないんですか? 低コストでそこそこ戦う術って」
「そうですね。制御できない超怪力とか一日一度最大威力でしか発動できない極大魔法とかでしたらマイナスポイントで取れるんですけど」
さすがにそれは無かった。
そんな大ざっぱな力で身を守ることなんて不可能すぎる。仮にドラゴンが殺せても、街のゴロツキを相手に何も出来なければ意味が無い。
「最悪、モンスターは別にしても人から自分の身を守れるレベルで良いんだけど――」
ズキンッ――
突然、痛むはずの無い脇腹に鋭い痛みが走った。その瞬間、俺は忘れていた死に際の出来事を思いだしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます