百花繚乱フラワーコマンダー
hyro
Episode1 集うヒーロー候補生
第1話 スーパー戦隊協会
「ハァ」__
草汰は、ジャンパーの胸元を押さえた。
「クソッ!」
反射的に汚い言葉が白い息と一緒に次いで出た。草汰は苛立っていた。たった今、三回目の面接に落ちたところだったからだ。
「あいつら、どこに目をつけてんだ」
この言葉を、面接官が聞いたら、「顔の真ん中からやや上部」と答えただろうか。
草汰が受けたのはアルバイトではない。戦隊ヒーローの面接だった。スーツアクター?__否。文字通りの実際に戦うヒーローとして、面接に臨んだのだった。
現在、日本では未曾有の危機にあった。悪の組織や怪人が増え続け、これらを討伐する人間が必要だった。
当初は警察官を投入して、問題の解決に当たろうとしたが、警察は法規に抵触した人間を取り締まることが任務なので、本来の行政と司法の枠から外れ、管轄省庁の大臣がこれに異を唱えた。
次に、自衛官がこの対応に乗り出すが、国の存亡を揺るがす事案から軽微なものまであり、すべてに自衛官を当てることが不適切と考えた。
その結果、専門の民間業者が戦隊を結成し、戦いを展開し、収束させることが求められるに至った。それが、スーパー戦隊協会の創設だった。
スーパー戦隊は認可制で、戦隊を結成しようとするものが申請をあげ、協会がこれを認可し、登記をすることで初めて、存在が公に認められる。
申請者は戦士である必要はなく、「隊長」「長官」のような戦いをバックアップする側が通例になっていた。申請時点で戦士が揃っている必要はなく、設立後、求人広告を出すなど募集をかけたり、或いは、直にスカウトすることが一般的だった。
草汰は、求人広告を見て、ちゃんと協会が設立を認めた戦隊に応募したのだ。面接で落とされたわけだが。
まあ、不合格に至った理由は分かっている。むしろ、合格する理由がないと言った方が適切だろうか。格闘技を習っていたわけではない。これといった特技も持ち合わせていない。それに、草汰は、高校の卒業を三月に控えた未成年者だ。戦隊は、親権者との確執を嫌う。
「なりてえな。ヒーローに」
草汰の呟きは、喧騒の音に掻き消された。
出会いは衝撃だった。
ボーッと、心ここに非ずといった風体で、余所見をしながら、大通りを闊歩していたときに、事件は起こった。
ドン__。鈍い衝撃音がした。
誰かとぶつかったのだと、頭が認識したのがそれから数秒後。尻餅をつくまではいかないが、体がよろめいて、なんとか、体制を立て直す。自分と相手と、どちらに非があるかは分からないが、謝らないといけないな、と考えたのが、さらに数秒後。倒れた相手に、草汰は視線を向けた。
見た目、どこにでもいるおばちゃんだった。恐い人じゃなくてよかった__胸を撫で下ろす。同時に、可愛い女の子ならよかったと、大変失礼なことを考えた。
「すみません。大丈夫ッスか」
おばちゃんは、買い物帰りだったのだろうか、買い物袋の中身をぶちまけていた。飲料、煎餅やチョコレート等のお菓子類、ティッシュペーパー等、珍しくない日用品の類だった。
「ちょっと、アンタ、あたしのこと、嵌めたでしょ!!」
「いや、そんなつもりないですけど」
面倒くさい人だな、と草汰は思った。とは言え、そのまま、逃げるように立ち去るのは後味が悪いので、落とし物を拾ってあげることにした。
「む?」
おばちゃんが草汰の顔を凝視する。
「むむっ」
おばちゃんがさらにマジマジと、品定めをするように、草汰にピントを合わせる。
「どうかしましたか?」
「あんた、ポチに似ているわね」
犬か。ペットと比較しなくてもいいのに。
「去年飼っていたイグアナにね」
犬ですらなかった…。
「あんた、ちょっと、ウチに来なさい」
唐突だった。これって、慰謝料とか言って金を請求されるクチだろうか。
「あんた、ちょっくら、あたしの戦隊に入りなさい」
おばちゃんの言葉は草汰の常識とか想定をただひたすら、すっ飛ばした。
草汰は、暇を見つけて「ちょっくら」という単語をスマートフォンで検索してみようと考えた。
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