第3話 1-A(2)部活動
「へー、教科書も数年経つと結構変わるんだなあ」
「完全に電子化してから改訂が早くなっているからね。内容的にはあまり変わらないけど」
「もーちょっとこう、挿絵が見やすくなるといいんだけどなあ。社会の教科書とか」
リアルで既に中学を卒業している俺達にとっては、授業内容は小ネタに走るしかなかった。教科書と問題集に沿って、教師AIが自動対応するだけだからなあ。もちろん、抜き打ちテストの結果がパーフェクトかというとそんなことはない。
「君は日本史の年号を覚えるのが苦手なだけだったろうに…」
「ユキヤさん、年号は語呂合わせで覚えるのがいいですよ」
「あれ?中学の時の試験に年号の問題って出てきたっけ?」
いずれにしても、時間割通りに出席しても面白くないので、俺達4人は部活動をメインにすることにした。ちなみに、数人のユーザは現役の中学生らしく、安価な補習塾として活用するようだ。教師AIは質疑応答してくれないし、寮とかで質問されたら、わかる範囲で教えてやろう。
「先輩面したいだけだろ?」
「そ、そんなことはないですヨ?」
◇
「水はないが、大地はある!」
そう言って、グラウンドで走り込むマリナ。部員AIに計測アプリが付いていたので、俺が測定させられることはなさそうだ。
しかし、妖精アバターでタイムアタックとかやってたし、アウトドア派というよりは熱血タイプなのかな。
「マリちゃん、以前は陸上アニメにハマってて…」
そういえば、妖精が出てくるVRMMO原作の人気アニメもあったな。にわかか。
「マリナは当面は陸上部として、サトミはどうする?」
「もちろん、図書委員です!」
「ああ、委員会も部扱いだったか。図書館ちらっと見てみたけど、書籍が結構充実してたな」
「滞在中に読破してみせます!」
マジか。いやでも、図書委員って貸し出しとかの窓口対応がメインじゃなかったっけか。まあ、借りに来るユーザはほとんどいないか。
「さて、じゃあ次の部室を見に…」
「何言ってるんだ。ユキヤは僕と一緒に軽音部だろ?」
「そう言うだろうと思ったから次に行きたかったんだよ!」
「演奏だけじゃなく、滞在を通していくつか作詞作曲してもらえると嬉しいな」
「俺の仕事は現地支援だけだ!」
「僕も支援対象の通常ユーザだけど?」
「ぬ…う…」
もしかしてマキノのやつ、それを見越して支援役を俺に押し付けたのか?2年目はホントに仕事あるのか?『キャンセルになった☆』とか言って2年目もしれっとダイブする気じゃないだろうな。
「新曲できたら聴きに行きます!」
「あー、あたしも聴いてみたい」
四面楚歌か。
◇
「そういえば、この学園にも生徒会があるんだったな。よし、会長に立候補しよう」
「は?なぜ?だいたい、マキノは2年目いないんだろ?」
「その時は、デフォルトの会長AIに任せるさ」
帰りのHRでの投票で、マキノが当選して会長AIが落選した。なにこの茶番。
「お前の公然の秘密が絶好調ですね。ははは」
「まあ、普段は軽音活動だね。生徒会長やることないし。各種行事での挨拶くらいかな?」
「生徒会予算とかないしな…」
「残念なのは、僕に投票してくれた子たちの多くが、既にログアウトしていることかな」
「あっという間だったよなあ…。せめて、連休が始まる頃まではいてほしかったけど」
あのタカシくんほど早くはなかったが、2~3週間くらいで8人がログアウトしていった。『転入組』が現れるまでは寂しくなりそうだ。
「まあ、リアルの連絡先は交換したけど。メモアプリはあるからね」
「スキャンダルとかやめてくれよ、お前ひとりだけでこのコースの成否に関わる」
「この世界は『接触不可』だろ?」
「リアルでもだよ!」
◇
ボーカルとキーボードだけの軽音とかどうかと思ったが、DTM設備が割と整っていてそれなりに活動できる。マキノに踊らされてる感満載だが。
「ん、下校時刻か。サトミを迎えに行ってくる」
「彼女、読み出すと時間を忘れるからな。『携帯』が使えればいいんだけれども」
「結構不便だよなあ。俺達の時もそうだったっけ?」
「学校は禁止だったが、家や休日では当然使えたな」
家の電話もまだあったしな。
「運営に提案かなあ。いや、マキノみたいなのがいるからダメだな。学校で使えないなら、図書館にいるサトミも呼び出せないし」
「ちっ」
「頼むから、自重してくれよ…」
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